第18話「揺れる二人の心」
ナイトメア・マントルを倒した後、今田カヨと広瀬は、仲間たちと共に霧の谷のさらに奥へと進んでいった。霧が少しずつ晴れ始め、前方に古びた遺跡のような建物が現れた。その建物は、長い年月の中で風化していたが、どこか神聖な雰囲気を漂わせていた。
「ここは…何か特別な場所のようだ」
広瀬がそう言い、皆が警戒しながらも遺跡の入り口に向かった。入り口の上には古代文字が刻まれており、それが何を意味するのかを解読するために立ち止まった。
「この文字…何かの警告のように見える」
ザックが古代文字を注意深く見つめながら言った。リリアも不安げにその文字を見上げる。
「ここに入る者は、過去の影と向き合う覚悟を持て…だって」
リリアが解読した文字を読み上げると、カヨと広瀬はお互いに顔を見合わせた。「過去の影」という言葉が、何か不吉なことを予感させる。
「私たち、ここに入るべきかな?」
広瀬が不安げに問いかけるが、カヨも同じように躊躇していた。
「…正直、怖い。でも、進むしかないのかな」
カヨの声には不安が滲んでいた。これまでの戦いの連続で、彼女たちはすでに限界に近づいていた。自分たちが本当にこの世界の運命を背負うことができるのか、そんな重圧に耐えられるのか、その答えはまだ見つかっていない。
「でも…どうして私たちなんだろう。普通のOLだった私たちが、こんなことできるのかな…」
広瀬もまた、自分たちが選ばれた理由に対して疑問と不安を抱えていた。彼女たちはこれまでの戦いで少しずつ成長してきたが、心の奥底では、まだ逃げ出したいという気持ちがくすぶっていた。
「広瀬さん、私も同じことを考えてる。私たちがこの世界で何をできるのか…まだよくわからない」
カヨはその言葉を絞り出すように言った。仲間たちに頼られているとはいえ、自分自身に対する自信はまだ完全には確立されていなかった。
その時、遺跡の奥から微かに光が漏れているのに気づいた。
「何かある…行ってみよう」
二人は仲間たちを促しながら、光の方へと進んでいった。その光源にたどり着くと、そこには古い石の台座があり、その上には光る宝石が置かれていた。
「これは…?」
カヨが手を伸ばそうとしたその瞬間、突然、遺跡全体が揺れ始めた。石の台座から光が放たれ、全員が眩しさに目を覆った。
「何が起きているんだ?」
ヴァルドが叫ぶ中、光の中から現れたのは、古代の戦士たちの幻影だった。彼らは亡霊のように遺跡内をさまよい、何かを伝えようとしているかのように見えた。
「これが…過去の影?」
広瀬が恐る恐る言うと、幻影の一人がゆっくりとカヨに近づいてきた。その戦士の姿は威厳に満ち、何か重要なメッセージを伝えようとしているようだった。
「君たちは、我々の後継者…この世界を救うために呼ばれた者たちだ…」
幻影の戦士が低い声で語り始めた。その言葉に、カヨも広瀬も息を飲んだ。
「この世界はかつて、闇の力によって滅亡の危機に瀕した。我々はその闇に立ち向かったが、完全に打ち勝つことはできなかった…」
戦士はそう言い、続けて語りかける。
「君たちが、この世界に呼ばれたのは、その闇の力が再び目覚めようとしているからだ。君たちは、その力を封じるために選ばれた存在…だが、その道は厳しい試練に満ちている」
カヨはその言葉を聞き、彼女たちが直面する運命の重さを改めて感じた。広瀬もその場で固く拳を握り、覚悟を決めようとするが、心の中に迷いが残っている。
「私たちが…この世界を救うために呼ばれた?でも、私たちはまだ…」
広瀬が不安そうに言葉を紡ぐと、幻影の戦士は静かに頷いた。
「その迷いこそが試練だ。我々も同じように恐れ、迷った。しかし、君たちには仲間がいる。共に進むことで、その迷いを乗り越えられるだろう」
カヨはその言葉を聞き、さらに迷いが深まった。自分たちが本当にこの使命を果たせるのか、その確信はまだ得られていない。
「…私たちにできるかな」
カヨが小さく呟いた言葉は、広瀬にも同じように響いた。二人は互いの目を見つめながら、自分たちがどれほどの覚悟を持っているのかを問われているように感じた。
「私たちはまだ…怖いよね、カヨさん」
広瀬が正直に自分の気持ちを吐露すると、カヨも頷いた。
「うん、私も怖い。でも…進むしかないんだよね」
二人はまだ完全な覚悟ができていないことを自覚しながらも、ここで立ち止まるわけにはいかないという気持ちが勝った。
「行こう、カヨさん。少しずつでも、私たちにできることを探していこう」
広瀬がそう言い、カヨも力強く頷いた。迷いや不安は残ったままだが、二人は互いに支え合いながら、次の試練へと向かっていく決意を固めた。
彼女たちの旅はまだ始まったばかりであり、世界の運命を背負う覚悟はこれから徐々に築かれていくものだろう。
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