僕の青春下剋上

うりわさび

プロローグ


 ――これは、僕が高校1年生だった時の話である。


 「じゃあ次。200メートルリレーの走者を決めようと思う」


 体育会系の体育委員の男女2人がクラスを仕切る。

 対して空気となっている僕は窓の外を眺める――


 「後一人か……」


 ――やばい、寝過ぎた。

 僕は状況確認のため周囲を見渡す。黒板には男子4✕200メートルリレーに3人の名前が書かれていた。どうやら後1人だけらしい。


 「誰か、いないか?」


 体育委員が眉を寄せながら言う。


 「そういや東川、中学の時陸部じゃなかった?」

 「え……」


 突如クラス中の視線が僕の方の向く。驚きとかの気持ちより、面倒くさいという気持ちが強かった。

 たしかあいつは……中学が一緒だった陽キャか。


 「そうなのか、東川君?」

 「そうだけど……」

 「じゃあ、お願いしてもいいかな?」


 僕の否定の言葉を聞かず、体育委員が圧をかける。


 「いや……それは……」

 「いいじゃん! 東川くんやりなよ」


 クラスの1軍女子が言う。正直、がたいのいい男子より、こういう女子の方が怖い。

 そいつの言葉により、クラス中の期待が僕に集まる。


 「僕は……」

 「決定ね!」


 そう勝手に決めつけ、女子体育委員が黒板に僕の名を書く。


 「あ……」


 ――そして体育祭を迎えた。


 うちのクラスは運動部が多かったからか、かなりの高得点を取っていた。


 そして僕の出番だ。僕はリレーで3走目。

 1走目、2走目のクラスメイトはクラス中からの歓声を浴びながら、1位を走り続けていた。


 「東川、パスっ!」


 僕は段々スピードを上げながら手を後ろにして、バトンを受け取――


 「「あ」」


 バトンの先端は、僕の親指に触れて、落ちた。

 拾う間に、みるみると抜かされていった。そして現役帰宅部の僕が、運動部の奴らを抜けるはずもなく……クラスの前を走る時、その静寂に僕のメンタルは少し砕けた。


 気のせい、偶然、誰も僕に興味ない……そう思ってなんとかメンタルは保たれていた。次の日までは……


 その日も何も考えずに教室の前に来た。


 「東川、マジありえなくね?」


 それが聞こえて足を止めた。


 「あいつがバトン落とさなきゃな……」「てかそもそも足そんな速くねえし」「やめなよ」「普通に戦犯だろ」「普段目立たねえから目立ちたかったんだろ?」


 は? なんだよそれ。自分らが勝手に決めて、何勝手なこと言ってんだよ。

 心の底から湧き上がってくる大量の怒り、憎悪、嫌悪、失望……。


 それから僕は、クラスの浮き者から腫れ者になった。


 ……許さない。僕のメンタルをずたずたにしたこいつらを許さない。


 だが復讐するためには僕自身が奴らよりも上位のカーストに上らないといけない。


 ――これはスクールカースト最下位の俺が、下剋上する物語だ。

 

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