(仮)おばあちゃんのアパート相続したら住民の方と一緒に異世界に飛ばされた私の苦労譚【アパ譚】
一仙
序章 見知らぬ風景
見えているはずだ 知っているんだろう
いつまでそうしている 目を背けるな
ずっと彷徨っている 答えの無い道を
いつからそうなった 君らしくも無い
早くお帰り 心配しているよ
何も知らないのに 誰も悪くないのに
ほら またやってくるよ
また同じ願いだ 歪んだ願い
それでも私は 受け入れましょう
帰ってこい 帰ってこい
帰れない 帰れない
伝えて頂戴 楽しかった
待っていてくれ すぐに行くから
大丈夫 この歪んだ世界で 私は生きていく
side:初台千歳
えっと……はい。自分の目の前に広がる風景がいつものモノとは違う事は明らかでした。
東京笹塚、二階建てのアパート、管理人室含めて全7室。笹塚駅の傍にある観音通りから一本路地に入った場所に有るアパート『京王荘』。
一昨年まではお祖母ちゃんが管理していたこのアパートを、大学四年生の時に私が引き継いで早一年。ありがたい事に部屋は住人さんで埋まっていて、私は毎日管理人生活を楽しんでいました。
今日もいつも通りアパート前の路地を掃除しようと共同入口横の神棚に手を合わせて入口のドアを開くと、そこにはいつもの住宅街の狭い路地ではなく、テニスコート2面程の広い芝生の庭とその向こうには中世ヨーロッパを思わせるレンガと土壁作りの建物が並んでいたのです。
えっと……パニックです。理解出来ない視界を打ち消そうと一度目を閉じて深呼吸します。ゆっくり目を開けるとそこには…
変わらない風景。そこに通りかかった女性がこちらを不思議そうに見ています。女性、と言う事は分かります。しかし、ブロンドの長い髪に着ているのは麻のワンピースでしょうか? そして腰巻きのエプロンをしています。
ええ。見た目は海外の方ですし、明らかに令和の時代にはそぐわない格好をしています。
目の前の女性とはバッチリ目と目は合っています。私は満面の愛想笑い&苦笑いを貼り付けて、ゆっくり後退りして入口のドアを閉めました。
振り向くと毎日見慣れている京王荘の共同玄関がありました。何の変りもありません。私は二・三度深呼吸をし、もう一度ドアを開けます。やはり見た事も無い風景が広がっていました。
しかも、今気づいたのですが庭には見た事も無い大きな生き物がのんびりと歩いていて、こちらを見て「キュッ」と鳴きました。えっ? 鳥? 竜? とりあえず軽く乗れそうなくらい大きいです。
慌ててもう一度アパートの中へ戻ります。一体どうなっているのでしょう。朝起きて、着替えて、いつも通り掃除に出たらそこは違う場所でした。頭の中をフル回転で整理しようとしても全く理解が出来ません。
「千歳さん、おはようございます。」
「管理人さん、おはよう!」
思わず声を掛けられビックリしてしまいました。声の主はアパートに住む学生で二階の201号室に住む『高尾 桜』ちゃんと一階102号室に住んでいる『久我山 武蔵』くん。
「何ビックリしてるんですか? 千歳さん。」
桜ちゃんが不思議そうに首を傾げています。あぁ、こんな朝でも相変わらず可愛い。あっ、こんな朝かどうかは桜ちゃんには関係ありませんでした。
「管理人さん、掃除しないんスか?」
武蔵くんも不思議そうに私を見ています。いつも通りの朝ならば私が外を掃除している時に二人が玄関から出て来て挨拶をする。それが日常でした。しかし、今日は勝手が違います。だから、二人も不思議そうにしているのでしょう。
「ううん! 大丈夫。大丈夫なの。」
務めて冷静に振る舞いました。しかし、二人は今も訝しげにこちらをみています。何となく納得出来なさそうにスリッパを脱いで靴を履き始める二人。
「あっ! もう行くの?」
「何言ってるんスか? 管理人さん。いつも通りの時間じゃないスか。」
そうなんです。いつも通りなんです。二人にとっては。私の頭の中はまだ混乱の中にあります。そんな私をよそに二人は「いってきます!」と元気に玄関ドアを開けました。
そして........先ほどの私と同じようにゆっ~くりと後退りをしてドアを閉めました。くるりとこちらを向きますが表情は固まっています。
「どう言う事ですか? 千歳さん。」
「どこっスか。ここ。」
私に聞かれても分かりません。私が教えて欲しいくらいです。3人で首を傾げると思わぬ方向から声がしました。
「あぁ、もう外に出たのか。
3人で声のする方向をみるとそこにはうちのアパートでは見た事も無い真っ白な猫がいました。あれ? 今の声の主は?
「事情を説明する。とりあえず部屋に入ろう。」
猫はそう言って私の住む管理人室に入って行きました。そうです。『猫が』そう言ったのです。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
3人で思わず叫んでいました。
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