第6話 生死を告げる電話

 夕焼け空の下、制服姿のは、しょうがないなぁというような温かい笑顔を俺に向けていた。


「もう、もっと胸はんなよ!私は特にイケメンでも運動部エースでもなくても、優しい石藤良二が、大好きなんだからね?」


「……! ///あ、ありがとう香織。でも、そんな俺でも、これからは、香織の事精一杯守るから……」


「……!!う、うん……。///期待してる。今日みたいにずっと私の事、守ってね?」


 そうして俺達は温かい気持ちを胸に、家まで二人、固く手を繋いで歩いて行った。


 この手をずっと離したくないと思っていた。


 だけど……。


 タタッ!


「「あっ……」」


 俺達の前に急に黒い人影が飛び込んで来て、避ける為に俺達の手はするっと外れてしまった。


 すぐに手を繋ぎ直そうとしたが、彼女は俺を哀しそうに見ていた。


「良二くん、どうして私の手を離してしまったの……?」


 その両目から、赤い血の涙が溢れていた。


「良二くんが幸せにしてくれていたら、私、死ななかったかもしれないのに……!」


 !!!!||||||||



 ******************


「うわああぁーーっっ!!!」


 叫び声と共に飛び起きると、そこは、見慣れた寝室の風景だった。


「はぁっ……。はぁっ……。ゆ、夢か……」 


 荒い息を吐きながら、冷たい汗が背中を伝う中、俺は今の状況を思い出した。


 そ、そうだ……。昨日、権田さんから香織が自殺未遂を図った事を聞いて…。

 一睡もできないまま、出勤したものの、貧血で倒れて早退してきたんだった。


 バンッ!

「良二さんっ!! 大丈夫ですか…?」


 俺の叫び声を聞こえのか、居間にいたらしいさくらが血相を変えて寝室に飛び込んで来た。


「ご、ごめん。さくら。ちょっと変な夢見ただけだから大丈……、……!さ、さくら?」


 大丈夫と言おうとしたところ、さくらの柔い温かい体に包まれていた。


「っ……。ぐすっ……。大丈夫なわけないじゃないですかっ。良二さん、私の前で無理しないでぇっ……。」


「さくらっ……。ご、ごめっ……。俺っ……。」


 俺に抱き着いて涙を流している彼女に、今の自分の体たらくを情けなくも心苦しく思っていると、彼女はブンブンと首を振って涙の玉を散らした。


「いいんですっ。香織さんが心配で心が死んでしまいそうなんですよね? 私も同じ気持ちです。だから、私に悪いなんて思わず、辛い気持ちを吐き出して下さい。このままでは、良二さんも壊れてしまいますぅっ……。」


「さ、さくらっ……。っ……!」


 必死に訴えかける彼女の言葉は、俺の心に真っ直ぐに働きかけ、気付くと、彼女にだけは決して言ってはいけないと思っていた事を漏らしてしまっていた。


「もうっ…。とっくに彼女への気持ちなんて、全くなくなったと思っていた。 


 白鳥に対抗する為に、彼女に再会した時も、君を守る為に必要最低限の関わりしか持たないようにしようと割り切っていた。


 けど、彼女が自殺を図ったと聞いて、もうこの世のどこにもいないかもしれないと知って、高校時代の彼女との楽しかった思い出が次々と溢れてきてっ……。


 俺が、どうにかしていたら、彼女の笑顔を守れたんじゃないかって……。

 俺があんなキツイ事を言わなければ、彼女が自殺する事もなかったんじゃないかって……。」

「良二さん……。」


 思い出の中で色褪せる事なく、温かい微笑みを浮かべている香織を想い、拳を握り締める俺をさくらは悲しげな顔で見守っていた。


「君とスミレとあんずと暮らす今の生活が何より大事に思っているのに、それは絶対に嘘ではないのに、どうしてっ……、そんな事を思ってしまうんだろう。ごめん。さくら、ごめん」


 縋るようにぎゅっと彼女の背中を抱き締めると、彼女はもっと強い力で抱き締め返して来た。


「良二さん……。大丈夫ですよ? 好きだった人をそう簡単に嫌いになんてなれません。

 私は香織さんが大好きな良二さんを好きになったんですから、その事を悪いなんて思わなくていいんです。

 まだ詳しい事も分からないのに自分を責めるのはやめて、今はただ、彼女の無事だけを祈りましょう。ねっ?」


「さくら……。」


 胸が荒れ狂う中、涙に濡れている彼女の青い瞳を白い頬を、美しくも尊いものとして、見詰めていると……。


「パーッ?」

「ニャーッ?」


「「……!」」


 彼女の後を少し遅れてついて来たらしいスミレとあんずが扉の入口で恐る恐るこちらを覗いていた。


「じょぶ?(大丈夫?)」

「ニャ〜?」


「スミレ、あんず、心配かけてごめんな……」


 俺は立ち上がると、心配そうな彼女達の頭を順番に撫でた。


「さくらも、本当にすまなかった。

 君の言う通りだ。何も分からない内からこんな事を思っても仕方がない。今は彼女の無事だけを祈るよ」

「は、はい……」


 さくらを振り返りそう言い、彼女が僅かに微笑みを浮かべたところへ……。


 チャラリー♪チャラリラー♪


「あっ。小坂営業部長かな……。……??!」


 着信音が流れ、俺は枕元にあったスマホに手を伸ばしかけ……、その着信先の番号を見てしばし固まった。


 チャラリー♪ チャラリラー♪


「良二さん…? 取らないんですか?」


 不思議そうに呼びかけるさくらに、俺は強張った表情で告げた。


「多分……香織の……実家の番号だ……」

「……!!||||」


 チャラリー♪ チャラリラー♪


「りょ、良二さん、よ、よかったら、私が出ましょうか?」

「いや、大丈夫だ」


 震え声で気遣って来る彼女に俺は首を横に振り、深呼吸をすると、その電話に出る事にした。

 ガチャッ。

『大変すみません。瀬川と申しますが、こちら、石藤良二さんの番号でよろしかったでしょうか?』

「はい……。そうです。私が石藤良二です。お久しぶりです……」


 久々に聞く相手(香織父)の重苦しい声に、俺は最悪の事態を覚悟して応対したのだった。










✽あとがき✽


キツイ展開でご心労をおかけします。


いつも読んで下さり、応援、ご評価下さり、ありがとうございます。


現代ドラマジャンル 週間49位になれました。

(完結済の《一夫一妻制Ver.》は週間47位でした)

読者の皆様に応援頂けて、本当に感謝です!


良二くんの家庭の行く末を見守って下さると有難いです。


どうかよろしくお願いしますm(_ _)m


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