第28話 やっちまった……【♡有】

 ロリ巨乳女にキスされてから、俺の思考は完全に闇堕ちしていた。


 いや、キス自体は事故のようなモノだから気にしていない。問題は個人情報を盗まれたことだろう。


 実際はLIMUにフレンド追加されただけなのだが、奴は確かにこう言った。


『家まで押しかけるからね』


 行動が不自然だとは思っていたのだが、まさかこんな結果になるなんて誰が想像しただろうか?


 困る、非常に困る。

 俺は杏樹さんを幸せにすると決めたのに。彼女を悲しませるようなことはしたくないと誓ったばかりなのに。


 まともな思考回路が働かなくなった俺は、よりによって奴に助けを求めてしまった。

 そう、アイツ……中学時代からの親友、慎司だ。


 だが藁にも縋る思いで助けを求めた俺は、見事に木っ端微塵に蹴り落とされてしまうこととなった。


「は? 出会い頭に助けを求められた巨乳ロリ美少女にキスされて連絡先を渡された⁉︎ お前……っ、杏樹ちゃんはどうしたんだよ! 浮気か? 浮気なのか⁉︎」

「浮気じゃねぇーよ! 困ってるからこうして相談してんじゃねぇか!」

「うるせぇな! テメェみたいな糞野郎は地獄に堕ちろ! 俺が杏樹ちゃんに報告してやる!」


 ヤメろ! 慎司が絡むと余計に面倒なことになりかねない!


「そもそも家に突撃されて困るのは杏樹ちゃんにバレたらってところだろう? あのな、杏樹ちゃんを悲しませたくないからってズルズル連絡を取り合うのは悪手だぞ? 寝取られるぞ? 骨の髄まで吸い取られるぞ? お前のなけなしの貯金も全部奪われるぞ?」

「けど、素直に言ったところで杏樹さんを悲しませるだけじゃ?」

「この糞野郎! そんなんのはなぁー、テメェの勝手な思い込みなんだよ! 今、杏樹ちゃんが一番悲しい事実は何だ? お前がロリ美少女とキスしたこと? 違うな、お前に秘密にされて影でコソコソされていたっていう事実だよ‼︎」


 だが、時には人に優しい秘密っていうのもあるんじゃないだろうか?


「糞ポンチン! お前が杏樹ちゃんのことだけを大事にしているなら、たとえ100人の女とキスしたってどうってことないんだよ! なんでお前みたいなのがモテて、俺に彼女が出来ないのかが不思議でならない……。もういい! テメェみたいな糞は、さっさと振られて海の藻屑となれ!」


 直訳すると誠実であれ……と言うことなのだろうか?


 慎司の言葉を胸に秘めつつ、俺は帰宅して晩御飯の支度を始めていた。

 コトコトとシチューを煮込み、サラダを作って。


「あぁ、俺はどうすればいいんだろう……」


 勝手にされたとはいえ、他の女とキスするような男は嫌だと幻滅されるだろうか?


 うだうだ悩んでいる間に、ドアの開く音が聞こえてきた。誰かが帰ってきたようだ。


「絋さん、今、帰ってきました」

「杏樹さん……、おかえり」

「はい、ただいまです」


 リビングに顔を覗かせたと同時に、天使のような笑みを浮かべて、心が洗われるような清々しい気持ちになった。

 彼女はクンクンと鼻を嗅ぐんで、俺の方を見てきた。


「今日のご飯はシチューですか?」

「正解、崇と千華さんは遅くなるって連絡が来たから、先に食べておこうか?」


 すると更に嬉しそうに笑みを浮かべて、そのまま背伸びをしてきたかと思ったら、チュっと唇の真ん中辺りにキスをしてきた。


「え……?」


 あまりにも自然なことすぎて、目を丸くしてしまった。


「ただいまのチューです。それじゃ、服を着替えてきますね」


 あんな出会い頭痴女と比べちゃいけないと思いつつ、なんて可愛いんだ、杏樹さん!

 いくらキスまで許したとはいえ、こんな簡単にしてくるとは、全くもってけしからん奴だ。


 だが、こんなことは序章に過ぎなかった。

 杏樹さんはシチューを温めている間にも、皿に注ぎ終えて渡した時にも、隙あらばキスをしてきた。


 しかもそれは二人きりの時だけでなく、崇や千華さんが帰ってきてからも、チュッ、チュ続いたのだから困ったモノだった。


「ねぇ、絋さん。この動画って可愛くないですか?」

「え、どれ?」


 ソファーに座っている俺にスマホを見せてきたその瞬間ですら、触れるようなキスをしてから動画を見せてきたのだ。


「ね、すごく可愛いでしょ?」


 杏樹さんのスマホの画面にはハリネズミがチョコチョコチョコっと動いていたが、ぶっちゃけ動画の内容なんて全然頭に入ってこなかった。


 KAWAII! ハリネズミよりも杏樹さんの方が何百倍も可愛い‼︎


 しかもキスの後、ものすごく嬉しそうな顔を浮かべてはにかんで笑うのが、この上もなく愛しいのだ。


 抱き締めたい、押し倒したい……!

 でも押し倒したら歯止めが効かず、最後まで致すことになるだろう。


 そんな俺の葛藤も露知らず、俺の二の腕にちょこんと頭を乗せて、ギュッと抱き枕状態で無防備な寝顔を晒してきた。


「絋さん、大好き……」


 嘘だろう、慎司……! こんな幸せそうで、俺を信じきっている彼女に『他の女の人とキスして連絡先を盗まれました』って言うのか?


 ダメだ、タイミングがない!

 終始甘々な空気で、切り出すことができないんだけれど?


 すると、いつの間にか目を開けていた杏樹さんが、俺の服をツンツンと引っ張って、ねだるようにく唇を尖らせてきた。


「絋さんからもして欲しいんですけど……ダメですか?」


 ダメじゃない! けど、すぐ近くに崇達もいるのに?

 だが、可愛くお願いする杏樹さんを待たせるわけにはと、隙を見て触れるようにキスをした。


「……へへっ、今、スゴく幸せです♡」


 杏樹さんが嬉しそうになればなるほど、俺の罪悪感は溶けた鉛のようにドロドロと重みを増していった。

 そして俺はこの状況に感化され、ロリ巨乳が言っていた言葉をすっかり忘れていた。



『ちなみにブロックとか無視とかしたら、家まで押しかけてあげるからダメだよォ♡』



 ———……★


 慎司「あぁ、もう! ダメだな、あの腐れ脳みそ野郎。やっぱりここは俺がバシッと言ってやらないとダメなのか?」


 慎司はともかく、次は莉子のターンです(笑)……と、その前にイチャイチャをもう一回。

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