気付けば犬になっていた ツンツン彼女が犬だけに聞かせるよわよわ本音

稲荷竜

第1話 彼女は犬にだけ正直になれる

読み方


効果音:〇〇の音

〇〇のような音が流れているものと扱ってください。


「」の中身はすべてヒロインのセリフです。


『』の中身はすべてヒロインが回想しているヒロインのセリフです。


あなたは【普段キツいことばっかり言ってくるクラスメイト女子の飼い犬】です。

トイプードルの肉体でお読みください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「てんどん、ただいまー!」


 彼女の声がする。

 あなたは自分の体を見下ろす。

 なんと、あなたは小型犬(トイプードル)になっていた。


 てんどん、確かそれは、あなたにいつもツンツン当たる彼女の飼い犬の名前だ。

 あなたは彼女の飼い犬になっていた。


「あれ? てんどん、お出迎えは?」


 彼女が両手を広げて待ち構えている。

 あなたは戸惑いがちに寄って行った。


効果音:小型犬がフローリングを歩く音。


 彼女があなたを抱き上げる。


効果音:毛の多い小型犬を撫でる音。


「ただいまー! ……ねぇ、今日も相談があるの。聞いてくれる?」


効果音:トイプードルの困ったような鳴き声。


「ありがとね、てんどん」


 彼女があなたを抱いたまま、階段を上っていく。

 その先には彼女の部屋がある。


効果音:階段を上り、部屋のドアを開ける音。


効果音:着替えの音。


「ねぇ聞いてよてんどん……実はまた、あの人にキツいこと言っちゃって」


「今日なんかね……」


 彼女は学校で言ってしまったセリフを思い出す。


『どうしてこのぐらいもできないの? 本当、ありえない』


『しょうがないから手伝ってあげる。けど、次は最初からできないって言ってくれない?』


『はぁ。面倒くさい。私がついてないと本当にダメなんだから……』


「あああああああ……」


 彼女は学校でのことを思い出し、あなたの体に顔をうずめた。


「どうしてあんな、酷いこと言っちゃうんだろう……もっと、言い方があるはずなのに……」


「嫌われたかな……嫌われたよね……」


 彼女があなたの耳に口を寄せる。


「はぁ……」


 どことなく熱っぽいため息。


「ううううう……あとで後悔するんだから、もっと最初から優しくできたらいいのに」


「なんで私って、こうなんだろ」


「緊張しちゃうっていうか……」


「はぁ~~~~~~~~……」


 長いため息。

 息を吸い込んで、もう一度ため息。


 彼女があなたの耳元から顔を離す。


「相談に乗ってくれてありがとね、てんどん」


「……でも、てんどんにしか話せないの、ダメだよね……」


「よし、明日はがんばって……もっと柔らかい口調で話してみる」


「あ、今日のお詫びってことで、お菓子とか……は、さすがに重いか。あはは……」


「はあ」


「……私、もっと器用なはずなんだけどなあ」


「どうしてこんなに緊張するんだろ。もっと、てんどんに話すみたいに話せたら……」


「あの人に、好きって言うのも、簡単なのかなあ」


「もっと毛むくじゃらで小さくて……って、そうじゃない」


「もう、わけわかんなくなってきちゃった」


「かわいいなあ、てんどん」


効果音:毛量の多い犬をわしゃわしゃ撫でる音。


「よし。明日こそは……優しくしてみせます」


「だから、相談は今日でおしまい。きっと、明日の私は、こんなふうに悩みを抱えてない」


「……はず」


「……努力できたらいいと思います」


「でも」


「うまくいかなかったら、また相談するかも……」


「その時はどうか、よろしくお願いします」


「……じゃ、お散歩行こうか?」


 あなたの意識が遠ざかっていく……

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