第2話

「おーい、佐藤!ボール取ってくれー!」


「はいっ!」


夏休み開始から数日経った8月1日。

この日は朝から夕方までサッカーの部活だった。

僕は部内の人の中ではサッカーが下手な部類ではあるものの、小学校のころから続けてきていたため高校でもサッカーを続けるに至ったのだ。


「よーし、全員集合!…今日の練習は終わりだ。お疲れ様!」


「「「 お つ か れ さ ま で し た !!!」」」




へとへとになった状態で更衣室へ戻る。

他の人は僕がトイレに行っている間にその大半がすでに着替えを終えて帰ってしまっていた。

僕も急いで着替えを始める。

その時、床に僕のスマホが落ちた。

バッグを勢いよく広げた際に転がり出てしまったようだ。

ふと画面を見やると通知画面にメッセージが届いていた。


差出人は、成田さんだった。


僕は慌ててスマホを拾い上げる。

見間違いじゃない、確かに成田さんだ。

何件かメッセージを受信しているが何が…

そこまで考えたとき顧問の先生が更衣室の扉を開けた。


「おーい、早く着替えて帰れー!俺はこの後飲み会あるからよー!」


他の部員は”またかよ”、”いっつも飲み会ばっかりだな”なんて苦笑している。

僕もスマホを脇に置き、着替えを開始した。




部活からの帰り道、僕はスマホを手に緊張しながらトークアプリを開いた。

だが、表示されたメッセージに僕は落胆を隠せなかった。


  ―メッセージの送信が取り消されましたー


  ―メッセージの送信が取り消されましたー


  『ごめんなさう、間違えて送ってしまったみたいです。忘れてぬださい』_15:48_


そりゃあないだろう。


近藤にそそのかされてクラスのグループから成田さんを友達登録したまではよかったものの、何度もメッセージを送ろうとし、そのたびに勇気がなく諦めてきた。

そんな時にそのご本人からのメッセージが届いたのだ。そりゃあ期待もするってもんだろう。

慌てて打ったのか誤字になっているのがまた絶妙にやるせなさに拍車をかけている。

あんなにドキドキした分を返してくれと柄にもなく八つ当たりしてしまう。

これは、近藤には絶対に知られるまいと固く誓う。

アイツなら1か月はこのネタを擦ってくるだろう、そこまで不快ではないとは言えその屈辱にはさすがに耐える自信はない。

夕暮れに染まる中、僕は疲れた体とそれ以上に疲れた心を引きずって家へと向かった。



後になって思えば、この時、いやこの前に行動を起こしていれば、何かが変わっていたのかもしれない。

そう思うこと自体ただ罪の意識から逃れようとしているだけなのかもしれないけれど。




その3日後、成田さんが自宅の浴場で首を吊って自殺したというニュースが流れた。

発見者は出張で家を空けていた成田さんの母親だった。

奇しくもその日は亡くなった祖父の命日だった。

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