第5話 最悪の修羅場
「穂乃香と良二くんの画像が送られて送られてくるまでは、私は良二くんとずっと一緒だと思っていたし、他の誰かに気持ちが揺れたりする事もなかったのにっっ!!
良二くんにあんなひどい別れのメールを勝手に送らなければ、仲直りする事も出来たかもしれないのにっ!! あなたのっ! あなたのせいでっっ!!」
「せ、瀬川さんごめんなさ……あっ!」
「ちょ、瀬川さっ……」
目の色を変えて叫びながら、屋川由依に掴みかかる香織に俺は驚きのあまり声を上げた。
「私はあんな男の元でずっと女としての幸せを虐げられたまま惨めな暮らしをっ!!
私の幸せを返してよっ!!
良二くんとの未来を返してよぉっ!!」
「ご、ごめんなさいっ! ごめんなさっ……。ふぐぅっ!!」
「瀬川さっ……、香織、やめろって!!」
泣きじゃくる屋川由依の肩を揺さぶる香織を慌てて止めに入った。
「落ち着けって! 乱暴はよせ! 周りの人が皆見てるぞ?」
「だから何? 落ち着けるわけないじゃない!! この人が私達の間を引き裂いたのよ? それがなければ私達今頃結婚して幸せに暮らしていたかもしれないのよ? こ、子供だって……悩む間もなく生まれていたかもしれないのにっ!!」
目を吊り上げて憤る香織に、高校時代の彼女との関係を思い出し胸が痛みながらも、彼女の肩を掴み強めに言い聞かせるように言った。
「それは違う! お前も白鳥のやり口を知ってるだろ? 屋川さんがやらなければ、きっと他の誰かが他の画策を仕掛けて来ていたよ」
「でもっ……。それでも、もしかしたら、違った未来がっ……」
「いや、香織。それでも俺達は多分ダメだったよ。当時は気付かなかったけれど、今はそう思うんだ。
無意識に俺は香織と釣り合わないと萎縮してしまうところがあったし、君は君で、自分に釣り合わない俺に不満に思う事があったろう……」
「そんな……そんな事……」
ぶるぶる首を振る香織に、俺は同じように首を横に振って苦笑いをする。
「いや。あった筈だよ。君と白鳥がお似合いだったから、俺はそれ以上追わなかったし、君は知らない奴から俺にメールが送られている事を知ってからも、訂正も追求もしなかった」
「だって、その時はとにかく、こ、怖くて、辛くて何もできなかったよ……」
「ああ……。俺も怖くて、竦んでしまって動けなかった……」
涙を流しながらの彼女の言葉に、初めて同じ気持ちになって頷いた。
だから、俺達はダメだったんだ。
「さくらと12年ぶりに再会した時、俺は彼女との見合いを訳あってすっぽかしてしまったばかりだった……。
彼女は、俺のところにわざわざ来てくれてその理由を聞きに来てくれたんだ。
見合いをすっぽかすような、しかも10も年上の相手のところに見合いに来なかった理由を聞きに来るなんて、すごく怖かっただろうに、すごく勇気がいっただろうに……。
可憐で華奢な外見とは裏腹に、内面はすごく芯の強い子なんだって感動したのを覚えている。
それからは、ダメな俺でも少しは彼女に釣り合いが取れるよう努力しようと思って、お互いに思っている事は溜め込まず言葉にして、どうしたらいいか二人で考えて答えを出して、絆を深めていったんだ。
君と上手く行かなかった理由もようやく分かった。
屋川さんの工作がなかったとしても、
白鳥の画策がなかったとしても、俺達は多分どこかで別れていたよ。」
「屋川さんのせいじゃない……?
わ、私が、道を間違わなかったら……。私がさくらちゃんみたいに勇気を出せていたら、良二くんに選んでもらえたの……?」
「いや、そうじゃないだろ?俺に自信がなくて、ダメだったから、香織が俺より白鳥を選んだんだよ。」
俺は縋るような瞳で見てくる香織に、少しイライラして言ってしまった。
過去、何か条件が違えば、さくらとスミレが側にいない未来があったかもしれないなんて俺は考えたくなかった。
だから、彼女を突き放すような強めな言葉を吐いてしまっていた。
「とにかく、過ぎた事を言っても仕方がない。もうあれから、15年も経ったんだ。
今更どんな真実が分かろうが、俺はさくらや子供と築いている今の家庭が何より大事だし、君もやっと白鳥と訣別して、自由に生きられるようになったところだろう?
俺達の道が交わることはもうない。
お互い、辛い過去は忘れて、自分の道をちゃんと歩こうぜ?」
「っ……!!」
香織は、その言葉を聞くと、急に脱力して、虚無の瞳で、途切れ途切れに取り繕うような言葉を述べた。
「そ、そう……だよね……。ごめ……ごめんね……。りょう……石藤くん……。就職が上手く行かないのもあって、イライラして、当たってしまったのかも……。
屋川さんも……も……気にしないで……」
「せ、瀬川……さんっ……||||||||」
屋川さんも、香織の様子に無理をしているような痛々しさを感じていたのか、名前を呼んだきり、それ以上言葉を続ける事が出来なかった。
それから、レジの人にジロジロ見られながら、重苦しい空気のまま喫茶店を出た俺達三人は、それぞれ駅で別れる事になった。
香織は寄るところがあるからと、逃げるようにその場を離れ、最後まで謝り倒す屋川さんに、とにかく、もうこれ以上は気にすることもなく、仕事も続けて行って欲しいと伝えた。
疲れ切って帰った辿り着いた我が家で、さくら、スミレ、あんずの顔を見ると心底ホッとしたものだ。
香織が自殺を図ったと聞いたのは、それから1週間後の事だった……。
✽あとがき✽
いつも読んで下さり、応援、ご評価下さり、ありがとうございます。
現代ドラマジャンル 週間52位になれました!
(本日完結の《一夫一妻制Ver.》は週間48位でした。)
読者の皆様に応援頂けて、本当に感謝です!
これからシリアス展開に入って行きますが、よければ良二くんの家庭の行く末を見守って下さると有難いです。
どうかよろしくお願いしますm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます