セフレが義妹になった話

オリウス

第1話

「……どういうことだ」

「それはこっちのセリフよ」


 困惑のあまり俺たち二人はそれぞれの親を置いて外に出ていた。何を隠そうこの女とは一言では言い表せない関係を築いている。そんな女が今日から一緒に住みますと言われても、俺は到底受け入れられない。

 順を追って話そう。親父が再婚することになった。俺ももう高校生だし、好きにしたらいいよと特に相手については詮索しなかった。そんな父親の再婚相手と娘が今日から一緒に暮らすというので、俺は家で待機していた。その父親の再婚相手と娘が引っ越してきただが、玄関に迎え入れたわけだが、ここで一つ誤算があった。なんと父親の再婚相手の娘は俺の顔見知りだったのだ。

 いや、はっきり言おう。顔見知りどころかセフレだ。俺と目の前の彼女、和泉いずみ結菜ゆいな改め安城あんじょう結菜ゆいなはただならぬ関係にある。


「苗字聞いてピンとこなかったのか」

「しかたないじゃない。私だってママの再婚相手なんて誰でも良かったし。苗字なんて気にしていなかったんだもの」


 俺こと安城あんじょう穂高ほたかはまさかのセフレと兄妹関係になったのだった。

 

 そもそも、俺と結菜が知り合ったのは数合わせで呼ばれた合コンだった。クラスで浮いている俺は、普段はそういったイベントに誘われることはないのだが、その日は違った。俺の幼馴染が頭を下げて頼んできたのだ。あまり気乗りはしなかったが、幼馴染の頼みを無下にはできない。俺はしかたなく合コンに参加することを決意するのだが、それが結菜との出会いの始まりだった。

 当然、俺は合コンに参加しても特に楽しめているわけではなかったのだが、ドリンクバーを入れにいったタイミングで結菜と鉢合わせ、声を掛けられたのだ。


「ねえ、安城くん楽しめてないでしょ」

「ああ、和泉さん。そうだね。こういう場は慣れなくて」

「実は私もなのよ。数合わせで呼ばれただけ」

「でも和泉さん、凄い人気あるじゃないか。うちの男子目を輝かせてたよ」


 実際、結菜は目を引く美少女だった。長い絹のような黒髪に目鼻立ちの整った顔。ぱっとしない俺なんかとは遺伝子レベルで差を感じざるを得なかった。


「うーん、私ああいうぎらついた男子は怖いから嫌かな。どうせなら安生くんみたいなタイプがいい」

「俺なんか誰にも相手にされないよ」

「卑屈ね。そうだ。私たちで抜け出しましょうよ。誰かと抜け出すならこのまま帰れるし」

「そうだね。俺もここに居続けるのはしんどいし、抜け出しに協力するよ」


 そう言って俺ら二人は抜け出した。そのまま解散するのかと思ったら、結菜は俺の袖を引っ張ってくる。


「初体験、したくない?」


 突然のお誘いに、俺はなんのことかわからず困惑した。


「私、実は失恋したばかりで。誰かに慰めてほしいのよね」

「それが俺だと」

「そう。君ならあまりがっつかなさそうだし」

「付き合ってもないのにそういうことするのどうかと思うよ」

「真面目ね。でもいいじゃない。私が不良にしてあげる」


 俺は誘われるまま、彼女の家へと連れていかれた。そこで、互いにシャワーを浴びると、彼女の部屋で俺たちは初体験をした。

 結菜も挑発的に俺を誘ってきたから経験者なのかと思ったら、初めてだったのだ。お互い初めて同士で、挿入れるのに少々手間取った。なんとか行為を終えた俺たちはベッドで横になりながら雑談を交わす。


「どうだった、初体験は?」

「正直、凄く良かった。血が出たのはびっくりしたけど」

「安城くんは優しかったよ。丁寧に触ってくれたし」

「おっかなびっくりだっただけだよ」

「でも、優しかった。私、なんだか満たされた気分。そうだ、今後もこういう体の関係続けない?」

「いいのか? 体の関係だけで」

「正直、しばらく恋愛はいいかなって。でも、安城くんも特定の相手はいなさそうだし、ちょうどいいかなって」

「わかった」


 こうして、俺たちはセフレになった。何度か体を重ねるうちに、呼び名も互いに名前で呼ぶようになり、今に至る。


「とにかく、父さんには絶対にバレないようにしないと」

「ママはその辺鈍感だから大丈夫だと思う。案外平気なんじゃない?」

「いや、ダメだ。関係を解消して普通の家族として暮らそう」


 俺たちはそう話を合わせ、家の中に舞い戻った。家の中では父さんたちが荷解きをしていた。俺も手伝った方がいいだろう。階段を上がり、結菜を部屋へと案内すると、結菜の荷物を何往復かして部屋に運ぶ。荷解きを手伝おうかと言ったら、結菜は自分でやると言って断ったので、俺は自室に戻ることにする。

 まさか結菜が義妹になるとは。誕生日は俺の方が早く、四月二十日なので俺が兄ということになっている。結菜の誕生日は六月二十五日らしい。今は八月末で二人とも誕生日はもう過ぎているから、同い年だ。

 正直、結菜と体の関係になって、その関係を解消することになったのは惜しい。結菜の体は最高で俺自身、何度もお世話になった。今後結菜を思い出して一人ですることもあるかもしれない。というか今までは父さんだけだったから一人でする行為もできてたけど、女性が二人も増えるとなると、一人での行為をするチャンスも減るのでは?

 そんな不安を抱えながら、眠気が襲ってくる。俺はその眠気に抵抗せずに、ゆっくりと瞼を閉じた。


「起きて」


 肩をゆすられ、目を覚ます。見ると結菜が俺を起こしに来ていた。俺はゆっくりと体を起こすと、瞼を擦った。


「ママたちがごはんって」

「わかった、降りるよ」


 そう結菜に断ってベッドから降りる。一階に下りると、美味しそうな匂いが立ち込めていた。リビングに入るとテーブルの上に美味しそうなすき焼きが乗っていた。


「今日は一緒に暮らし始める記念日だからな。豪勢にしたぞ」


 父さんが豪快に笑いながら、そう言う。結菜の母親の由仁ゆにさんは口元に手を当てながら静かに笑うと、俺に座るように促した。


「穂高くん、荷解き手伝ってくれてありがとうね」


 由仁さんは結菜の母親というだけあって色っぽい。大人の魅力が存分に詰まった容姿で、父さんもその魅力にやられたのかなと思った。結菜は俺の正面に座ると、手を合わせていただきますをした。


「結菜、どうだった。穂高くんは?」

「いい人ね。まだ打ち解けるのには時間がかかるだろうけど、仲良くやっていけそうな気がするわ」

「穂高はどうだ? 上手くやっていけそうか?」

「うん。結菜さんは可愛いからちょっと緊張するけど、なんとか大丈夫そう」


 いつもは静かな食卓が一気に華やかになった。会話が途切れず、みんなですき焼きをつつきながら、その日は終わった。

 夕食後、お風呂に入ろうと浴室を開けたら結菜がいた。服を脱いでいる途中で下着姿だった。


「ごめん」

「ノックしてよね。……それとも、一緒に入る?」


 結菜は含み笑いをして小悪魔のように俺を誑かす。そんな誘惑をされたら、体を重ねた時のことを思い出して、裸を想像してしまう。それをなんとか振り払い、俺は浴室に背を向けた。

 だが、一度浮かんだ結菜の裸姿は消えてくれず、俺の脳内に居座り続けた。


「一発抜いておくか」


 部屋に戻った俺は人知れず自分を慰めるのだった。


 結菜が風呂を出たので、俺も風呂に入る。一日の疲れを洗い流し、扇風機の前で涼んでいると、結菜が部屋に入ってきた。パジャマ姿の結菜は初めて見る。その装いは俺をどぎまきさせる。


「なんの用だ」

「パジャマ姿を見せに来た」


 そう言うと結菜はベッドの上に腰掛けた。


「隣、座らない?」


 結菜に誘われ、俺は隣に腰掛ける。シャンプーの匂いが隣から立ち込め、俺を誘惑する。


「一緒に寝る?」

「ダメだろ。父さんたちに見つかったら言い訳できなくなる」


 良かった。さっき一発抜いたおかげで、まだ冷静に話ができる。これが溜まっている状態だったら俺は暴走していたかもしれない。

 結菜は美しい。おっぱいは大きいし、引き締まるところは引き締まっている。男好きのする身体だ。だからこそ、一緒に暮らすのは危険だ。どこでボロを出してしまうかもわからない。できるだけ一緒にいるのは避けるべきなのに。それなのに、結菜から俺に近付いてくる。


「なあ、俺たちもう少し距離を置いたほうがいいんじゃないか。父さんたちにバレたくないし」

「でも、いきなり赤の他人になるのは私には無理かな」


 そう言って結菜が俺の股間を擦ってくる。明らかに誘っていた。俺はぞくぞくする感覚を味わいながら、歯を食いしばりながら言う。


「やめろって。我慢が効かなくなる」

「我慢しなくてもいいんだよ?」

「ダメだって。父さんたちもいるんだぞ」

「声を殺してしたらバレないって」


 結菜はスイッチが入ったように、俺を誘惑してくる。パジャマから覗くおっぱいの谷間に視線が吸い寄せられる。これはマジで一発抜いていなかったらやばかった。俺は結菜を押しのけると、溜め息を吐く。


「あのな、俺たちは家族なんだ。家族でそんな関係だったらおかしいだろ?」


 俺の苦言に結菜は頬を膨らませて言う。


「してる時はあんなに私に夢中だったくせに」

「それはそれ。これはこれだ」


 自分の行為のことを言われるってのはこんなにも恥ずかしいことなんだな。俺は苦笑しながら結菜を諭す。


「家族になった以上、そういうことは禁止。それが平穏に暮らしていく為のルール」


 猿でもわかるように話しているつもりだが、結菜は不満そうだ。ジト目で俺を睨みながら、不平不満を口にする。


「ええー、穂高のおちんちん恋しいよ」

「そういうことも言わない!」


 家の中でなんてこと言うんだ。俺は結菜を部屋の外へ押し出そうと立ち上がらせる。


「ちょっと、引っ張らないでよ」

「だったらさっさと出ていけ」

「わかった。わかったから。もう」


 結菜は観念したのか、立ち上がり俺に背を向ける。最後に振り返ると、舌をぺろっと出して言う。


「私、諦めないからね」


 そう言ってようやく部屋を出ていった。いったいこれからどんな誘惑が待ち受けているのか俺にはわからない。部屋に残った結菜の残り香のせいで、俺は悶々として眠れない夜を過ごすのだった。

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