天宮悠斗が力に目覚めたのは中学二年の冬だった

@aiuewawon

第1話 プロローグ

 天宮悠斗が力に目覚めたのは、中学二年の冬だった。




 冬至が近く、天気も崩れているせいで、まだ夕刻だというのにやたらと薄暗い。


 そんな下校中のことだ。




 ふと己の体内に、ドロドロとした熱を感じたのだ。


 鳩尾のあたりに生じたその熱は、犯すように全身に広がっていく。


 不思議と不快感はなく、むしろぬるま湯に浸るような心地よさがあった。




 さっきまで寒風に首を縮こまらせていたのに、まるで寒さを感じない。


 いや気温や湿度が低いことはわかる。


 以前よりも鮮明に、より詳細に。


 でもそれが苦痛に繋がらない。


 天宮の生命を脅かす理由にはなり得ない。




(何だ、これ……?)




 当惑したのは一瞬だけだ。


 天宮はその熱を、強大なエネルギーを、あっさりと受け入れてみせた。




 尻尾の存在に驚く猫のように。


 今まで気づかなかっただけで、それは生まれた時から備わっていたのだと、そう言わんばかりだ。


 熱は天宮によく馴染み、そして彼の意のままに扱えた。




 何の気なしに、熱を右手に集約させてみる。


 それを体外に放出できることを、彼はすでに知っている。




「……ふむ」




 ほんの気まぐれからだった。


 拾った空き缶を屑籠に放るような気楽さで、彼は熱を遠くに見える山脈目掛けて投擲してみた。




 どかーん!




 という冗談みたいな爆発音と共に、日本から山脈が一つ消し飛んだ。

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