喫茶ドアー
こま
第1杯 すべての始まり
新生活の春である。
入学式や入社式に期待と不安を弾ませながら
多くの人が闊歩する中、
「はぁ.....」赤坂優司はため息をつきながら帰路についていた。
彼はなぜこんなにも落ち込んでいるのか。
それは遡ること数時間前……
会社の社長室にて
優司は理由も知らずに部長と社長と
向かい合っていた。
重々しい雰囲気の中、部長がゆっくりと
訪ねる。
「赤坂くん。
君、横領したというのは本当かい?」
「その、赤坂くんと言ったかね?もしそうなら、きみは即刻クビにしなければならないのだが」
そう、彼は横領をしたとして尋問されていたのである。
もちろん彼、優司にはそんな覚えはまったくない。
したがって「え?」という返しをすることしかできなかったのだが、
そんなことより優司にとって必要なのは“自分が横領をした”いうことである。
「え、ど、どういうことですか?俺、いや僕が横領?
なにかの間違いですって!!」
「しかしねえ、赤坂くん。言い逃れできない証拠があるのだよ。」
そう言って部長はデスクに置いてあったパソコンを回転させて優司に
見えるようにした。
そこには────
「150万の振込......?!」
会社から優司へ150万円の振込が行われた
という旨の記載がされていた。
これは給料やボーナスなどとも無関係な時期であるので、
優司が不当に大金を受け取ったことは明白であった。
「赤坂くん。
もしこれが本当であるならば
君は業務上横領罪という罪に
課せられることになる。」
「まあ待つんだ加藤くん。
普通に考えてこんなにわかりやすく
横領の証拠を残すかね?」
「うっ...しかし、証拠がある以上、
彼が犯人であることに
変わりはないのではないですか?!」
「ふむ......。
ではこうしよう。もう一度聞くが、
赤坂くんは本当に横領など
していないんだね?」
「はい。誓って、していません。」
「しかし、君がやっていないならば、
君に罪を着せた犯人が
別にいることになる。
そこで提案だ。
これから一ヶ月、
犯人探しをする猶予を与えよう。
無論、業務はしてもらうがね。
そこで犯人を見つけることができたら
職場に復帰、
見つけ出すことができなかったら
君を業務上横領罪で訴える。
証拠はあるからね。
どうだい、萩原くん。やるかい?」
「し、しかし社長!逃げられるリスク
があるのでは?!」
「いやいや、たかだか150万円だ。
逃げられようと変わらないさ。」
「また横領される可能性も...?!」
「いや、それは掃除とかの
雑務しかさせないから大丈夫だよ。
それより、今赤坂くんに
喋っているんだから、
少し黙っておいてくれるかな。」
「ッ!......はい。」
「それで、赤坂くん。やるかね?」
「はい。もう、やるしかないですよね。」
「では、きょうから一ヶ月、頑張ってくれ。
今日はもう帰っていいよ。」
「...失礼します。」
〜現在〜
「え??なんで俺が横領?
......え?
でも絶対俺やってないし...
しかもなーんか部長俺に
罪着せようとしてる
感じだったんだよなあ。
はぁぁ......。
なんで俺がこんな事に
巻き込まれなきゃならないんだろ...。」
と喋りながら歩いていた優司の目に、不意に小綺麗な看板が
飛び込んできた。
「喫茶ドアー」
看板にはそう書かれていた。店は古くからやっているようであり、
老舗のような雰囲気を醸し出しつつも、きちんと手入れされており綺麗であった
「お悩み、承ります...?」
また、店先にあるなにやら一見意味のわからないのぼりを見つめた後、
「もう12時すぎか...お昼時だなあ。
お腹すいたし、ここにするか。」
と言って、優司は店に入っていった。
店に入ると、常連客だろうか、カウンターで店主らしき男と何人かが会話をしているのが見て取れた。
「いらっしゃいませ。ようこそ喫茶ドアーへ。お一人様ですか?」
高校生ほどであろう凛とした少女が愛想のないすました表情で言った。
眼帯らしきものをつけているようだ。
(眼の病気なのかねえ)
少女のどこか威圧感を感じる態度に気圧されながら
「えーと、一人です」
と答えていると、
「こらこら、ちゃんと笑顔で挨拶しなきゃ。お客様なんだから。
あっ、すいません!お1人様でよろしかったですよね!
お席にご案内いたします!」
先程の少女の態度に見かねたのか、そこに現れた元気いっぱいの女性が席へと案内してくれた。案内されたテーブル席に座り、メニューを見ながらおすすめされた料理を参考に
「パンケーキとコーヒーで」
と端的に頼んだあと
隣接している窓から見える風景を眺めていると、
「君、うちで働かない?」
突然、そんな声が聞こえた。
カウンターから聞こえるにしては近すぎると思い、店内を見回すも
誰も喋っているようには見えない。
空耳かと思いつつ、窓の風景に視線を戻すと、
「君だよ、君。そこの窓の外を
眺めてる君だよ。」
まさかと思い、もう一度店内に視線を巡らすも、またもカウンター以外では誰も喋っていないようである。
「ここだよ、ここ。君の正面。」
真正面に視線を定めた優司は数瞬ののち、
素っ頓狂な声を上げた。なぜなら、
「ね、猫ぉ?!!!」
──そこには、悠然とした表情で佇む猫がいたからである。
喫茶ドアー こま @koma2222
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