第16話「スリザーロア、絶望の影」

カースウルフを倒した後、私たちはさらに霧の谷の奥へと足を進めていた。霧はますます濃くなり、まるでこの場所自体が私たちを拒んでいるかのようだった。体力の消耗が激しく、私たち全員が疲労を感じていたが、任務を果たすためには進むしかなかった。


「皆、大丈夫か?」


ヴァルドが周囲を見渡しながら声をかけた。リリアは軽く頷き、ザックも冷静な表情を保っていたが、彼らの表情には疲労が滲んでいた。アイナも黙って祈りを捧げるように手を組んでいる。


「もう少しだけ頑張ろう。ここで引き返すわけにはいかない」


広瀬さんが励ましの声をかけてくれた。それに頷き、私はもう一度気持ちを奮い立たせた。


その時だった。霧の中から不気味な音が響き渡り、私たちは足を止めた。音はまるで何かが地面を這いずりながら進むような、低く鈍い音だった。周囲の霧が突然揺れ始め、その中心から何かが近づいてくるのを感じた。


「何かが来る…」


ザックが警戒心を強め、私たちは再び武器を構えた。霧がさらに濃くなり、視界がほとんど利かない中、その不気味な音が次第に大きくなっていく。


そして、霧の中から現れたのは「スリザーロア」と呼ばれる巨大な蛇の怪物だった。スリザーロアは、この地域の伝説の中で語られる恐ろしい存在で、その体長は十数メートルに及び、厚い鱗に覆われている。体全体が淡い緑色の光を放っており、その光が霧に反射して幻想的な輝きを見せていた。


スリザーロアの頭部は異様に大きく、口からは鋭い牙が覗いている。その牙は毒を持っており、一度でも噛まれれば致命傷となると言われている。目は冷たく光り、私たちを見下ろすように動いている。その動きはまるで獲物を狙う捕食者のようだった。


「これは…厄介な相手だぞ」


ヴァルドが低く呟き、私たちはその言葉に緊張をさらに高めた。スリザーロアの体は巨大で、その動きはゆっくりだが、その力強さは一目で分かる。何か一つでも間違えれば、私たち全員が一瞬で飲み込まれてしまうだろう。


「リリア、遠距離からの攻撃を頼む。ザック、奴の動きを封じるために背後に回れ!」


ヴァルドの指示が飛び、リリアはすぐに矢を構えた。彼女の矢はスリザーロアの鱗に命中したが、鱗が非常に硬く、ほとんど効果がないように見えた。


「硬すぎる…!」


リリアが焦りを見せる中、スリザーロアが大きく体をくねらせて襲いかかってきた。その動きは予想以上に速く、私たちは慌てて避けたが、その一撃で大地が大きく揺れた。


「ザック、なんとかして動きを止められるか?」


ヴァルドが叫ぶが、ザックも攻撃の機会を見出せず、スリザーロアの動きを封じることができなかった。私たちは押され気味だったが、ここで諦めるわけにはいかない。


「アイナ、みんなの体力を回復して!」


アイナが魔法を唱え、私たちの体力を回復させた。そのおかげで再び戦闘に集中することができたが、スリザーロアの恐るべき力に圧倒されていることに変わりはなかった。


「カヨさん、このままじゃまずいよ…何か突破口を見つけなきゃ」


広瀬さんが必死に言うが、私は何も考えが浮かばなかった。怪物の圧倒的な力に対抗する術が見つからない中、私たちは徐々に追い詰められていた。


その時、スリザーロアが大きく口を開け、私たちを飲み込もうとする動きを見せた。


「今だ、口の中を狙え!そこが奴の弱点だ!」


ヴァルドが叫び、私たちは全員でスリザーロアの口の中を狙った。リリアの矢がその鋭い牙に命中し、ザックが口の中へと突進して一撃を加えた。私も剣を握りしめ、全力で突き刺した。


「これで終わりにしてやる!」


ヴァルドが最後の一撃を繰り出し、スリザーロアの口の中に深く斬り込んだ。怪物は凄まじい咆哮を上げ、体を激しく震わせた後、ついに動きを止め、地面に崩れ落ちた。


「やった…」


広瀬さんが息を切らしながら言い、私たちはその場に座り込んだ。スリザーロアを倒すことができたという達成感と共に、全身に疲労が押し寄せた。


「これで、少しは進めるだろう。しかし、まだ気を抜くな。霧の谷はこの程度では終わらないはずだ」


ヴァルドの言葉に、私たちは再び立ち上がり、進むべき道を見据えた。スリザーロアとの戦いは確かに厳しかったが、私たちは仲間と共に乗り越えることができた。


こうして、新たな脅威を退けた私たちは、再び霧の谷の奥へと進み始めた。この異世界での旅は、まだまだ続く。どんな困難が待ち受けていようとも、私たちは決して諦めず、前へと進み続けるのだ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る