サブヒロインの私がメインヒロインに負けるお話
まるメガネ
第1話 プロローグ
突然ですが、私――春風遥――には好きな人がいます。
三井ミツルくん。中学生のときに友達を介して少し話すようになったクセのない黒髪に優しそうな声が特徴の人畜無顔系男子だ。ミツル君はとにかく優しい。困っている人を見かけたら誰彼構わず手を貸すし、クラスの隅っこにちょこんと落ち着く私にも声をかけてくれる。何か特別な思い出があったというわけではないけど、気がついたら意識していた。
でも、私の恋は叶いそうにない。私は所謂サブヒロインというやつだ。いや、サブというのも烏滸がましいかもしれない。じゃあ、誰がメインヒロインかというと……今も私の隣の席で友達と楽しそうに話しているキラキラJK――
近年、幼馴染は勝てないというが最近のラブコメのお決まりな感じがあるが、彼女にそんな低俗な法則は当てはまらない。大抵、負ける幼馴染というのはツンデレだの奥手だの恋愛における大きなデバフ持ちなことが多い。しかし、彼女は性格までも完璧だ。ミツル君と同じく人畜無害系。人と話すことはいつもやわらかな笑みを湛え、場を和ませている。人はその明るく朗らかな彼女の雰囲気と、暴力的なまでのキューティクルを持つ人の髪の毛のみに現れる天使の輪を、近年大流行している某ラブコメヒロインに準えて天使様と呼んでいる。
「ごめんはるちゃん、次の授業って現代文だよね。私、教科書家に置いていちゃったから見せてくれないかな?」
そんな誰もが羨む彼女の隣人ポジに何故か居座るのが私だ。しかも、彼女とは中学からの付き合い。恐れ多いながら、私は彼女の親友を自称している。流石にね、高校合わせて4年間同じクラス、毎日席を合わせて弁当を囲う仲、さらに今日のように忘れ物をすると席をくっつけて授業を受ける間柄……最後のは別に普通か、親友を名乗っても許される関係だはないだろうか??
「珍しいね、凪沙さん。忘れ物なんて」
「えへへ、うっかりさんだね私」
口調まで可愛い、どうしたらぶりっ子ぶらずにそんな可愛いことを言えるのか。
凪沙さんが机を軽く持ち上げて私の机にくっつくる。席を私の方にぐっと近づけてくるもんだから線の細い肩が当たるし、ふわふわな髪の毛からいい匂いがする。自然に頬に熱が集まる。最近はいつもこうだ。彼女に距離を詰められるとこそばゆくなってしまう。
「ありがとねはるちゃん、助かったよ」
微妙に邪な気持ちが抜けきれず、先生の話が右から左に流れてしまった授業が終わり、彼女は机を元に戻した。さっきまで感じた熱と匂いがすーと離れていって、思わず「あっ」と声を漏らしてしまった。
「今日も1日疲れたね」
「う、うん。そうだね」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん、でもいいの?ミツル君と一緒じゃなくて?最近毎日2人で帰っているけど」
「いいの。ミツ君は部活で忙しいらしいし、それに私ははるちゃんと一緒に帰りたいなぁって」
「そ、そう」
たまにはミツル君と一緒に帰りたいな、と不純なことを含んでいたら、天使の来光を浴びてしまった。私と帰りたい、満面の笑みでそう言ってくれただけで何だかどうでも良くなってしまった。
「やっぱりさぁはるちゃん、高校に入ってからとっても可愛くなったよねぇ」
「毎日言ってるよね凪沙さん。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかも……」
「だって、本当に可愛いんだもん」
隣を歩いていた凪沙さんが私の二の腕に手を忍び込ませてきた。さっきよりも彼女の体温を感じる。
確かに、私は高校に入るにあたって容姿を整えた。所謂高校デビューというやつだ。目にかかるくらい長い前髪と腰元まであったやぼったい髪を肩にかかる程度にバッサリと切り、薄ピンクのインナカラーを入れた。無駄に大きく実った胸のせいで猫背がちだった姿勢も春休みにジムに籠って矯正し、その副産物にやや太り気味だった体型も見せられる程度には整ったものになった(と思う)。
しかし、幾ら外見で武装しても肝心の中身は何一つ変わっておらず、コミュニケーション能力は依然低高飛行中だ。
「はるちゃん、好きな人いるでしょ?」
「えっ!?」
突然のことに私の体が条件反射的にビクッと跳ねた。
「す、好きな人って……」
「私考えたんだ。はるちゃんなんで高校デビューしたんだろうって。それで、好きな人いるのかなぁってなんとなく思って聞いてみたんだけど……その反応はあたっちゃったかな?」
鎌をかけられたのか私……普段は見せない蠱惑的な笑みを浮かべて私を凝視する凪沙さんにドキッとする気持ちと、揶揄われたんだという気持ちが合わさって私の心を乱す。
「そっか〜はるちゃんにも春が来たか〜」
「む、つまらないよそれ」
「あはは、それでそれで。好きな人って誰?もしかして、ミツ君?」
より一層のからかいの色を声に乗せて話しかけてくる凪沙さんから離れようとしたが、腕を絡まれているためうまくいかない。その細腕のどこにそんな力があるのか不思議だ。
「秘密だよ」
「秘密ってことは……やっぱりいるんだ、好きな人」
「な……!もうこの話は終わり!」
墓穴だったか……話の運びが上手い凪沙さんにまんまと嵌められてしまった私は、要らぬ穴を掘ってしまった。
「
「え?」
絡めた腕に一層力を込めて距離を詰めた凪沙さんが、私の耳元でそう囁いた。綿毛のような彼女の髪が私を包み込み、暖かな吐息が横顔に当たる。今日の彼女はどこか変だった。
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ご無沙汰しております。まるメガネと申す者です。
この作品のスタンスは暇な時に書き、暇な時にサクッと読める百合です。
完結保証はありませんが、気長に楽しんでいただければ幸いです。
面白そうだなと思った方は是非♡、⭐︎をよろしくお願いします!
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