魔法少女《マギア・プレア》が世界を統べる

無口

第1話 魔法少女のいる日常

 かつて、空想の存在だった魔法少女が現実のものとなった。

 10年前に日本を襲った大災害、その被害は全国に広がった。原因は突如として現れた怪物によるものだった。

 本能のままに人や動物、建物を襲った怪物は後にクリーチャーと命名された。


 しかし、被害は最小限で収まった。クリーチャーの出現を追ってきたかのように、魔法少女が現れたのだ。彼女らはたった三人で全国に出現したクリーチャーたちを討伐していったのだ。

 政府は、魔法少女を特殊な自衛隊として認める代わりに、彼女らにしか倒せないクリーチャーの討伐を任せることにした。


 魔法少女が政府公認になってから五年、日本の首都東京に本拠地が設けられた。それから三年後、魔法少女の世代交代に伴い、クリーチャーの出現の多い地域四ヶ所に新しく拠点を作り、四つの部隊が編成された。


 ◇


 夜空よぞら紫音しおんという少年は魔法少女に憧れていた。小学生の頃、魔法少女という存在が現実となって、不謹慎ながらも心が躍った。

 幼い頃、名前や可愛い容姿からよく女の子みたいと揶揄われ、クラスメイトの女子たちと連むようになり、魔法少女に憧れを持った。高校生となった今でも、怪物たちと戦い続ける彼女らに勇気をもらっていた。


 紫音の住む北海道にも魔法少女の基地が存在し、時々目にすることができる。紫音と同じくらいの歳の女の子たちが怪物たちと戦っているのは、少し不思議な感じがしていた。


 ある日のこと、紫音は街に出現したクリーチャーを魔法少女が討伐するのを見に行っていた。

 朱色と白色を基調としたドレスに、大きめのリボンが至る所に飾りついている服を着た女の子が、軽々とクリーチャーに攻撃していく。マギア・スカーレット、この辺の地域を守る魔法少女の一人だ。

 正義感が強く、純粋に世界平和を願っている優しい女の子。北海道支部の魔法少女の中のムードメーカー的存在である。


『スカーレット、ご苦労様』

「いや、これくらい平気だよ」


 スカーレットに話かけたのは、デフォルメ化されたフクロウのようなものだった。人の言葉を話すフクロウは、魔法少女のマスコット的な存在だ。

 フクロウは、才能のある人を見つけて魔法少女にスカウトをしたり、様々な情報で魔法少女たちをサポートする役割を担っている。常時、魔法少女たちの側にいる訳でなく、基本は拠点から遠隔で情報を提供したりしている。


 スカーレットは周りに怪我をしている人がないか確認してから、どこかへ飛び去ってしまった。


「かっこいいなぁ」


 誰に言うでもなく、紫音は呟いた。

 誰にでも優しくて、強くて、かっこいい。そんな魔法少女たちに憧れていた。


 その日の帰り道、紫音はいつものように帰路を進んでいた時のことだ。

 路地裏の方から、何やら声が聞こえた。声は弱々しく、今にも消えてしまいそうなほどだった。


 紫音は路地裏の中に入っていった。

 数十分前に魔法少女の戦いぶりを見て、自分も誰かの助けになりたいと思ったのだ。

 路地の奥まで行くと、一匹の鳥がいることがわかった。魔法少女たちが連れてるようなデフォルメ化した鳥。翼が退化したような姿の鳥のマスコットは、ペンギンのように見えた。


「えっと、怪我してるのかな?」

『少年よ』

「しゃべった!?」


 人の言葉を話す鳥と言えば、魔法少女たちのマスコットに似ている。

 でも、ペンギンを連れている支部は存在しない。


『君には素質がある。私の力が尽きる前に少年に力を授けたい』

「それってつまり?」

『私と契約して、魔法少女マギア・プレア…ではないな。魔法少年マギア・プエルになって欲しい』


 紫音はその言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。

 ある夏の夕方のこと、薄暗い路地裏で、その言葉が強く紫音の耳に残った。

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