第11話
「なに、これ……」
花壇の部屋の扉を開いた私の目の前に飛び込んできたのは、ところどころで妙に成長を遂げた植物だった。
その飛び飛びの場所は昨日、栄養剤を撒いたところと完全に一致する。……というか流石に昨日の今日で忘れたりはしないはずだ。
花壇に背を向けて、通ってきた廊下を走ってユーリスの元へと向かう。
あれは何なのかと、ただの栄養剤ではなかったのかと問うために。
「ユーリス、昨日もらった栄養剤を撒いたら花壇の植物が急成長してて……!!」
食堂の扉を開けたのと同時に私が見てきた状況を口早に告げた。
「それ、本当!?」
するとユーリスではない、見知らぬ男性が私の前へと嬉しそうにやってきた。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「ああ、いきなりごめんね。僕はフェルナンド=カプリチオ。ユーリスの親友「同僚だ」
フェルナンドの自己紹介にユーリスは言葉を被せると、彼の背中を押して部屋の外へと出そうとする。
よほど私にフェルナンドを見せたくないのか、それともフェルナンドに私を見せたくないのか、どちらかはわからない。
水晶が選んだお飾りの妻とはいえ、そこまで嫌われてないといいなと2人の背中を視線で追うとフェルナンドは首だけを私へと向けて申し訳なさそうに笑う。
「ごめんね、ルピシアちゃん。新婚ホヤホヤで大好きな夫と離れがたい気持ちはわかるけど、ユーリスを借りていくね。3ヶ月後の研究発表会に向けてそろそろ煮詰めて行かなきゃいけないんだ」
「はぁ……」
「ほらユーリスも、ルピシアちゃんと離れるのが嫌だからってあからさまに嫌な顔しない。給料は馬鹿みたいにもらってるんだからその分だけでも仕事はしないと!」
フェルナンドの中では私達は新婚ホヤホヤのラブラブ夫婦か何かなのだろうか?
違うのに。
多分ユーリスは私と離れるのが嫌だからあんな顔をしている訳ではなく、単純に同僚だか、親友だかのフェルナンドに私を見せたくはなかっただけじゃないかな?
お飾りだし、紹介されて調子乗るなよ! みたいな感じかな、と。
調子になんか乗らないけど。
とりあえず私は美味しいご飯とだだっ広い花壇さえあれば飾りだろうと何だろうと構わないわけで、愛情なんてものは求めてないから安心してほしい。
「ルピシア、私はフェルナンドと少し部屋に籠る。昼食は一人で食べてくれ」
「あ、はい」
フェルナンドはニコニコと、いやニヤニヤと笑いながら「一人で歩けるから押すな!」と騒ぐユーリスの背中を押していく。
ほんの少しの時間しか彼らを見てはいないが、フェルナンドはユーリスの親友兼同僚という立ち位置で認識してしまってもいいのだろう。
私も花壇の部屋に帰るかとドアの方へと振り向いてはたと気づいた。
「結局、栄養剤のこと聞けてない……」
だが落ち着いた今なら分かる。
ユーリスが大枚叩いてお飾りの妻にと連れてきた私に危険な物を渡すはずがないのだ。そもそも栄養剤に変なものを混ぜたら、育てた作物を食べる彼自身も困るだろう。
「なら、まぁ……いっか」
なぜあんなに急成長を遂げたのかは疑問である。だがそもそもこの屋敷に来てから初めて目にするものは多い。あの栄養剤もその一部だと思えば案外すんなりと納得ができるものだった。
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