【ボイスドラマ】気品なお嬢様は工芸部! ガラス細工/音のソノリティ

BB ミ・ラ・イ

プロローグ

謎の少女

(学園内に響くチャイム音)


 午前授業終了、昼休みだ。


「ふぁ〜あ。 ─── さて、 今日はどこで食べるとすっかなぁ」


 俺の名前は佐江内さえない たくみ。適当に生き、適当な人生を歩んできた結果、もう高校に進学して早二月ふたつき。未だに彼女ゼロ、やりたいことゼロ、友達ゼロという状況だった。


 地元の公立高校『有栖川ありすがわ学園』に進学したものの、特にやりたいこともなく、平凡な学校生活をダラダラと過ごす。また、人と関わるのが苦手ってのもあって、『ボッチ・ザ・ライフ』を送り、昼休みになれば『ぼっちめしスポット』を探す。それが俺の日課だ。


「それにしても、偏差値がそれほど高くないっつうのに、無駄に広い学園なこって」


 この学園はバカみたいに広く、無駄に竹林に囲まれていた。


 だから、一人というのは変わらんが、う場所をころころ変え、その日の気分にあった場所で食うことが出来ていた。ある意味、これはぼっちだからこそ可能な、「自由」という名の特権なのかもな。


「あ! そういや……校舎裏に使われてなさそうな建物が見えたっけか」


 適当に校舎内を歩き回っていた俺は、以前、偶然にも見かけたボロい建物が校舎裏にあったことを思い出した。


「よし。そんじゃま、今日はそこでうとするか」


 階段を降り、昇降口で外履きに履き替え、校舎裏に向かう。


「おっ、鍵かかってないじゃん。ラッキー!」


 そこには、一見すると小さなボロい建物。扉には鍵がかかっておらず、わずかに開いていた。


 その建物は、三階校舎から見たときは小さいと思っていた。だが、実際には近づいてみると一階建てだが縦に長かった。ほんで、ほとんど竹林で隠れ、昭和の校舎と同じ木造作りだったようだ。


「これは、もしかしたら穴場スポットか?」


 俺に宿る少年の心とやらが胸疼うずく。


 そして、その疼きに背中押されるよう、わずかに開いていた扉の隙間に手をかけ、ゆっくりと引いてみた。


 扉は、多少ばかり軋む音を立てながら開き、その音に俺は一瞬足を止めたが、意を決して建物の中に足を踏み入れることにした。


「おお、木の温もりの匂い……」


 屋内からは、木の温もりの匂いが漂っていた。


「くうーっ。俺、こういう匂い好きなんだよなぁ……。なんつうか、自然独特の香りつうか、木が持つ本来の香りつうか。ああ、いい。すごくいい」


 俺の心は益々、この建物に吸い寄せられ、そのまま中へと歩みを進めた。歩くとやはり建物がボロいせいか、少しきしむ音がする。


 と言っても、内部は意外と整備されていた。廊下には特に物が置かれておらず、どこか落ち着く感じがした。飯を食う建物としては申し分ない。


 古風な作りだが、どちらかと言えば昔に建てられた建物が、今現在は使われていないために古くなっている、といった感じの印象だ。



 そんなことを思いながら、俺は良さげな場所を探して歩き回った。だが、どの教室も鍵がかかっていて入れなかった。


「うげっ、ここも施錠されてんのか。チッ、不用心なのは入口だけってか……」


 それでも俺は焦りながらも、めげずに一つ一つ教室のドアを確認しながら歩き回っていた。


「あれ?」


 視線の先にあった教室に違和感を感じた。


 なぜか、少し離れた教室の、廊下と教室を区切る腰窓が開放されていた。


「お! ラッキー! あの教室だけ、窓が開いてんじゃん」


 すると、廊下の先から微かに何かを削る音が聞こえた。


「ん? なんだ、この音……?」


 その音がする教室は正しくその教室からだった。俺は恐る恐る教室まで近づいてみた。そして、開いていた腰窓から中を覗いてみた。そこには、窓際のテーブルに座り、何かをしている女子生徒がいた。


「ん? 誰だあの子は? それに、一人で何してんだ?」


 その女子生徒は背が低く、椅子に座っている足が床に届かず、ぶらぶらと揺れていた。彼女の作業内容は分からなかったが、その姿に興味を惹かれ、そのまま様子を伺うことにした。

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