第35話 二俣法律事務所の相談案件《石藤香織視点》前編
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽《一夫多妻制トラブルケース①》
A実さん(30)とB夫さん(30)は、仲のよい夫婦で、共に自営業を営んでいましたが、後継ぎにするべき子供がいないのが悩みでした。
そこへ、B夫さんが結婚以前に付き合っていた恋人、C子さんが子供を連れて突然現れ、「実は、この子(D郎くん)はB夫さんの子だ」と言って一夫多妻の婚姻を迫って来ました。
その後のDNA鑑定から、間違いなくD郎くんはB夫さんとC子さんの子である事が判明し、A実さんとB夫さんは激しい議論の末、後継ぎがどうしても必要だった事から、C子さんと一夫多妻制婚姻を選び、D郎くんを三人で育てる事になりました。
しかし、A実さんとC子さんの折り合いは悪く、そのわずか1年後、C子と一夫多妻性の婚姻を解消する事に。
離婚後、D郎くんの親権について家庭裁判所で争われましたが、判決では、経済的に余裕があり、育児環境を整える見込みのあるA実とB夫が親権を獲得する事になりました。
鬱気味でもあったC子さんは、実の母であるにも関わらず、D郎くんの親権の取れなかった事に大きなショックを受け、その後体調も壊してしまいました。
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「一夫多妻制法が子供を保護する目的で作られている法律だから、仕方ないのかもしれないですけど、C子さんが気の毒だという気もしますね……」
私がもらった資料に目を通し、ため息をついた。
今の家庭では、良二くん、さくらちゃん、子供達と良好な関係を築けているから、心配はないけれど、かつて、歪な関係を築いていた、白鳥、綺羅莉、舞花、子供達の間でこういうトラブルになり得たかもしれない事を思うと、余計に胸が痛んだ。
私より3歳年上の先輩、
「そうね。一夫多妻制婚姻関係のトラブルは、年々増えていて、一夫多妻制婚姻のものよりも拗れやすくて、解決に時間がかかるし、解決後もその結果をうまく受け止められない人も多いの。
だからこそ、カウンセラーの私達が相談者の方の気持ちに寄り添って話を聞く事が今後より一層重要になって来ると思うわ。
一夫多妻制婚姻を2回も経験して、失敗も成功も知っているあなたなら、きっと相談者の方の立場で物事を考える事ができて適任だと思うの。期待してるわよ?」
「は、はい。ご期待に添えられるよう努力します!」
私は磯崎さんの前で気の引き締まる思いで拳を握った。
以前から働きたいと考えていた私に、財前寺さんが権田さんを通して私に勧めてくれた職種の中で興味を引かれたのは、法律事務所のカウンセラー。
相談者の方の悩みと向き合い、時には共感し、痛みを覚えつつも、弁護士の先生と連携を取りながら、アドバイスをするのは、大変だったけれど、とてもやり甲斐のある仕事でもあった。
少しずつ、任せてもらえる案件も増えだした。そんな時だった。思いがけない相談者が現れたのは……。
「本当なら、私は今ごろ、あの人と幸せに暮らしてる筈だったんです!それなのに、ほんの一瞬の気の迷いであんなひどい一夫多妻制婚姻をする事になってしまって!
ここに、彼のもう一人の奥さん、働いているんですよね?彼女と話をさせて貰えませんか?」
?!
「いえ、あの、そういうご相談は承りかねますが……」
昼休憩に外へ出ようとしていた私は、錯乱した様子の女性に詰め寄られ、受付の佐藤花子さんが困っているところに偶然出くわしてしまい、目を丸くした。
「あの……。どうしたんですか?先生呼んで来ましょうか?」
声をかけると、その女性はこちらをバッと振り返って、こちらを睨み付けて来た。
「あっ。あなたねっ?白鳥慶一の元妻で、石藤さんと2回目の一夫多妻制婚姻した香織っていう人はっ!」
「!!||||」
どこから個人情報が漏れたのか、ここで私が働いている事を嗅ぎ付けて来た彼女は更に、衝撃的な事実を私に告げた。
「私は、石藤良二さんとお見合いをした北原冴子!一時の気の迷いで破談になってしまったけれど、私に必要なのは、やはり彼みたいな「誠実で優しい」男性だったわ!私も一夫多妻婚に入れてもらうよう、あなたから頼んでもらえないかしらっ?」
「な、何を言ってるんですかっ?あなたはっっ…??」
とても正気とは思えない彼女の頼みに、私は慄いたのだった……。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
良二くんのかつてのお見合い相手の登場に、香織さんはどうするのか見守って下さると有難いです。
今後ともどうかよろしくお願いします。
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