第45話 太陽へ

「さて。革命軍がよく知っている冥土ネザーランドと違い、ルピルが向かう太陽は全くの未知の世界だ。辿り着いてから、コアまで行けるのか。用意した防護服で熱と光に耐えられるのか。行ってみなければ分からない」

「うん」


 ユリウスが説明する。その間、ボロボロのワンピースだったルピルに、八芒星ベツレヘムから派遣されてきたメイドが王族の公務用ドレスを着せていく。


「だがネザーランド月下の話では、そこに『監視者』が居るということだ。つまり、俺達金烏玉兎の民を『虚空界アーカーシャの檻』に閉じ込めた奴らの仲間が」

「うん」


 太陽に居ると予想される『監視者』は、太陽の磁力と重力の操作も行っている。そして強烈な光と公転によって聯球儀イリアステルを監視している。


「それって、虚空界アーカーシャの外から来た人達が、太陽に入ってるってこと?」

「ああ。兎も角、俺達の監視の使命を受けている。そいつらが太陽と『外』を行き来できるかは知らないがな」

「分かった」


 準備完了。ルピルは研究員達や戦闘員の革命軍兵士達に迎えられ、虚空船ヴィマナへ乗り込む。星間車1台程度の大きさの、小さな虚空船ヴィマナだ。白い星鉄で出来ており、王族用に相応しい飾ったデザインをしている。


「あたしも行く」

「リリン?」

「妾もじゃ」

「えっ」


 そこに。

 リリンとアナが、詰め掛けた。


「ルピルが太陽の加工に能力を使い切っちゃったら。もうひとり鉄ウサギが居た方が良いでしょ?」

「妾の月沙レゴリスも何かの役に立つじゃろう。太陽の熱を遮るとかな」


 皆は驚いたが。彼女らを止める者は居ない。


「姫様」

「ワタオ。お主は付いてくるなよ。タイシャクテン家に戻れ」

「…………かしこまりました。ご武運を」


 無理矢理乗り込んできたふたりは、ルピルと目を合わせてウインクした。


「道中、可能な限り通信機でサポートしよう。ルピル。頼んだぞ」

「うん」

「ルピル!」


 最後に。

 キルトとエリーチェが。


「兎に角、無事で帰ってこい。本当は俺も行きたいんだがな」

「うん。ありがとうキルト」

「ルピル。ごめんね。私、あんまり役に立たなくて」

「そんなことないよ。エリーチェのお陰で僕が役に立つんだから」


 ふたりと皆に手を振って、虚空船ヴィマナのハッチが閉じられた。






***






 止めどなく降り続く流星鉄雨メテオシャワーの間を縫い、高速虚空船が発射した。


「…………」


 ルピルとリリン、アナは客室で待機を命じられていた。何故か備え付けられていたシャワールームで身体を洗い、リリンが慣れた手つきでルピルの髪を梳いている。


「僕ら、何もしなくて良いの?」

「そうじゃ。太陽に着くまではやることが無い。計算やらなんやらは、賢い研究者連中に任せておけ」

「ふうん」


 アナは手癖で月沙レゴリスを指で弄っている。小さく開いた丸い窓から、虚空界アーカーシャを流れる流星鉄雨メテオシャワーが見える。


「ごめんねアナ。月面都市グルイテュイゼンで」

「気にするな。それより仲良いのう。お主ら」

「ふふん。あたしは毎日ルピルの髪結ってたし〜。もう姉妹みたいなものだし〜」


 まるで女児が甲斐甲斐しく人形の世話をするように。ルピルもルピルでされるがまま無抵抗である。


「リリンは世話焼きなんだよね。別に僕だけじゃないよ。労働孤児皆のお姉ちゃんみたいだった」

「ええ〜? そうかなあ?」


 リリンは上機嫌だった。ルピルも安心して身を委ねている。


「でも良かった。またこうして、リリンと普通に話せて。革命軍に居た時は、ちょっとピリピリしてたし」

「……うん。あたしも。ねえ、キルトとエリーチェは、その。元気?」

「うん。ふたり、まだプレゼントあげたくらいで進展はしてないけど。多分お互い意識してる。良い雰囲気だよ」

「へえ〜! そうなんだ。ふ〜ん」

「そういう話好きだよね。リリン」


 ここだけ、あの工場や女子寮に戻ったような錯覚を起こした。あの頃。毎日大変だったが、皆と暮らしていた労働孤児の時代。


「…………ねえ、ルピル。全部終わったら、どうするの?」

「ん……」


 一転、話は今後のことへ。


「革命軍は、もう辞めるよ。気持ちの整理はついたから」

「うん……」

「それで。ユリウスさん達も受け入れてくれてるから。多分、一緒に研究を手伝うと思う。元々、ユリウスさんに命を助けられて、その恩返しの途中でもあったから」

「……そう」


 リリンは不安だった。ルピルには、やりたいこと、やるべきことがあるのだ。居場所があるのだ。


「……あたし、どうしよう」

「一緒に行く?」

「でも……。ママも居るし、クーロンは革命軍を辞めないわ」

「そうだね。心配?」

「…………うん」


 元労働孤児の中で、リリンだけが、夢を抱いていない。

 いつも元気で皆を引っ張る、クーロンのことが気になっていただけで。


「だってあいつ、いつも危険な戦線に出ようとするし」

「うん」

「俺は大丈夫だって。何も根拠無いのに」

「うん」

「…………」


 リリンの性格的に。

 答えは既に決まっていた。


「でもさ。革命はもう終わったよね。八芒星ベツレヘムを討つ必要は無くなったし。解散するんじゃないの?」

「あ……そっか」

「多分、ミミさんは月教に戻ると思うけど。リリンは別に教徒じゃないんでしょ?」

「ええ。あたしは別に……。リーダーにはお世話になったし感謝してるけど」


 クーロンの隣で、世話を焼き続ける。それが、リリンの生き方なのだと。


「良いじゃん。クーロンにまだ気持ち、伝えてないんでしょ?」

「うっ……」


 ぴたりと。ルピルの髪を梳くリリンの手が止まった。


「エリーチェに先越されるよ」

「ううっ。そ、そういうルピルはどうなのよ! 誰か良い人居ないのっ?」


 ルピルは。

 リリンが止まった隙に振り向いて、目を合わせた。

 にやりと。


「僕は関係ないよ。リリンとクーロンのことだからね」

「うううっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る