無茶振り女神の前髪をつかめ
主水
胎動
第1話 プロローグ
父の葬儀が済、独りになると気が抜けて自分の部屋に座り込む。
母は3年前に亡くなっている。俺には他に身内が居ない。さて、どうしようか?
「独りボッチか……」
「にゃう」
ノルウェージャンフォレストキャットの愛猫ララが膝の上に乗って来た。
「お前が居たんだったな、すまん」
「にゃにゃ」
ララをモフモフしてたら気力も湧いて来た。大学は辞めて母と父のこのアクセサリー店をやってみるか?
父には子供の頃から教わり、センスが良いと言われていたので多少の自身もあるし、常連さんも応援してくれると言ってくれている。
飾ってあった母のペンダントと父のペンダントを手にとる。
2つ共角度の広い∨の字になっていてルビーが先と交わった所に1つずつ付いている。
片方の∨の字を逆さにしてもう一方に重ねるとはめ込む事が出来る。
父はこれは用宗家の家紋になると教えてくれた。
確かに丸いルビーが上下に3つずつ並ぶとルビーが六文銭に見えるので、真田幸村に縁が有るのかと訊いたら大笑いされたっけ。
そんな事を思い出しながら眺めていると俺の部屋が突如として輝き出した。
「えっ?なに」
俺を中心に幾重にも現れた魔法陣らしき物がグルグルと周りだし輝きを増す。眩しくて目を開けていられない。
「…………う~ん」
どうやら俺は気を失っていたようだ。身体を起こし辺りを見回す。
「うっ!」
思わず吐きそうになる。俺の目に入って来た物はバラバラになり散乱する無数の死体だった。
どうにも我慢ができないので、下を見て準備をする。限界が来る前に違和感を感じたのでもう一度顔を上げた……。
よく見ると、生き物だったであろう部分から流れている液体は赤くはなかった。人間じゃないのか?だからといって吐気は収まらず軽く吐いてから注意深く見ると確かに人の顔はしていない。
見回すと何かと目が合った。
「と、虎?」
ビロードの様な茶色の美しい毛並みの大きな虎がエジプト座りをしてこっちを見ている。
こいつが殺ったんだ。直感で理解した俺はビビって動けない。
だが襲って来る気配は無い。暫く固まっていると大きな虎は毛づくろいを始めた。どこかで見た様な毛づくろいのルーティン……。
それってララと同じ毛づくろいの仕方……えっ、ララなのか?
「にゃう」
どうやらそうみたいだ。ボ~っとララを観ていると目の前に文字が見えて来た。
文字以外は透けて景色は見える。
名称 ララ(シンの従魔)
種族 ボルテックスタイガー
LV 3
体力 333
魔力 3500
属性 風・雷・闇
スキル 隠遁 (7/10)
気配察知 (7/10)
危険察知 (7/10)
認識阻害看破(7/10)
魔力操作 (7/10)
知覚共有 (7/10)
長所 用心深い・シンが大好き
短所 甘えん坊
変更可能職業 魔法同属性全て可
加護 女神セシル
あ~…………もしかして、そう言うことですか?
俺にだって学校に友達はいる。ゲーマーでありラノベ好きの鈴木には、よく付き合ってゲームもしたし本も読まされた。
これが夢でなければ、ここは異世界で散らばっている死体は魔物でララは魔物になってしまったと……。
「冗談ではない!勘弁してくれ」
大声で叫んだところで状況は変わらなかった。頬をツネれば痛い。
「参ったな。なんでこうなる?」
仕方ないので覚悟を決める。少し怖いがララに近づき撫でてあげる。
「ありがとな、俺を護ってくれたんだね」
「にゃっ」
ララは目を細めて気持ち良さそうだ。
よし、まずは状況確認からだ。
改めて周りを観察する。どうやらここはかなり古い遺跡の様だ。遺跡は原形はとどめてないし、石で出来た壁等もかなり風化している。
大きな石像も立っている。上半身は崩れ去り顔も判からないが乳房が片方残っているし、どことなく祭壇の雰囲気があるのできっと女神様なのだろう。
崩れた女神像の後ろの方は少し進むと断崖絶壁で海だった。
つまり女神像の向いている方に進むしかないわけだ。しかし気が遠くなりそうだ。鬱蒼としている森が何処まで続いているのか判らない。
「行くしかないのだろうね……ララ?」
「にゃう」
おっと、その前に自分のステータスを見なくては。ここは定番の文言でやってみるか。
「ステータスオープン!」
名称 モチムネ・シン
種族 人族
LV 1
体力 163
魔力 2500
属性 無し
スキル 職業適性鑑定師(7/10)
・マスター特権 【使用】/変更(5/10)
・職業ストック帳
鑑定 (3/10)
魔力操作(3/10)
錬金術 (3/10)
亜空間 (3/10)
加護 女神セシル
本当に出て来る……あ~異世界確定か。それにしても職業適性鑑定師とはあまりパットしないな。これって戦えるのかな?
試しながら検証していくしかないな。
「暫くはララのスキルに頼るよ」
「にゃにゃ」
「よし、出発!あっ……」
色々と考えている間に日が暮れて、辺りは薄暗くなっていた。ただでさえ視界の悪い森に入るのだ、流石に不味いな。
「今日はここで野営だな。どこで休むか」
見回すとララが倒した死体の山なのだが、スキルを認識したせいかそれが何なのかが判るようになっていた。
ゴブリン
長所:繁殖力強
短所:性欲強い、ずる賢い、女好き・男好き
適性職業:ゴブリン
適性一致:有
変更可能職業:オーク、サキュバス、キマイラ……
ゴブリンだったのか。なるほど見た者の性格なんかが判るのか。でもなぁ、役に立つのか?これって。言い回しが解らない所が有るからまだ判らないけど。
しかしバラバラの死体の山の付近で寝るのはちょっとね。
「ララ、これなんとかならない?」
「にゃううん」
「おっと、ちょっと待って」
俺は武器を持っていないのでゴブリンの使っていた錆びている上に刃こぼれしてガタガタだが2本だけ取っておく。
ララが尻尾を振るとララの頭上に魔法陣が無数構築され、そこから紫の炎が出たかと思うと火炎放射器の様に辺りを焼き尽くして行く。
「すげぇ、俺が読んだ本から察するに闇魔法の一種だな、きっと」
ゴブリンの死体はララのお陰で跡形もなくなった。これで気にしないで眠れる。
周囲の警戒はララに任せて横になると精神的に疲れていたのだろう、俺は直ぐに意識が無くなって行く。
……。
俺は今、ファンタジー映画を観ているらしい。神々が言い争いをしている。理由は神々が創造した星に住む人種族が
傲慢になり他の種族を蹂躙して欲望の限りをつくしているからだ。それは地球の規範や道徳からすれば鬼畜にも劣る行為だった。
もともと異世界はそう言う所が有るとは思うが。内容については結構エゲツナイので、説明はちょっとひかえるとしよう。
まぁ、地球でもこういう陵辱と殺戮はあるので想像してみてくれ。
神々の意見は真っ二つに分かれている。
〈守るに値しない〉として全てを消去して造りなおす。という言わば急進派と〈神託により導いていこう〉という穏健派だ。
二派の対立は話し合いでは決着がつかなかった。そして、とうとう神々による戦争になってしまった。
勝ったのは穏健派だったが、神々の凄まじいエネルギーのぶつかり合いの余波のせいで地上界は天地がひっくり返る程の大災害に見舞われ、各種族の被害は甚大なものとなった。特に人族は他種族に比べて大きくその数を減らした。
穏健派は戦いに勝ったが、皮肉な事に全てを滅ぼすと言う急進派の考えとほぼ同じ結果になってしまった。
にゃ~ん……にゃ~ん……にゃ~ん……。
んん、これはララのにゃ~んアラーム。俺が惰眠を貪っていると起こしに来る。止める方法は布団の中に引きずり込んでお腹をモフモフすれば良い。
手探りでアラームの鳴る辺りを捜す、居た。背中の皮を掴んで引っ張って来てモフモフモフモフ。
さて、起きるか。あれ?ララが元の姿に戻っている。もしかして地球に戻ったのか?急いで周りを見回すが遺跡が目の前に在った。
「やっぱり駄目か」
「にゃ」
「ララ、元の姿に変身できるんだ」
「にゃう」
「これなら街に入っても大丈夫だね」
「にゃ」
それにしてもリアルな夢だったな。ギリシャ神話とSF小説とアニメを足して3で割った様な話しだったけど。
あの後世界はどうなったのだろう?
数が少なくなった人族は、他種族に比べてかなり不利になった筈、逆に責められる羽目になってしまったのだろうか?反省して他種族と上手くやったのだろうか?
まぁ、夢であっても本当の話しであっても、ここに居る俺には関係のない話だ。
「さぁ、ララ、行こうか」
「にゃう」
これからの目的は、誰が俺達を
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