昨日は4時半までDiscordのサーバーで、僕以外そのことについて詳しくないことをいいことに、少し前まで関わっていたコンテンツに対しての愚痴を垂れ流していた。会話相手は乱雑に言葉をぶつける僕に対して、そんなに気にしすぎる必要はないと優しく諭した。言いたいことを言いたい放題言って満足したので、もう通話を切ってやろうと思ったが、それだとあまりにもクズさが露呈してしまう気がしたので、「なんか眠くなってきたので落ちます」などという言い訳を付け加えて通話を切った。


正常な人間が家を出る時間帯になったので、叩き起こしてもらった。「行ってらっしゃい」と言って鍵を閉めて、リビングに向かうと、僕は枕とタオルケットを抱えながら自分の部屋に身を投げた。


ふと目が覚めた。僕は寝たまま、自分の近辺にスマホがないか探すが、見当たらない。少し考えて、そういえば充電するために部屋の角にある机の上に置いたことを思い出し、仕方なく起き上がり、充電されてなかったスマホで時間を確認すると13時だった。もうこの時間帯に起きるのには慣れ切っていたのでそんなに違和感もなかった。Xを開いて通知欄を連打した。「5いいねか、まあいい方やな」と偉そうに思った。何もしなかった日として今日を浪費するのも嫌だったので、外に出て、それから何をするか考えることにした。


暑苦しい気候に鬱陶しいなと文句を言おうと意気込んでドアを開けると、気づかないうちにもう夏は死んでいて、冷たい風が通り抜けて秋を自覚した。「うわーこれが秋かー」と大袈裟に喜んでみて、まだ動物としての感性は持ち合わせていたことに自分を褒めたりした。


自転車を漕ぎ出して、いつも走ってる道を通って駅まで来た。さあ、どこに行こうか。ふと、この前行こうと思ってたけどちょっと遠くてめんどくさいなと思って結局行かなかったある街に、行きたくなった。


線路沿いの変わり映えのしない道を走っていくと、段々高い建物が多くなってきた。マンションの下にあるカラフルに舗装された広場を抜けて、その街に辿り着いた。


いつもは駅前まで行くのだが、その道中にあった平成初期に建てられたであろうタイル張りの小さいとも大きいとも言えないくらいのサイズのショッピングセンターが視界に入って、その外観に惹かれ、自転車を止めて中に入った。


ガチャガチャの中に入っている紙は日に焼けて白くなっていて、頑張って読み取ると昔のポケモンのやつらしかった。ここに入れたお金は誰も回収に来ないままいつか捨てられるのかなと思った。入口に置いてあったフロアマップには4階までテナントが入っていると書いてあったはずなのに、3階までしかなかったし、なんなら2階はエスカレーターの乗り場があるだけで他は一面壁だったし、1階と3階に2箇所薬局があったし、ショッピングセンターの一角に高級フレンチの店があったし、本当に意味がわからなかった。


僕は混乱したまま、また自転車を走らせた。少し行くとコンビニが見えたのでまともな景色を求めて中に入った。そこではなぜか今アイスを推しているらしく、店内のどこにいてもアイスの文字が目に入ってきた。僕もその広告に唆されてアイスコーナーに向かうと、有名なアイスの有名じゃない味しか売られてなかった。僕はパピコの抹茶味と迷ったが、爽の巨峰味を買うことにした。それを持ってレジに並ぼうとしたら、老人が両手に溢れそうなくらい商品を入れたカゴを持って立っていた。そして、狭すぎる店内に店員が3人もいた。


会計を済ませてコンビニを出ると、いつのまにか当たりは暗くなっていた。自転車のヘッドライトをつけようとするが、つかない。電池が切れていたのだ。僕は長い距離を自転車を押して歩くことを余儀なくされた。20分くらい歩いていたら、公園に差し掛かった。アスファルトの小さい広場を音を立てながら進んでいった。気づいたら、懐かしい歌を口ずさんでいた。凄く感傷的な気分になって、マンションの点々とした各部屋の明かりを眺めた。まだ全部が明るいわけじゃない。でもその数は、行きで見た数よりも多かった。多かった?いや、数は変わらないままなのではないか。周りが明るいときは、明るさに気づかないけど、周りが暗くなってはじめて明るさに気づいたのではないか。そんなことをぼんやりと考えていた。


赤色に光る看板を見て、引きで見たらミスドの看板にも見えなくもないなと思った。全く同じことを、この前この道を通りかかったときにも思った気がした。スーパーはこんな時間にもやってるんだなと驚いた。立ち止まって、道路を走り抜けていく車が放つ赤やオレンジに目を奪われていたら、SDGsと書かれた白い軽自動車がノリノリな洋楽を街中に響かせていった。


世界は歪だ。歪さの中で、歪さを直視しないようにして生きている。暗闇の中にも、光はある。まだそれに気づいていないだけ。そう思いたいだけ。

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