名古屋family's

コーマ11

第1話 悪夢の始まり

「お客様…お飲み物はお決まりですか?」


渋い声でお客さんに尋ねる。

50代のおじさん、豊田牧彦だ。

豊田はこのバーのオーナーである。

静かだが、おしゃれなこのバーではお客さんも数多く来店する。

カランカランとお酒を作る音がよく聞こえる。


「うーん……このカシスオレンジってやつもらおうかな。」


「かしこまりました。……真也くん、カシスオレンジ頼んでいいかな」


「うい」


俺の名前は岡崎真也。

このバーで育ってきて、このおっさん、豊田牧彦さんにやって育てられた。

親の顔も名前も知らないが、おっさんのおかげでそれなりな人生を送っている。

ただ大学にいくお金はない為、おっさんと一緒にバーで働いている。


俺はカシスオレンジを作り始める。


「そういえばさオーナー」


お客さんがおっさんに語りかける。

おっさんはパッと振り向いて少し瞼を開けた。


「ここ近隣のビルや店がなんか最近みんな閉店していくんだよ。なんでかねぇ」


「おや、そうなんですか。確かに言われてみればそんな気もしますね。」


「俺このバーはよ、お気に入りなんだ。何があっても続けてくれよ。でなきゃ、困っちまうぜ。毎日家にまっすぐ帰って嫁さんに怒られてばっかの生活なんかしてちゃ、気狂っちまう」


「あはは、ダメですよ。奥様のたまにも早く帰ってあげてくださいね。これが最後の一杯ですよ」


なんて、2人で笑いあっているのが聞こえた。

楽しそうに話しているななんて聞いているのと同時にカシスオレンジが完成した。


「こちらカシスオレンジになります。」


と言って机の上においた。


「おう、ありがとうよ」


これが21時くらいの話だった。


***


「ういーすっ!」


「こんばんはー」


2人の青年がバーに入ってきた。


「おー! お前ら! ちょっと待ってくれよ! すぐに準備する!」


この2人は俺の友達である。


片方のメガネをかけた金髪のちょっとチャラそうなやつはこれでも某愛知県で1番頭の良い大学、N大学の生徒だ。名前は豊川修斗だ。

ただN大学にはめったにいない、タバコ好き、女好き、ギャンブル・アルコール依存症ということでまぁ大学では上手くいってないらしい。


片方の赤髪のパーマは瀬戸大輔。

小さな頃から持病があって、長距離運動などはできないが、なぜかテコンドー全国2位の実力者。

高校時代、持病がきっかけでいじめられていて、こいつからしたらまぁ余裕だったらしいが、実際それがきっかけで大学には行かなかった。


この2人は俺の親友で今からクラブにでも遊びに行こうかなと思っていたところだ。


早めに支度をした。


「んじゃあ、おっさんちょっといってくるわー」


「はい」


バーの玄関を開けようとした時、スーツ姿の男性3人が入ってくるのが見えたため、先に男性たちを店に入れた。


「ありがとうございます」


と、軽くお辞儀をされた。

そして、俺らもすぐにバーを出ようとしたその時、後ろから、


「このバーのオーナー、豊田牧彦様ですね?」


と声が聞こえた。

俺は一応、唯一の従業員である為、聞いた方がいい内容かもと思い、瀬戸と豊川を座らせておいて、話に入った。


男性3人、みんなサングラスをしている。

真ん中の男性が話していた。


「このビルを買いたいんですが、いかがですか?」


との内容だった。


「いやいや、俺とこいつはここで働くことで生活しているんだ。これが奪われちまったら生きていけない。申し訳ないが、このビルを渡すわけにはいかない」


とおっさんは俺を指差して行った。

ただサングラスの男性もニヤニヤしながら、


「お金だったらいくらでも……」


と言った。

瞬時に、おっさんが、


「出せるわけないでしょう。何者ですかあんたら」


と軽く睨みつけた。


するとサングラス3人組も瞬時に笑いながら名刺を胸ポケットから取り出した。


「私たちこんなものでして」


そこには''TOYOPA"と書かれていた。

あの大手車メーカーのことだ。

TOYOPAのものとなれば話が違う。

お金がいくらでもあるというのは現実的だし、まぁ協力しても利益がありそう。

ただそれよりも協力しない訳にはいかないの方が強い。

あの大手を敵に回したらどうなることかわからないからだ。


「TOYOPAの者ですか! 一度お掛けください!」


と俺が対応しようとすると、おっさんが、


「真也くん、ちょっと待ってね」


と俺に声をかけたあと、男性たちを睨みつけた。


「おい、お前らがTOYOPA? 嘘をつくのはやめろ」


と言った。


男性たちもすかさず、


「あん?」


と喧嘩腰になった。


「あんたら同じスーツだよな。んでよぉ、さっきからちょろちょろちょろちょろ首元に黒いのが見えるんだよ。最初は真ん中のお前から見えたからホクロかなんかかと思ったけどヨォ、3人からそれぞれ同じくらい、同じ場所から見えるんだよなぁ」


おっさんが言った。

この時点では俺らは何を言いたいのかわからなかった。


「テメェ何が言いてえクソジジイっ!」


男性もすっかりヤンキーが出てしまっている。


「墨……いれてんだろ」


3人は図星のように黙り込んだ。


「しかも3人同じの。いやぁ、TOYOPAってそんなことすんのかね。社員全員に墨入れなんてねぇ……」


おっさんは目つきを変えて言った。


「小賢しい真似すんじゃねぇよ」


すると男性3人はそれぞれ、


「こんなことしたかなかったけどよぉ。言うかと聞かねぇならしゃーないなぁ」


と言って、ナイフを取り出した。









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