流れ星という名の超急行列車

@yumenimita

流れ星という名の超急行列車

 「パパ見て!流れ星!」


 僕と妻が出会ったのはマッチングアプリ。僕が彼女の仕事が新幹線の運転手だということを知って気になって連絡したことが出会いのきっかけだった。そこから付き合うこと3年、僕たちは結婚して子供を授かることができた。目が彼女に似て将来は子犬系彼氏なんて言われそうなかわいい男の子が誕生した。ご飯をこぼしても、泣き叫んでも愛おしいと思ってしまうのは親バカなんだろうかと毎日息子が寝た後に妻と話すのが日課だった。息子の5歳の誕生日の日、テーブルにごちそうを並べるために買い出しに行ってくるねと言った妻が倒れて病院に運ばれたと連絡が入った。 息子は祖父母の家に預けていたので僕は急いで病院に向かった。

 病院に到着すると僕の妻は息をしていなかった。僕はあまりにも突然の出来事で涙も言葉も出なかった。

 お通夜やお葬式を終えて、2ヶ月がたった今、僕は少し妻がいないことを受け入れられるようになってきたけど息子には妻が亡くなったことはまだ話せていない。だから、息子は毎日のように聞いてくる。


「ママはどこに行ったの?」

「ママはね、いまお仕事で遠いところまで新幹線を運転しているんだよ」

「ママかっこいいね!」


 僕は毎日、今日は息子になんて伝えようか考えていた。新幹線を遠くまで運転していると何十回も伝えたし、最近は「今日はおばあちゃんの家に遊びに行ったよ」なんてちゃんと働かないで休んでいるよと伝えてみたりした。でもそんな嘘も長くは続くはずはなく、息子はいずれ知ってしまう。嘘をついて息子を傷つけてしまうくらいなら父である僕がしっかり話すべきなのかなと思ったので妻と僕で息子の名前を考えた思い出の場へ行って話すことにした。 


 僕たち夫婦の思い出の場は自分の住んでいるマンションの屋上。僕は缶ビール、息子はオレンジジュースを飲みながら座った。そういえばあのときも妊娠中の妻はお酒が飲めなくてオレンジジュースを飲んでいたなとかあのときも夜空がきれいだったなとかいろんな思い出が溢れてきて涙が出そうになる。僕は心の中で妻に今から話すねと伝え、息子と向き合う。


「パパ、少しお話してもいい?」

「うん!いいよ!なぁに?」

「お母さんのことなんだけどね、お母さん死んじゃったんだ」

「、、、」

「だから、お母さんにはもう会えない」

「なんで、なんで死んじゃったの?僕が悪い事したから?ママ怒っちゃったから?」

「違う。違うよ、ママはね、、、」


僕は言葉に詰まってしまった。妻が亡くなった理由なんて誰にもわからない。だから正直に伝えようと思った。


「パパもね、わからないんだ。なんでママが死んじゃったのか、だからパパもさみしいんだ、知りたいんだ。でもね、一つだけわかることがあるんだよ。ママはあいとのことを愛してるってことだよ。」

「なんでわかるの?」

「それはね。ここであいとの名前を決めたときにね、ママがこの子の名前は愛叶がいいな。だって、この子はまだ生まれてきてないのに私達にたくさんの愛をくれるしパパとママの子供がほしいって夢まで叶えてくれて、だからこの子もたくさんの愛をもらって夢を叶えてほしいなって思うんだよね。愛叶のことたくさん愛そうねってママが言ってたんだ」

「、、、」

「まだ愛叶に難しかったか。」

「うん」

「とにかく、ママは誰よりも愛叶のことを愛してたんだよ。そしてパパもママと同じくらい愛叶のこと愛してるよ」


愛叶は少し不思議な顔をしていた。でも、伝わらなくていいんだ。

 

僕が何度でも妻が愛叶のことを愛していた事実を伝えるから。


そこから、愛叶が知らないママの姿を話した。毎日寝る前に愛叶のいるお腹に向かって子守唄を歌っていたんだよとかよくママのお腹を蹴ってママが元気だねって笑ってたこととか。きっとまだ5歳の息子には難しい話かもしれないけど、愛叶はいっぱい思い出話を聞いてくれた。

 だいぶ時間が過ぎて、寒くなってきたからお家に帰ろうと思って片付けをしていると


「パパ見て!流れ星!あ、すぐなくなっちゃうんだ。」

「流れ星は願い事が叶うっていうんだよ」

「じゃあ、僕お願い事するね!」


息子は目をつぶってを手を合わせている。その姿は妻によく似ていた。


「愛叶、何を願ったの?」

「あのね、僕の友達が死んじゃった人はお空に行くんだよって言ってたからお空でもママが大好きな列車の運転ができますようにってお願いしたの!」


僕は息子の言葉に涙が止まらなかった。生前、妻は運転士のお仕事って人を運んでるけど、その行先に向かうのが夢を叶えるためだったり、大切な人に会うためだったり、夢とか大切な思いとかも一緒に運んでるかもしれないって考えたら素敵だよねと話していた。


「ママは流れ星の運転をしているのかもしれないな、今も誰かの願いを運ぶために運転をしているのかもね」

「やっぱり、ママはかっこいいね!パパ!」

「自慢のママだな」


僕の妻は今日もどこかで誰かの夢を叶える流れ星という名の超急行列車を運転しています。

 









 

 

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