『仮死ニゼーション』その③
ええとやけ酒したら朝まで寝ちゃって、それで目覚めたらカニでやけ酒して、そしたら鋏が
嵐「つまり?」
楓「私は楓・ステファニー。今日からカニ」
にわかには信じ難いと思うけど、そういう他ないだろう。
嵐「いやいやいやいやいや! 確かに私の魂はお前を楓・ステファニーだと言っているけどさぁ。視覚情報がそれを否定しているんだって!」
楓「嵐メイ、25歳、交際歴無し、日記の隠し場所はパソコンケースの中、お風呂は右足から洗って右足から浴槽に入る。趣味は洋楽を聞きながら散歩して自分が主人公のMVを妄想すること。体重」
嵐「わかったわかった! わかりましたー!」
照れ隠しに両腕を振り回す。
……私を抱えていることを忘れて。
ちなみに51kgだ
嵐「ぎゃぁぁ!」
楓「やめてっ」
冗談ではなく!
水(と酒)で湿った私の甲羅は存外滑りやすく、貧弱な嵐の握力では吹き飛ばされかねない。
握り変えそうにも鋏でやるわけに行かないし。
はたして嵐の指がほどけ、私は宙を舞う。
嵐「南無三!」
楓「諦めんな嵐のばーか!」
とはいえ嵐も鬼じゃない。重力に引かれる私に飛び込んで追いつき、なんとか胸元でキャッチした。
キャッチしたのは良いのだけれど、勢いを殺せずそのまま床へ急降下。
楓「メイ! クズでごめんね大好きだよ」
遺言は間に合った。
どんがらがっしゃーん、と派手な音を立てて倒れる。
空き缶とかが押し退けられて壁へ飛んでいく。
嵐「いてて」
私を守ろうと身を捩って左肩から行ったらしい。
私を抱きしめたまま右手で擦っているが、さっき聞こえた「ボキ」という音がそこから聞こえたのなら折れているかもしれない。
楓「ありがと嵐、私は無事。左の筋動かすの無理?」
嵐「折れてはないと思う……多分」
半身を起こして、恐る恐る掌をグーパーさせて見せる。一応湿布とか張ったほうが痛くないかもしれないが。
手持ち無沙汰になって、とりあえず嵐の膝の上に転がっていると、玄関ドアのベルが再び来客を告げた。
鰐「コーネリアスさんが来たぞ!」
鼠「フレデリックもいまーす」
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