第34話 白鳥慶一の新たな職場と仲間

「ううっ……! お、俺の股間がっ。ハッ!! お、お前ら!!」


 その後、意識を取り戻した白鳥を俺達は穴の上から見下ろしながら、交渉する事になった。


「ぼ、僕をどうするつもりだ?殺すつもりじゃないだろうなっ」


「ハハッ。白鳥氏。そんな事は致しません」


 穴の中で身を縮めて震えている白鳥に、権田さんは闊達な笑顔を向けた。


「ですが、出所早々、香織様を襲撃するという罪を犯されたあなたに二つのご提案があります」


「提案だと……?」


「一つめのご提案はこの場で警察に不法侵入&暴行未遂の通報をさせて頂く事。白鳥氏は恐らく現行犯で逮捕され、また施設に逆戻りする事になるでしょうね」


「っ………!」


「もう一つのご提案は……」


 ズザザッ。

「??」


 顔を強張らせている白鳥に、権田さんは書類とボールペンのセットされたバインダーを穴の中に滑らせ、白鳥の元へ送った。


「旦那様からご紹介する住み込みの職場の契約書類です」


「えっ」


 権田さんの言葉に、白鳥は意表を突かれたような顔になった。


「白鳥氏には、方方から慰謝料、養育費等請求が来られているとの事、職も住居も人間関係も安定しない今の状況では、やけを起こしてあらぬ事を考えついても無理からぬ事かと思われました。

 白鳥氏の経歴を生かして、未来の最先端を作る職場をご用意しています。


 白鳥氏が反省され、これからは真面目な生き方をしていかれるおつもりであれば、石藤様、香織様は、今回の事はなかった事として水に流しても構わないと寛容なお考えでいらっしゃいます。」


「…!」


 権田さんの言葉に驚き、突かれたようにこちらを向く白鳥に、俺と香織は穏やかな笑顔で頷いた。


「そうだな。もう二度としないと言うなら、白鳥、お前を許すよ」

「ええ、そうね。あなたを父と慕っていた万里生くん、桃姫ちゃん、瑠衣司くんの為にも生活をきちんと立て直して欲しいわ」


「石藤……。香織……」


 白鳥は、信じられないような表情になると、書類を胸に抱き締めた。


「前科のついた僕を雇ってくれるところがあるんだな……。この職場契約、受けるよ。

 ううっ。石藤、香織。すまなかった……。もう、こんな事はしないと誓うよ……」


「ああ。白鳥頑張れよ?」

「ええ。慶一くん、頑張ってね?」



 俺と香織は、涙ながらに謝って来る白鳥に温かい言葉をかけ、その後、権田さんは契約書にサインした白鳥を穴から助け、そのまま契約先の職場に送って行ってくれる事になった。


「さようなら、白鳥。元気でな?」

「さようなら、慶一くん。元気でね?」


 俺達は、車の後部座席から泣きそうな顔でこちらを見ている白鳥に、いつまでも手を振っていた……。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


《白鳥慶一視点》


 香織を攫う計画は失敗に終わり、石藤にはスタンガンを当てられて、香織には罵倒され、使用人には脅され、落とし穴に落とされ、石藤と香織の子供には玉に玉を当てられて、僕は散々な目に遭った。


 だが、最後の最後で非情になりきれないのが奴らの詰めが甘いところ。

 襲撃した事は水に流し、仕事まで紹介してくれるという。

 ハハッ! 本当にバカな奴らだ!

 生活を立て直し、真面目に生きる振りをして、今度は奴らのあの小さい生意気なチビを狙ってやる事にするか!

 何、言っても小さな子供だ。いくらでも狙う機会はある。

 玉に玉を当てられた恨み、石藤&香織への恨み、一気に晴らしてくれよう!


 後部座席で僕がそんな復讐計画を立て、邪な笑みを浮かべていると、財前寺家の使用人、権田の運転する車は、暗いトンネルの中を入って行った。


「随分下っていくんだな?」


「ええ。白鳥氏の職場は地下にありますので……。もうすぐ着きますよ?」


 権田はそう言ってニッコリ笑い、言葉通り、それから5分もかからない内にトンネルを抜け、コンクリート打ちっぱなしの簡素な建物の前で車は停まった。


「さ。白鳥様」

「あ、ああ……。随分薄暗い所だな……」


 権田に促され車から降りて、周りをキョロキョロしていると、年配の作業着の男が建物からパタパタとこちらに走って来た。

「お世話になっております。先程ご連絡差し上げた、財前寺龍人の使い、権田でございます」


「ああ…。これはこれは、権田様……! お世話になっております。ご紹介下さるのは、そちらの方ですか?」


「はい。白鳥慶一氏です。白鳥氏。こちらの施設長の穴蔵あなぐら様です」

「よろしくお願いします」


 権田に紹介され、施設長だという穴蔵という男に、頭を下げると、彼はモグラのような顔に貼り付いたような笑みを浮かべた。


「フヘヘッ! これからよろしく頼みますよ。権田様、またこんな生きのよさそうな方を連れて来て下さって、助かります」


「いえいえ。こちらこそ、また頼みを聞いて下さって有難いです。どうか彼を末永くお願いします」

「お任せ下さい。」


「また? 末永く?」


 妖しい笑顔を浮かべての二人のやり取りに不穏なものを感じて後退ろうとすると……。


 ガシッ!

「!」


 穴蔵の大きな逞しい手に肩をガッチリと掴まれた。


「さあ、行こう! 白鳥くん、中で君の仕事仲間が待ってるよ?懐かしい顔にも会えるだろう!」


「懐かしい顔……?」


「では、白鳥氏。私はこれにて。幸運を祈っております。」

「あっ。おい…!」

「ホラホラ!君はこっち!」

「いててっ!ら、乱暴にしないでくれっ!」


 足早に去っていく権田を呼び止めようとするも、有無を言わさず、俺は穴蔵に建物の中に連れて行かれたのだった。


         ✽


 最初に穴蔵に、通されたのは狭い休憩所のよう場所で、そこには、主にくたびれた50代〜70代ぐらいの作業着の男達が、ひしめき合っていた。


「皆ぁ! 聞いてくれ!! 新入りの白鳥慶一くんだ!仲良くしてやってくれ!」

「よ、よろしく…お願い…します……。」


 穴蔵の紹介に、戸惑いながらも挨拶をしたが……。


(ああ〜?白鳥慶一?どっかで聞いたような気がすんな……)

(ホラ!週刊誌で一時期種無し王子って騒がれていた奴じゃね?)

(ああ、あいつか……。グへへッ。有名企業の社長だった奴が、落ちぶれたもんだな……)


 こいつらが、仕事仲間だとっ…? ||||||||

 どう考えてもまともな職場とは思えんっ。


 くたびれた生気のない顔を突き合わせてヒソヒソ話をしている男達を前に、僕がドン引いていると……。


「しゃ、社長っ?!||||||||」

「ス、スワンの白鳥くんっ?!」

「お、お前ら、何故ここにっ?!」

 

 かつての部下で会社の脱税や不正を告発しやがった青田と、取引先の食品会社、YASUIの広報部長だった疋田が労働者の中に混じっていて、お互いに驚きの声を上げた。


「あ、青田っ! お前、よくも裏切りやがったなぁっ!! 務所ぐらしする羽目になったのは、お前のせいだぞっ!許せんっ!!

 疋田っ! お前も僕がお前に香織のわいせつ動画渡したとか身に覚えのない事言いやがって! 危うく刑期が延びるところだったんだぞ!」


「す、すみませんっ!」

「す、すまんっ!」


 僕が怒り心頭で、以前見た時より大分やつれた様子の二人に詰め寄ると、二人は逃げながら謝って来たが……。


「フヘヘへッ! 新入りくん元気いいねっ? 見知った顔のようだから、あなた方全員相部屋にしといたよっ?」


「「「……!?||||||||」」」


 愉快そうに笑う穴蔵にそう言い渡され、僕達は、蒼白になった。


「具体的な仕事内容については、後で、私から説明するが、青ちゃんとヒッキーは新入りにここのルールとか色々教えてやってな。じゃっ。白鳥くん取り敢えず荷解きでもしといて?」


 後ろ手で手を振り、去って行く穴蔵を僕は焦って引き止めようとした。


「ま、待てっ! 僕は権田に騙されたんだ!

 何が最先端の未来を作っていく職場だ!

 俺を帰してくれっ!! これなら、まだ警察に捕まった方がマシだっ!」


「社長! ダメです!」

「白鳥くん! 駄目だ!」


 青田と疋田に行く手を阻まれ、僕は激昂した。


「そこをどけっ! 俺は歩いてでも帰るぞっ!」


「無理なんです。ここは地下2000m地点にある場所で、各地点に見張りがいて、一度ここに入ったら二度と出れないんです。」


「な、なんだとっ?」


 青田が半泣きで告げてくる事実に俺は愕然とした。


「気持ちは、分かる。俺も、職を失って途方に暮れていたところ、俺の経歴を生かせる仕事だと、権田という男にうまいこと言いくるめられて、ここへ連れて来られたんだが、実際は、金持ち連中が将来温暖化した地上から逃れる為の地下施設を作る為の土木作業だと知った時は絶望したよ。」


 続いての疋田の説明がとても信じられず、僕は頭を振った。


「地下施設を作る為の土木作業だと……?! そんなどこかで聞いたような設定、本当にある筈が……!!」


「「ハハッ。僕(俺)も最初はそう思ったんだけどね……」」


 クスクス……!


「〰〰〰?!」


 目にはクマ、頬のコケた顔、土のついた作業着姿で力なく笑う二人の姿。そして周りの労働者達のこちらを見て含み笑いをしている様子から、その設定がいやに現実味を帯びて来て、心臓はバクバクして、嫌な汗が背中に流れて来た。


「まぁ、住めば都って言葉もありますからね? 仕事中に事故で亡くなるのは、せいぜい三ヶ月に一人位ですし、ほとんど危険はありませんよ?」

「ああ。三ヶ月働いて、やっと給料で缶ビールを一缶買えた時には本当に生きててよかったと思えるよ?」


「っ…!!|||||||| い、嫌だあぁーっ!僕を地上に帰してくれっ〜〜!!!」


 イッちゃった目つきで疲れた笑顔を浮かべる二人を前に、俺は大声で泣き叫んだのだった……。



 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

 *おまけ話* オヤジ達の滑らないギャグ


 その後、財前寺家御用達の高級車内にてー。

 トゥルル……。


 権田『はい。旦那様。』


 桜の父『ああ、権田くん? 白鳥くんを、無事例の施設に送ってくれたかね?』


 権田『ええ。ニッコリ✧✧ 彼とはもうこちらの世界でお会いする事はないと思いますよ?』


 桜の父『ハハッ。そうか。いつか、子供達の子孫が、彼の作った地下施設を利用する事があるかもしれないな……』


 権田『正に、未来の最先端のお仕事でございますね……。(遠い目)白鳥氏よ永遠に……!アーメンソーメンダメイケメン…!』


 桜の父『フフッ。君のギャグの中ではまだマシな方じゃないか?』


 権田『お褒めに預かり光栄でございます……!✧✧』





✽あとがき✽

白鳥、最後は皆の為に働く場所を見つけられて、よ、よかったですね……( ;∀;)


来週は再就職した香織&良二のかつてのお見合い相手、相変わらずの座練のおまけ話をお届けしていきたいと思います。


今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m

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