第22話 チュッ、チュ…… 【♡有】
彼女の頬骨、耳たぶ、そして頬の辺りに唇を押し当てて、そのまま身体を抱き締めた。
シャンプー特有の爽やかな柑橘系の香りと共に、杏樹さんから発せられた甘ったるい香りが交じって鼻腔を突き抜ける。
細い腰、触れると気持ちがいい柔らかい髪。そして布越しに伝わる彼女の肌の柔らかさと体温に、眩暈を覚えた。
きっと今の俺は、お酒に酔っているんだ。
それとも崇達に感化されたのか——……。
どちらにせよ歯止めの効かない状況に、自分でもどうしようもなくて。その癖やめたくなくて、このまま杏樹さんの反応を待っていた。
拒まれたら直ぐにやめよう、なんて。何て他人任せな卑怯な男なのだろう。
こんな男に杏樹さんが穢されるなんてあってはならないことだって頭では分かっているのに、やめられない。止められない。
「んっ、ふぁっ! こ、絋さんダメ……くすぐったい」
首筋に沿って降りていく舌の感触に、満更でもない反応を示す杏樹さん。思わず腰を抱いていた手を上にズラして、下乳の感触を堪能してしまう。
「前から気になっていたんだけど、杏樹さんはさ、俺のこと怖くないん?」
「え? それって、どういう意味ですか?」
どういう意味って、言葉の通りだ。
普通はよく知りもしない男と一緒にいるなんて怖くて近寄りたくもないはずなのに。よく考えたら彼女とは最初から距離感がバグっていた。
「えっとー……そりゃ、最初は怖かったですよ。でも酷いことをされたらされたで、勢いで未練なくタてる気がして」
「いや、タつってどのタつ⁉︎」
やっぱ一つ一つの行動が油断ならないな、杏樹さん!
「でも今は、全然怖くないですよ……むしろもっと近づきたい。もっと触れたい、触れられたい」
俺の下唇の中央部分を指先で撫でて、円を描いて挿れ込んできた。先が歯に当たってきたから、そのまま舌で舐めて軽く吸った。
チュッ、クチュ……っと、敏感な音だけが響く。第一関節、第二関節、そして指の間まで舌を深めた時には、彼女の身体がくねって縋りだ始めた。
涙が瞳の表面に張って潤んで見える。艶やかさを含んだ吐息は熱が篭っていて、息をするのも忘れるくらい彼女の反応に夢中になっていた。
「絋さ……ンンっ、恥ずかし……そんな、もう」
俺なんかの行動でこんなに感じてくれて、可愛い。愛しい。
「杏樹さん、早く君のことを好きだって言いたい。ちゃんと伝えたいな……」
「私は言えるよ……? 絋さんが好き」
いつの間にか背中に回っていた両手に力が籠って、ギューっと強く抱き締められていた。
互いの熱った体温を肌で感じながら、縋るように擦り合うように抱き合って、超えられない一線を補い合った。
「私も、キスする。いいですよね? ダメなんて……言わせない」
指先を僅かに震わせながら、遠慮がちに口角に近い頬に柔らかい唇を押し当ててきた。拒まないといけないと思いつつ、むしろ彼女の方へと顔を向けてみたり。俺自身もその先を望むように彼女の行動に身を委ねた。
「ダメ。もう頭の中がいっぱいで、これ以上のことなんてできない。もう……絋さん、ズルい。なんでそんな余裕そうな顔なんですか?」
「え? いや、そんなことないって。俺も結構限界だし。ほら、心臓だってこんなにバクバクしてんのに、余裕なんてあるわけないだろう?」
そう言って彼女の頭を胸元に押し当てて、いかに自分がギリギリの状況に立たされているかを伝えた。
ギュッとシャツを握り締める。
「でも、やっぱりズルい。ここまで挑発しておいて、やっぱり好きだとは言ってくれないんですよね……?」
眉を顰めながら、でも上目で覗き込む杏樹さんの見たことない表情に、飛び出そうになった心臓を飲み込むかのように、思いっきり固唾を飲んだ。
「ズルいから、今日はもう……このまま寝ますから。絋さんが好きって言ってくれるまで、絶対に離れない」
「んじゃ、ずっと抱き締め合いながら寝ることになるな。別に俺は構わないよ。杏樹さんを抱き締めていると、柔らかくて気持ちがいいし」
ただ、ギンギンに硬くなってしまった下半身だけは、どうしようもない痛みの警告を発し続けているけれど。
「私だって、絋さんの体温が気持ちがいいし、安心するから。絶対に放さないんだから」
こうして、だんだん我に返っていった俺は、自分の発言を悔やみながら過去一の密着状態で眠ることとなった。
当然、こんな仮想対面座位のような状況で眠れるわけもなく、俺達は互いにギリギリの状態で夜を過ごす羽目となった。
———……★
「ん、絋さん? 何すかー、もう。初日から睡眠不足だなんて、盛んにも程があるんじゃないですか?」
「るっせーよ、崇。ガチ盛りなお前らがおちょくるな」
「え……? (俺達、あの後速攻寝だったのに? あぁ、二階に上がったから勘違いした?)」
初日はこんなものかなと思ったり(笑)
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