第24話 前途多難
この教室に来る前、大講堂で始業式みたいのがあった。
首席のパメラ様が代表で挨拶をしたのだが、俺は2番でつくづく良かったと思う。
食堂での事が有り、男子生徒から睨まれる事が多いからだ。これ以上顔を売りたくはない。
この世界は貴族社会だ。魔法学院が門戸を広げてるといっても学院で学ぶにはそれなりに金がかかる。なので貴族の比率は高い。
このAクラスが貴族以外の者が1番多いが、それでも冒険者が4人だ。
席順は特に決まってはいないのだが、貴族どうしの力関係があるのかグループ分けが既に出来てるいるようだ。
エリカ様のお陰でパメラ様やルナ様達と面識が有る為、一緒に窓側の席に陣取る事が出来た。
中年の冒険者と猫族の獣人の冒険者の娘も、俺達が冒険者という事もあって居心地が良いらしく後ろについて座っている。
扉を開け教官が入って来た。
「私がこのクラスの担任のアンヌだ。1年という短い期間だが困った事があれば何でも言って来てくれ」
俺達に関わる重要な人達を適性鑑定する癖でつい観てしまう。
教育に関しては熱心で良い先生のようだ。結構、大雑把な性格のようだ。どことなく寮長のアスカさんに似ているな。
「そこの君!私の話を聞いているのか?」
「えっ」
しまった、また余計な事を考えていたらしい。
「後で教官室に来なさい」
「はい」
俺が教官に怒られるのだろうと想像する男子生徒達が「ざまぁみろ」という顔で俺を見る。
「シン、大丈夫?」
「とって食われたりはしないだろう。後で行って来るよ」
初日なので、この学院の規則や設備のガイダンス的な話の後、各施設を周るなどをしてから2回生の演習などを見学して終わった。
「じゃ、行って来るよ」
「後で食堂でね」
この食堂というのは、寮のではなく学院の大食堂の事だ。
ここがアンヌ先生の教官室だな、ノックをする。
「Aクラスのシンです。参りました」
「入れ」
部屋自体は綺麗に片付けられているが、机の上は書類や本が乱雑に積まれていた。
おっと、余計な事を考えてるとまた失敗しそうだ。とりあえず先に謝っておこう。
「すいませんでした」
「謝る事はないぞ。あれは君を呼ぶ為の口実のような物だからな」
「はい?」
「実はなレイモンド教授が君と話したいと言って、私に仲介役を頼んで来たのでな」
なんとまだるっこしい。直接来れば良いのに。そういう取り決めでも有るのだろうか?
「ついて来たまえ」
教官室を出て3階に上がって隣の棟に行く為に渡り廊下を通って行く。
この棟は研究室が集まっている棟で、大学で言えばゼミのような物になる。生徒はどこかの研究室を選んで入らないといけない事になっている。
「レイモンド教授、シン君をお連れしました」
「どうぞ中へ」
「では、頑張ってな」
アンヌ先生はウインクをしながら帰って行った。いったい何が始まるのか?
部屋にいたのは実技試験の時の初老の試験官だった。
「かけてくれ給え」
「失礼します」
「どうぞ」
ハーブティーを持って来てくれたのは助手……ではなくオーガの女の子だった。それも言葉を話す。
教授の従魔になっている。
「驚かんのだな」
「俺にも従魔がいますから」
「なるほど」
ハーブティーに口をつけ一瞬の間の後、教授が切り出した。
「気を悪くしないで欲しいのだが、あの後直ぐに君の経歴を調べさせてもらった。あの無属性魔法は実に見事だったからね」
「ありがとう御座います。でも、なぜこんなまどろっこしい事をするのです?」
「そうだな、結論を急ごう。君達が運んで来たあの円盤だが一向に解析が進んでいない。だが、各分野の教授達の意見が一致している事がある」
「それは?」
「無属性の魔道具ではないか?という事だ」
そう言う事か。あながち的外れではない。
「そんな大事な事を入り立ての1回生に話しても?」
「うむ、そこだ。君にあの円盤の解析をするのに加わってもらいたい」
「俺ですか?国をあげての研究ですよ、こんな若輩者など相手にしてもらえないでしょう」
「そこは私が皆を説き伏せる。君のセンスが必要だと私は確信している。この通りだ」
参ったな。確かに答えは知ってるけれど。……ここまで頭を下げられては仕方ないか?
「分かりました、頑張ってみますが過度の期待は困りますよ」
「勿論だ。そうと決まれば君にはこの研究室に入ってもらう」
「ここですか?」
「そうだ。ここは無属性魔法の研究室だからな」
あ~、そうですか。それなら俺にもプラスになるわけだ。
「表向きはここの研究室員という事になる。魔道具の解析の話は内密にな」
「解りました」
ーー
大食堂に行くと人の熱気で凄い事になっていた。寮とは違い1回生と2回生が分かれていないので余計にそう感じる。
原因はパメラ様達のグループのようだ。2回生達が挨拶をしようと立ち代わりやって来ている。
昔からの伝統なのか左側よりが貴族達の席になるらしく、リサは右の隅でお茶をしている。
「終わったよ」
「怒られた?」
「いや、研究室へのお誘いだった」
「ふ~ん、私よりずっと上の2番だものね」
リサの口を尖らせた顔がちょっと可愛いかったりする。
「で、どの研究室なの?」
「無属性魔法の研究室」
「そう、まさにシンの為の研究室ね」
「ホントだね」
「私はどこにしようかな?」
「お話の途中ですまんが、相席良いかな?」
立っていたのは中年の冒険者ランドさんと猫族冒険者のネネさんだ。
「どうも周りは貴族ばかりで居心地が悪くてね。いずれ模擬トーナメント戦の為にクラスの中で4人のパーティを組む事になると思う。どうだろう私達でパーティを組んでもらえないか?」
適性鑑定で2人は悪い人ではないのは判っている。成績ももちろん優秀だ。なんの問題も無い。
「俺は良いと思うがリサは?」
「シンが良いなら問題無いわ」
「そうか、ランドだ。有り難い宜しくな」
「ネネよ宜しくなのです」
「こちらこそ」
この魔法学院において、ずっと無敗無失点の破られる事のない記録を打ち立てることになるパーティが結成された瞬間だった。
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