第12話
あれからというもの、再びユーリスと顔を合わせない日々が続いた。もちろんフェルナンドとも。
2人はずっと部屋に籠って研究会についての話し合いをしているらしい。
部屋の前を通ると小さく声は漏れて聞こえてくるものの、何を言っているかまでは聞き取れなかったが、その声はどこか楽しそうに思えた。
あの日、完全に成熟していた食物を収穫し、執事さんに渡した。するとその日から美味しく調理された状態でご飯に取り入れてもらうことができた。
「ユーリス様も残さずお召し上がりになっております」
そう執事さんから告げられた時、ほとんど手をかけてないとはいえ、自分の育てた野菜が……と嬉しくなったのは私だけの秘密だ。
そしてその日以来、花壇の手入れを張り切っていることも。
それと……栄養剤はあれ以来使っていない。
心臓に悪いからとかではなく、ただ単純に私が丹精込めて初めから最後まで育てた作物をユーリスに食べて欲しいなんて思っているからである。
それで目の前で「美味しい」と言ってくれたら、そしたら少しは距離が近くなるんじゃないかなんて、ユーリスと『家族』になることを夢に見ている。
そう思うようになったのはユーリスの髪を結ってからのこと。
作物急成長の驚きでその日は気づかなかったけれど、よくよく考えればあの日からだった。
両親も弟妹もおらず、寂しいから彼に代わりをさせようと思っているんじゃないかとも思うが、もし私が心の奥底で代わりを求めているのだとしても、ユーリスは私に『仮初めの妻』を求めているのだからお互い様なのではないだろうか。
そうじゃなくても、まぁ……思うくらいはいいよね。
今日も今日とて我が相棒達と共に野菜達と戯れていると、バーンと大きな爆発音が廊下中いや屋敷中に響き渡った。
「何!?」
ドアを小さく開いて左右を確認する。煙が上がっているわけではなさそうだが、とりあえず首に下げたタオルで口を塞ぎつつ音の方向へと近づいていく。とはいえ右か左かくらいしかわからないのだが。
ここら辺だろうかと感覚のみでたどり着いたのはユーリスの部屋。彼が心配だったというのも少しはある。そして部屋の前まで来ると隙間からは少量の煙が漏れていた。
「ユーリス!」
何かあったのかと思うといてもたってもいられず、ノックもせずに部屋へと踏み込む。
開けた瞬間は顔に煙がまとわりつくような感覚があったが、そもそも煙自体があまりなかったのか、すぐに視界はクリアなものへと変わる。
そこで私が見つけたのはユーリスではなく、目を白黒とさせる1人の少年だった。
ゆっくりと私の方を向いたその少年は未だ状況把握が完了していないのか表情を固くさせているものの、突然部屋へと踏み込んだ私に興味があるようだった。
そしてしばらくの間、ユーリスと同じ緑色の瞳で私を見極める。
「えっと……」
「お姉さん……なんで僕のこと知ってるの?」
「え?」
「さっき呼んだでしょう、ユーリスって。僕の、名前」
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