Back Room

翡翠 珠

The backrooms

『なあ知ってるか?世の中にはがあるらしいぜ』

『ズレ?』

『ああ。ゲームのバグみたいな。んでもって現実から外れて、落ちるんだ。するとそこには謎の部屋が……』

『なんだよその馬鹿げた話。ありえないだろ』

『まあそーだよなあ……』


 ……なんて会話をしたのが数時間前。

 まだ学校にいた時だった。

 今はどこにいるのか?ああ。どこだろうな?

 ここ。


 古くて湿ったようなカーペットの匂い。単調な黄色の壁紙とカーペットが延々に続いている部屋部屋へやべや。あとはやたらうるさい蛍光灯。


 どうやってきたのか?

 なんか風呂入ろうとして脱衣所に行ったら。そのままの意味で。

 床をすり抜けた?って言うのかな。

 んで着地したと思ったらここ。

 …………なんか不気味な空間だな。


 ジーーーッとなっている蛍光灯の音を聞きながら歩く。

 進んでも進んでも変わらない景色。

 右、左、前、左、前、右。曲がり角の度に適当に進む。

 夢か?

 そう思った矢先、目の前……と言うよりは奥の奥、7個分程の曲がり角の先に、が居るのが見えた。


 黒い……何かが絡みついている大きな人間……?

 とにかくマズイ。あれに見つかったら死ぬだろう。本能がそう告げる。慌てて曲がり角で身を隠す。


「……Hello?」


 突如として聞こえた声に驚いて振り向く。

 そこには白く長い髪の毛の少女が立っていた。


「な、だっ誰?」

「………………こっちか。えっと…私はロスト。この場所、【Backroomバックルーム】の……、まあ案内人かな。」

「案内人……?それに【backroom】って……」

「そうだね、まずはその説明。

【backroom】、正式名称は【The backroomsザ バックルームズ】。簡単に言うならインターネット都市伝説だね。元は海外の掲示板に貼られた画像なんだけど……。

 の人はコラ画像だとでも思ったんだろうね。深く考えてなかった。

 けれど【backroom】は実在した。君がここにいるのが何よりの証拠だよ。つまり、最初、画像を貼った人物は助けを求めていたかもしれないね。

 まあ要はここは現実の外側。私がいないとすぐ死んじゃうかもね。」

「そ、そうだ!さっきの……なんか黒いやつ……」


 そう喋る俺の口元に手を当てて、『静かに』と言うジェスチャーをする少女、ロスト。


。近くに。」

「なっ……。さっきの……?」

「うん。バクテリア、もしくはハウラー。黒い棒が絡まった棒人間みたいな見た目でしょ?見つかったら……」


 そうロストが言った途端、とてつもない大きさの遠吠えのような、そんな声が聞こえた。


「っ!走って!!こっち!!」

「っは!?」


 そう言われてとにかく走る。

 ロストの後ろを。

 右、左、前、左、前、右、前、前。

 後ろを確認す――――――――!?

 何だ!?あれ!?

 先程見た生物がそのまま追いかけてきている。

 なんでこんなことに!?

 普段ならここまで走れないだろう。

 ドーパミンだろうか。アドレナリンだっけ?

 まあいいや。から逃げれるなら。


 未だに遠吠えがする。


「こっち!」


 ロストが扉を開けて言う。

 遠吠えがすぐ後ろまで迫っていた。もはや遠吠えじゃない。


 俺が扉をくぐった瞬間にロストが勢いよ閉める。


「はぁ……!はぁ……!!はぁ…………」

「まあ見つかったらこうなる。」

「シバくぞお前!!」


 ――――――――――――――――――――



 あなたが注意を怠って、おかしな所で現実から外れ落ちると、古くて湿ったカーペットの匂いと、単調な黄色の狂気と、最大限にハム音を発する蛍光灯による永遠に続く背景雑音と、約十五兆 m2 を超えて広がるランダムに区分けされた空っぽな部屋部屋へやべやに閉じ込められるだけの、 "The Backrooms" へ行き着くことになるのです。


 もし、近くで何かがうろうろしているのが聞こえたら、それはきっとあなたが出す音に気付いていることでしょう。あなたに神の救いがあらんことを。


 ――ある掲示板より。

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