第59話 各々の反省会

「あーん、本当にごめんなさーい! 悪気はなかったんです。ボクはただ、杏樹ちゃんが可愛いなーって思ってただけで」

「だからって本能のままに行動したらダメなの! もう、杏樹ちゃんは絋さんの彼女なんだから、下手に手を出したらケチョンケキョンにされて追い出されちゃうよ?」


 おそらく時間をおいて再開されたのだと思うのだが、シェアハウスに戻ってきても尚、千華さんの説教タイムは繰り広げていた。

 それにしても何だろう、この緊迫感のない説教は……。


「シユウさんも絋さんと杏樹ちゃんのイチャイチャを見ていたいなら、そっと見守っていなきゃ! 私も崇さんも壁になって応援してるんだよ? それを邪魔するっていうのなら……私も遠慮しないですからね?」

「それはご勘弁を! ボクもあのトロトロで甘ーい雰囲気が大好きなんです! 見守り続けます!」


 ——え、俺達って皆に見守られていたのか? っていうか、全部筒抜けなのか?


 俺と杏樹さんが呆然と立ち尽くしていると、俺達に気付いた崇が「おかえりなさい」と声を掛けてきた。


「満足そうな、いい顔して帰ってきましたね。随分とお楽しみになったようで」

「おい、崇。それはセクハラだぞ?」


 朝帰りしておきながら何を言ってるんだ自分とも思うが、杏樹さんの手前では言わずにいられなかった。


「あぁぁー、杏樹ちゃんゴメンナサイー! ボク、ついつい可愛いものに目がなくて。KOWさんも許してくださいー!」


 そんなシユウの態度に、俺も杏樹さんも顔を見合わせて困ったような表情を浮かべていた。


「別に許す許さないのレベルまで怒ってはいねぇけどさ。杏樹さんは俺の彼女なんで、あまりちょっかいは出さないで欲しいです」


 真面目な言葉に固唾を飲む一同。

 え、もしかして俺、らしくないことを言った?


「あの、私も! やっぱりシユウさんの諦めたくない気持ちも分からないでもないんですが、彼女の立場からしてみるとスゴく不安で……。やっぱり諦めて欲しいです」


 そう、できればそっとしていて欲しい。

 するとシユウは諦めたように唇を噛み締めて、何度も深く頷き始めた。


「ボクはKOWさんの作品が本当に好きで。こんなふうに世界を見えるKOWさんも本当に尊敬していて。でも、それは隣に杏樹ちゃんがいるからだってことも分かったし。きっとボクじゃこうはならないんだろうなって諦めもついた。悔しいけど叶う気もしないし、二人の雰囲気も壊したくないかも。でもねボクは二人のことが本当に大好きだから、もし良かったら友達としてこれからもお付き合いしていきたいんだけど、だめかな?」


 まぁ、それならいいかな。

 口角に優しい笑みを浮かべた杏樹さんをみて、俺もシユウに手を差し伸べて「これからもよろしくお願いします」と握手を求めた。


「でも、本当に絋さんに手を出したらダメですからね? もし絋さんに手を出したら私……シユウさんのこと嫌いになります!」

「やだー、杏樹ちゃん! それだけはご勘弁を! ボクは杏樹ちゃんのことも好きなんだってー。むしろ抱き心地とかは杏樹ちゃんの方が気持ちがいいし、杏樹ちゃんの方が好きかもしれない」


 満更でもないシユウの表情を見て危機を覚えた俺は、杏樹さんを守るように抱き寄せた。


「そんなん、どっちかというと俺のライバルじゃん! 杏樹さんは誰にも渡さねぇからな! っていうかさ、シユウって一週間の契約じゃなかった? もう退去しなきゃいけないんじゃねぇの?」

「え、嘘。もうそんなに経つ? うわぁ! ボクもココに住みたい! ねぇ、四人ともボクの家に住まない? 家事さえしてくれたら家賃も光熱費もタダにしてあげるからさ?」


 シユウの提示した条件はかなり魅力的ではあったけど、俺も崇も丁重にお断りをした。

 特に崇は千華さんとも未来を歩み始めなければならない。


「元々は一年の予定だったんだけど、俺と千華さんは年明けに引っ越そうと思うんだ。この生活も楽しかったけど、流石に家族が増えるのにシェアハウスって言うのは締まりがないっていうか」


 寄り添って告げられた言葉。

 そしてお腹を摩る千華さんを見て、杏樹さんとシユウは大袈裟なくらい歓喜の声を上げた。


 そう、千華さんのお腹には新しい命が宿ったらしい。安定期に入ったら引っ越したいと相談されていたのだ。


「全然気付かなかったです! お腹目立たないですね」

「私もそう思った。全然妊婦らしくないけど、ちゃんと育ってるよ。まだ心拍が確認できただけだから、油断できない時期なんだけどね」

「いいなー、私も絋さんと……」


 コラ、チラチラ俺を見るな。

 大体杏樹さんと俺は始まったばかりだと言うのに、崇と千華さんと同列に考えるなんて気が早いのだ。


「——ってことは、シェアハウスに空きが出るってことですよね? ハイハイハイ、ボクが入居します!」

「あー、別に入ってもいいけど、俺と杏樹さんも一緒に退去するよ? そもそも崇達だから入っただけだし。シユウはともかく他の人と生活するなんて気疲れしそうだし」

「えぇー、待ってくださいよ! そんな殺生な!」


 ってことで、シェアハウス一期生はクリスマスを最後に終わりを迎えることとなる。数ヶ月だったが、色んなことがあっていい思い出になった気がする。——変なことも多かったが。


「そのクリスマス、ボクも一緒にお祝いしたい! それくらいはいいでしょ? ダメ? それもダメ?」

「いや、それはいいよ。シユウもシェアメンバー(仮)だし。ぜひ参加してよ」

「ヒャッハー! やったぁ、やったぁ♡」


 こうして一先ず俺達のシェアハウス生活は、終止符を迎えようとしていた。


———……★


「え、崇達って結婚式は上げないん?」

「あぁー……、結婚式は子供が大きくなってからしようかなって。意外とそういう家族も多いみたいで」



とに可愛では春樹達の前で爆弾発言で報告した妊娠でしたが、ちょっとイフ世界ってことで。

美男美女のクリスマスパーティー、楽しく描きましょう✨

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