フィクション日記

津和崎タオ

明日と昨日と券売機

時折くる眠れない夜をどう過ごそうか悪戦苦闘している中、私はふと日々の日記をつけることにした。

自堕落に過ごす日々をちょっとした習慣により生活態度を見直そうという浅い魂胆でもあった。

とはいえただ日記をつけるのもどうにも味気なく感じ、創作と実際の出来事を混ぜこぜにした日記のようななにか、を作ることにした。

さて、今日あった出来事といえば今流行りのゲームの対戦会に行くために秋葉原に行ったことくらいだろうか。さて、今日はこの話を少し歪めて話してみよあと思う。




数ヶ月ぶりの秋葉原は相変わらず客引きメイドや海外からのの観光客がひしめき合い、日本人を探す方が難しいそこは、もはやは日本だと自信をもって言えないほどだった。

喧騒の中、目的地に歩く途中、裏路地に入った私は道を間違えたことに気づいた。どうやら曲がり角を一つ間違えたらしい…。

久しぶりにくると土地勘というのも消えるようだ。

元の街に戻ろうとした矢先、ふと行き止まりの道の真ん中にあった一つの券売機が目に留まった。

裏路地とはいえ道の真ん中にポツンとあるその券売機は、異様な存在感を放っていた。近くに飲食店の類はなく、何のために存在しているかわからないそれは私の興味を引くには十分なものであった。

それにはボタンは二つしかなく、それぞれに(明日)(昨日)と記載されている。値段の表記はなく、金銭の投入口もない。商品のディスプレイはなにかで真っ黒く塗りつぶされており、一体誰が何の目的で設置してあるのかわからない。

それに、私は好奇心を抑えられなかった。

ものは試しと(昨日)のボタンを押してみた。1度、2度ボタンを押してみる…まるで反応がない…。

音もなく、何も出てこない。いや、よくよく見れば何かが出てくるようなところもない。ああ、恐らく最近設置されたアニメのタイアップかなにかの観光スポットの一つなのだろうな。そう思った私は本来の目的地に向かうことにした。

ふと、振り返ると先ほどまでと周りの風景がガラッと変わったような気がした。いや、風景は全く変わっていない…では何が変わったのだろうか。

それに気づくのにそう時間はかからなかった。やはり風景は変わっていなかった。



変わったのはただ一つ、高さが変わっていた。物を見る視線の高さ、私の姿勢が伸びていたのだ。歩きながら私は3日前に別れた彼女のことを思い出していた。あぁ、そういえばあれもこのくらいの時間だったな…


元に戻った風景を一瞥し、(明日)のボタンを押したくなった私が振り返ると券売機は陰も形もなくなっていた。

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