英雄王の逃避行

はた

第1話 英雄の末路

 かつて、国を脅かしていた魔王がいた。その強大な力の前に屈する他ないと思われていた国民たち。しかし、その中で立ち上がる若者たちがいた。


 彼らは傷つきながらも苦難を乗り越え、ついには魔王を討伐し、国に平和をもたらした。


 中でも先頭に立ち、無類の強さを誇った剣士ハルバードは「英雄王」と讃えられ、次期国王として目されていた。


 しかし、それを良しとしない輩がいたのもまた事実である。


「ハルバード…この男は危険極まりない」


「そうだな、いずれ我々の地位を脅かすであろう」


「何か手を打つべきだな。首を取るのも止む無し…」


 二十四階上層部。


 ハルバードが救ったバンカスター王国の最高幹部たち。事実、バンカスター王国の政治は彼らが行っていた。王はただの飾り。操り人形に過ぎなかった。


 彼らは魔王以上の力を持つ英雄王を危険視した。ついには彼をいわれのない罪で国外追放。さらには破格の懸賞金を賭け、命を奪おうとしている。こうして英雄王は大罪人として、追われる身となってしまった。


「…さて、どうしたものか…」

「…正直に言うと、こういうシナリオも予測出来ていたな」


 切り出したのはハルバードとは旧知の仲で戦友の戦士ランデイズ。それに応じたのは、頭のキレる銃士ジャンク。


 ハルバードを囲み、人の少なくなった酒場でこれからを案じ、飲んでいた。


「俺は…この国を出るよ」


 ハルバードは腹をくくっている。大切な愛する祖国だが、その国が彼を拒んでいる。…それはどれほど辛いことであろうか。


「…そうだな。このままだと、多くの民が犠牲になるかもしれない。それは俺たちの本意ではないもんな」


 ランデイズはハルバードの苦渋の決意を飲み込んだ。


「それでも、俺たちは戦友だ。例えどこまで離れようとな、ハル」


「…ありがとう、ランディ、ジャンク」


「ひとまず別れの盃だ。友に幸運のあらん事を…」


 その日の酒はひどく苦い味がしたように感じた三人だった。


 そして、酔いも冷めた朝霧の立ち込める早朝。ハルバードは祖国バンカスター王国を離れ、北の地へと向かった。


「…行ったか」

「ああ」

「ひとまず策の通りだな」


 この時、ランデイズとジャンクは二十四階上層部に手籠めにされていた。


 二人は士官の地位を約束される代わりに、ハルバードの首を売ったのだ。

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