異世界からの転移者テン・イシャは世界で最弱だと思っているが実は最強

ノーネム

第1話

地球という惑星がある宇宙とは別の宇宙で、その宇宙にある惑星にて「史上最高の賢者様」と呼ばれる存在がいる。


その賢者はある時から異空間に閉じこもり、自らが造った人型ゴーレムに身の回りの世話をさせていた。


ある朝、人型ゴーレムが賢者の朝食を作ろうとしたところ、まな板の上に見慣れない食材が。


その食材は生きているようだ。


「……はて? このような食材は私の知識にないですね。マスターが置かれたのかしら」


調理用ナイフでその食材を解体しようとした人型ゴーレム。


その手を止めた。

 

「刺し身、煮る、焼く、燻製、どれにするかで解体方法も変えないとね。マスターに聞きましょう」


人型ゴーレムはマスターである賢者に聞きに行った。


「マスター、おはようございます」

「うむ? まだ朝食には早いようだが」

「マスターが御用意された食材ですが、どのように調理すればよいかとお聞きしたく」

「我が用意した食材だと?」

「はい」

「この異空間にある食材は全て我が用意した食材だが」

「それが、私の知識にない食材なのです」

「ふむ?」


賢者はその食材を見に行くことにした。


まな板の上には人間の赤ん坊がいた。


「……人間の赤子だな」

「ニンゲンノアカゴという食材なのですか」

「いや、食材ではない」

「食材と違うのですか?」

「違う」

「では、私にあのニンゲンノアカゴをどうしろと」

「……流石の我もこの事態に少し動揺しておる」

「大丈夫でございますか?」

「我の構築した異空間に我以外の者が入れるわけがないのだ」

「そうなのですか」

「そうか、赤子の姿をした人型兵器かもしれぬ」

「そうなのですね」

「へたに触れると爆発するかもしれぬ」

「それは危険です。勝手に解体しなくて良かったです」

「そうだな」


賢者は鑑定魔法を使った。


「む? 異世界からの転移者? 年齢は生後3ヶ月で性別は男、名前は……読めん」


賢者は異世界というものがあることを知らなかった。


「ふむ、我が異空間を構築できるように、誰かが異世界なるものを構築したのだろうな。あの赤子はその異世界から来たということか」


賢者はそう理解した。


「マスター、あれはテンイシャという人型兵器なのですか?」

「いや、あれは我の小さき時と同じようなものだ」

「マスターの小さき時?」


理解できない人型ゴーレム。


賢者は100歳。人型ゴーレムは賢者が老人になった姿しか知らない。


「そうだな、80年もするとあれが我のような姿になるのだ」

「へえー」


赤ん坊を異空間の外へ捨てようかと思った賢者だが、やめた。


「異世界というものを構築できるような者が我の異空間にあれを転移させた。その目的を考える必要があるな。お前はどう思う」


人型ゴーレムに質問した賢者。


「偉大なるマスターへの贈り物では」

「ふむ。しかし、このようなものを貰っても困る」

「ならば私が貰ってもよろしいですか?」

「ふむ、いいぞ。好きにしろ」

「ありがとうございます」


そうして、異世界から転移してきた赤ん坊は人型ゴーレムに育てられることとなったのだ。


人の子供の育て方、その知識を賢者から与えてもらった人型ゴーレムはちゃんと子育てをした。


赤ん坊はテン・イシャと名付けられた。


テンはすくすくと成長し3歳に。


「お母さん」


テンは人型ゴーレムのことを「お母さん」と呼ぶ。


「はい」

「僕とお母さん以外の生き物はいないの?」

「それをテンが知る必要はありません」

「ふーん」


テンは賢者の存在を知らないのだ。


テンが13歳になり少しして賢者が寿命を迎えた。


「テン、この空間はあと1日で消滅します」

「どうして?」

「それをテンが知る必要はありません」

「ふーん。この空間が消滅したら僕とお母さんは?」

「一緒に消滅します」

「ええっ? じゃあ、早く外の空間へ逃げよう」

「それは無理です」

「そっか。無理、なんだね」

「それに、外の空間は恐ろしい世界なのです」

「恐ろしいって、どんな?」

「そうですね、外の世界にはテンのような姿をした者が10億人はいます」

「そんなに!?」

「はい。そして、ものすごく強い」

「強い?」

「はい。いちばん弱い者でもテンの何倍も強いです」

「はー、そうなんだ」

「そして、魔族やモンスターといった異形の者がいて、それらはテンの1万倍、いえ、1億倍は強いのです」

「……怖いね」

「そうです、簡単に殺されてしまいます」

「ひえ〜」

「簡単に殺されるならまだましです」

「え?」

「拷問されてじわじわと殺されるかもしれません」

「じわじわ?」


じわじわと拷問されて殺される方法をテンに教える人型ゴーレム。


「ひええ〜」

「なので、このままこの空間で消滅したほうが幸せなのです」

「う、うん、分かったよ」


それからテンは美味しい物をたくさん食べて、人型ゴーレムとたくさん話をして消滅の時を待った。


「テン、もうすぐです」

「お母さん、今までありがとう。ん?」

「どうしました?」

「僕の目の前に変な物があるんだけど」

「ひどい、私のことを変な物なんて」

「あ、いや、お母さんのことじゃなくて」


テンの目の前に現れた物は、どうやら人型ゴーレムには見えないようだ。


目の前の空間に黒い板のような物があり、白い文字が現れた。


「警告、生命危機レベル100/100、自動回避モードの使用可能、使いますか? (はい/いいえ)どちらかをタッチしてください、って……」


テンは一瞬で考えた。


この空間が消滅しなくなるのか?


なら、答えは(はい)だ。


テンは(はい)をタッチした。


『生命危機自動回避モードに移行します。このモードは安全が確認されると解除されます』


黒い板にそんな文字が。


「テン、さっきから何を」

「お母さん、僕たちは消滅しなくてすむかもしれない」

「え?」


そこでテンの意識は消えた。












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