婚約破棄された地味令嬢は溺愛から逃げ切りたい!~なのに謎の美形が執着してきます~
白井
第1話
「ステラ。今日この場にあなたを招待したのはなぜか分かる?」
ピシリと眼前に扇子を突き付けられた。
今日も華やかに着飾った姉、ブリジットはホールの真ん中でステラに問いかける。
先ほどまで賑やかだった会場はその一言で静まり返った。
多くの貴族が参加している社交パーティーに、ステラは強制的に参加させられていた。
(ブリジット、いつもは私に近づくことさえ嫌がっているのにどうして……)
そっと周囲を見渡す。
招待客たちはブリジットたちとステラを遠巻きに見ている。
扇子で隠しきれない表情たちはおしなべて笑っていた。
視線にさらされてステラの肌がピリつく。
「はっ。ブリジットに似ず、相変わらず頭まで愚鈍だな。ステラ」
「デリック様……」
姉の隣にいるのはステラの婚約者のデリックだった。
しかしブリジットの細腕は見せつけるようにデリックの腕に絡められている。
彼女は今日も巻き髪を豊かに結い上げ、ボリュームのあるドレスをまとってにやついていた。
今宵の主役と生贄は明らかだ。
ステラはこのパーティーの存在を道中の馬車の中で知らされた。
準備する間、つまり髪を梳く時間すらなく、普段着で会場行きの馬車に押し込められたのだ。
すべての人がきっちりと髪をセットし煌びやかに身を飾ったこの場では、ステラはあまりにも浮いていた。
この時点でステラはこの後に起きる、更なる悪夢を予感する。
(わざわざこの場が用意されているということは、今からもっと悪い事が起きるはず)
「お前と俺は婚約している。だが、我が伯爵家には貴様のようなみすぼらしくみっともない人間は相応しくない! よって婚約は解消させてもらう」
舌なめずりをしていた観客は待ち望んだ瞬間が訪れたとばかりに歓声をあげた。扇をあおいで大声で笑う。
(最初から笑いものにするために呼ばれたのね……)
ステラは奥歯を噛みしめる。
「伯爵夫人ともなれば社交は必須。家の顔だ。お前のような醜い女がその座に就くと我が家門はずっと笑いものだ!」
「ぷっ! デリック様、女の子にそんなの言いすぎですわ」
「ははは、ブリジットは優しいな。しかし今このような状況になってもなにも出来ず口を閉ざしているだけであれば、やはり伯爵家にはふさわしくないだろう」
「たしかに。ステラは甘やかされて育ったものですから。姉である私としても情けない限りでございますわ。どうかしら、皆様。ステラはデリック様にふさわしいのでしょうか?」
ブリジットが問いかけるとパーティーの参加者たちは否定するようにまた笑う。
ステラは醜い!
ステラはつまらない!
ステラは相応しくない!
絶え間なく寄せる波のように、否定と笑い声がステラを襲った。
(ああ、だからなのね)
嘲笑の中ステラはすとんと納得した。
つまり、醜さを強調するためにこんな格好で呼ばれたのだ。
(でも彼らのいう事にも一理あるわ。私はそう言われても仕方がないもの)
ステラはブリジットのように美しくない。
ブリジットは目を引くオレンジ色の髪の持ち主だ。豊満な身体に豪奢なドレスがよく似あう。
ステラのくすんだ枯葉色の髪は見すぼらしいし、気の強い顔立ちは相手を緊張させるらしい。
痩せぎすの身体はどう贔屓目に見ても魅力的ではない。
姉のようにドレスや装飾品を買ってはもらえない。姉であるブリジットが捨てた櫛や鏡を拾って使っているのだ。
最低限以下の身だしなみでは、見た目はお世辞にも良いとは言えないだろう。
「デリック、私、あなたに恥ずかしい思いをさせていたかしら」
ステラが問いかけるとデリックは目を開いて叫んだ。
「分かっていて俺の婚約者としてふるまっていたのか!? 俺を馬鹿にするな! お前のせいで、お前のせいで…!」
デリックは最初からずっとブリジットに興味を持っていた。
ステラがいるせいで堂々とブリジットを口説けず歯がゆい思いをしていたのだろう。
デリックはもはやステラを憎んですらいた。
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