第29話
勉強会が終わり、生徒会メンバーも解散する。
結菜には先に帰るように言い、俺は若月と学校に残った。
「それで、なんで黙ってたんですかー」
ジト目で俺を睨んでくる若月。俺は溜め息を吐きながら弁明する。
「義理とはいえ結菜は妹だ。そのプライバシーにかかわることは話せないだろう」
「ふーん、結菜先輩に義理立ててるのは評価しますけど、先輩がその気ならあたしだって先輩との約束守らないですよ?」
それは他ならぬ宣戦布告だった。こいつが暴走したら何をするかわからない。俺が手綱を握らないと。
「わかった。今度からは気を付ける」
「さすがは先輩です。それじゃ、結菜先輩の好きな人を探ってください」
「そんなのわかるはずないだろ」
「今日だけでも情報は出ました。この学校の生徒で、中学が結菜先輩と同じ人」
若月の目が鋭く光る。
「特定できたとして、なにをするつもりだ」
「それは妨害ですよ。結菜先輩とその男が付き合わないように」
俺は心情的には結菜の恋は応援したい。中学からの片思いで、ずっと一途に想い続けていることをしっているからだ。
なら、俺にできることはひとつだ。若月の言う通り、結菜の好きな人を探る振りをしながら、できるだけ時間を稼ぐ。若月に忠実な振りをしながら、振舞うことで若月の手綱を握ることだ。
「先輩が一番可能性あるんですよぉ。一緒に暮らしてる先輩だから」
確かに若月の言う通り、結菜と一番近い距離にいる俺が、この役目は適任だろう。
これは結菜の好きな人を俺は知る必要があるかもしれない。事前に知っておけば、若月の妨害も防げるのではないだろうか。
それにしても、若月がここまで男を毛嫌いする理由がわからない。単純に男嫌いって範疇を越えている気がする。
「なあ、どうしてそこまで男を嫌うんだ」
そう言うと若月は露骨に肩を震わせた。思い出すのも嫌だというような顔になり、顔を伏せる。
どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
「内緒です。女の子には秘密があるんですよ」
「悪かった。もう聞かねえよ」
冷たい声でそう言ってくる若月に、俺は素直に頭を下げた。
どんな人間にも触れられたくないことがある。俺が母親との確執を触れられたくないように。
若月は笑顔を作ると、俺の脇腹を小突いてくる。
「結菜先輩の好きな人、絶対突き止めてくださいね」
「やれるだけやってみるよ」
「期待してます!」
そのあざとい笑顔を向けられた男子は、一瞬で恋に落ちるだろう。男子が嫌いなのにあざといのはいったいなぜなんだろう。若月に関してもまだまだ知らないことばかりだ。これから接するうちに、少しずつ知っていくのだろう。
若月との会合を終えた俺は、寄り道をする。
スマホにメッセーが届いていたのだ。
俺は班目の家に向かうと、インターフォンを鳴らす。マンションのドアが開き、班目が出てくる。
「いらっしゃい。どうぞ上がってください」
「お邪魔します」
班目の家に来るのはこれで二回目だが、変な緊張がある。ここに来るというのはつまりそういうことなので、当然といえば当然なのだが。
班目の部屋に通され、クッションに腰を下ろす。
「それで、俺を呼びだしたのは今日のことか」
「はい。やはり壮亮には好きな人がいるみたいです」
やはり休憩時間の恋バナの話を気にしていたようだ。久世の好意が自分に向いていないということを知っている班目にとっては、かなり苦しい結果だったに違いない。
「いいんです。いるのはわかっていましたから。だから私はもっと練習しないとと思いました」
「なんで発想がそっちの方へいくのかわからんが、俺を呼んだ理由はわかった」
班目は勉強机の引き出しからキュウリを取り出すと、俺に差し出してくる。
「これで練習しました。少しは上達した自信があります」
そう鼻を鳴らす班目は、とても真っすぐで無垢なやつだと思った。
男を落とす為に性技を身に付けるという発想は普通の女子ならまずできないだろう。それを好きな相手を落とす為に羞恥心を堪え、練習するなんてことはなかなかできることではない。
久世相手にその技を披露できる機会がくるのかは正直分からないが、身に付けておけばきっと未来で役立つことだろう。
それはわかっている。わかってはいるのだが、その練習相手に俺を指名してきたのがいまいち納得できない。俺と班目の関係性はそこまで深くなかったし、最初は勘違いから始まった。
ひょっとすると俺が久世への恋心を見抜いたことで、秘密を共有する相手として俺を認識したのかもしれない。
「安城くん、前回の私の責め、どうでしたか?」
真面目に勉強熱心な班目が真っすぐで眩しい。
班目の問いに、俺はそれに報いろうとできるだけ正直な感想を伝える。
「最初は全然気持ち良くなかった。握る強さも弱かったし、扱くスピードも遅かったから」
「やっぱり最初は怖かったので。男の人の大事なところだから、どれぐらいの強さで握っていいかわからなかったので」
それはわかる。俺も結菜と初めてした時、おっかなびっくりだった。できるだけ丁寧に触ることを意識したが、それを結菜は気に入ったらしい。俺自身、自分はセックスが上手いとは思ってはいないが。
班目も初めてで緊張したことだろう。男の性器を見るのも初めてだったはずだ。それを手で触れて、壊れてしまったらという気持ちになるのは頷ける。
「でも、最後までできたし、初めてにしては上出来だったと思うぞ」
実際、結菜も初めての時はあんなもんだった。未経験なのだから当然だ。
「私も、安城くんに練習させてもらった後、その、えっちなビデオとか見て勉強しました」
ひょっとしたらとは思っていたが、やっぱり見ていたか。班目のような一見そういうことに興味無さそうなやつが意外にエロいというのは案外あるらしいからな。
「その成果が出るかはわからないけど、頑張ってみるね」
班目がそう言ってやる気満々なので、俺も覚悟を決める。
班目が俺の服を脱がし、目を細めた。
※※※
「どうだった?」
「気持ち良かったよ」
絶頂まで導かれた俺は肩で息をしながらそう答える。
今日の班目は凄かった。スイッチが入ったかのようにノリノリで責めてきた。
特に俺が驚いたのは口を使ったことだ。それもえっちなビデオで得た知識なのだろうが流石に口はまだ上手く扱えないようだった。歯が何度も当たったし、口で絶頂までは至らなかった。
だが、手の方は本人の自信の通りかなり上達していた。握る強さも扱くスピードも程よく、あっという間に絶頂に導かれた。
俺をイカセて満足そうな班目は目を輝かせていた。
「今度は口でイカせられるように練習しておきます」
いったい何で練習するつもりなのだろう。単純に疑問が浮かんだが、俺は口にはしなかった。
「しかし、たった一回でここまで上達するとはな」
「安城くんに練習に付き合ってもらっていますから。上達しないと申し訳ないです。その努力はしっかりとしているつもりです」
確かにたった一度でここまで上達するのなら、班目はセンスがいいのだろう。当然努力もしているだろうが、たった一度でここまで上達するのはセンスの良さがなせる技だと思う。これなら班目は将来的に床上手になるのは容易に想像できた。
「これなら俺もういらなくないか?」
「いいえ、自信をつけるにはもう少し練習する必要があります。なので、これからもお願いします」
「わかったよ」
そう言われては断れない。俺は頷くと、掃除を済ませ班目の家を後にする。
班目の勉強熱心なところ、少しは見習わないとな。そんなことを考えながら帰路を急ぐのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます