第19話 Fight!

 上段から振り下ろされるは神速の剣! とはいかなかった。いつもの三割減くらいのスピードだった。

「おいおい」

 ピジョンはラスターの剣を紫炎燃える拳で受け止める。

「この間の方がまだマシだったぞ!」

 ピジョンはラスターを振り払い、三メートルは吹っ飛ばす。

 ラスターは一回転し着地、そのスキを見てピジョンは追い討ちの連打をかける。

「オラオラオラオラオラオラァッ!」

 なんと切り払うことができた。だが、次はわからない。

 思わずラスターは舌打ちし、眉間にシワを寄せる。やらないと、止めないと! コイツを倒さないと、世界は乗っ取られてしまう。

 ラスターは、再び剣を握る。

「来いよ、へっぴり腰の剣士サン。そのドテっ腹に風穴開けてやるよ!」

 ピジョンの紫炎もここぞとばかりに燃え上がる。

 次の瞬間、ラスターは剣を下ろした。

「ピジョン……」

「あ? 来ないのかよ」

「やめないか? 世界征服なんて」

「何?」

 ラスターは剣を鞘に収める。ピジョンの燃え上がっていた紫炎も、徐々に小さくなっていった。話を聞こうということなのだろうか?

「そうさ、こんなことをしても意味はない。だってそうだろ? 最重要なのは心さ。力で屈服させたところで、そんなものに意味はない。大切なのは、人と人とがわかりあうことだ。力じゃない」

「……」

 ピジョンは黙って聞いている。目深にかぶったフードのせいで、表情はうかがえないが、ピジョンも心が揺れている……のかもしれない。

「そうさ、もうやめようこんなこと」

「言いたいことは、それだけか?」

 ピジョンは驚いているラスターとの間合いを一気に詰める。

 再び燃え上がった紫炎の拳でラスターを殴り、叩き伏せ、マウントを取った。そしてピジョンはラスターの顔面を幾度となく殴りつけた。

「テメエ! なんかに! オレの! 何が! わかる! いまの! テメエごとき! 本来! 相手に! する価値も! ねえんだよ! わかったら! 」

 ピジョンは飛び退き、拳の紫炎を今日の最大級に燃やす。ラスターはなんとか立ちあがる。ヨロヨロした足取りでは、もう防御らしい防御はできない。

「コレでも食らってろ!」

 ピジョンは突進してくる。

「ブレイズナックル!」

 ピジョンの放ったブレイズナックルは、藤堂の腹部に命中。五メートルは吹っ飛んだ。やけに風景がゆっくり流れた。

 地面に叩きつけられ、そこから三メートルは転がった。

「へっ、俺に、意見したいなら、せいぜいもっと、強くなるんだな」

 ピジョンはコートを翻し、その場から立ち去った。息が切れているのは、「思いの外体力を使ったから」だけではなかった。


 藤堂が気付いたところは、まだ路上だった。

『希望! 希望! あ、気付いたかい!』

「や、やあグラム。ギギギ……ピジョンは強いのう強いのう」

 立ちあがろうとするも、なかなか体が言うことを聞かない。それもそうだ。仮面戦士の鎧で守られていたとはいえ、食らったのだ。ピジョンの攻撃を幾度も。

『バカ! そんなネタやっている場合じゃないだろ! 早く回復魔法を』

 最近ようやく魔法を生身でも使えるようになってきた藤堂は、回復魔法を自らにかける。

 そのおかげで藤堂はなんとか立ちあがることができた。

「なあ、グラム」

『どうした? まだ痛む?』

「痛むは痛むけど、そんなことよりさ」

 グラムは藤堂の中でうなずく。

「アイツ、なんであんなに怒ったんだろうね?」

『……わからないよ。でも、一つだけ言えることがある。このカエルめは、友だちを失わずに済んだってこと』

 藤堂は口元に着いた血をぬぐい、「ふう、やれやれだゼ」なんて強がってみせたのだった。


 ことはカンタンだった。

 藤堂は無傷で学校へと向かった。そう、回復魔法をもう一度使ったのだ。そうしたら負っていたケガは、ほとんど無くなり見た目ではわからない程だった。

 藤堂は窓の外をボーッと眺める。ピジョンのヤツは何が目的なのか? 本当に世界征服が目的なのか? 本当は誰かに止めて欲しいのではないか? 考える。考えれど考えれど、その答えは出てこない。

 当然だ、その答えはピジョンしか知らないのだから。

「はぁ」

 おもわずため息が出てしまう。

『希望、ため息出てるよ』

「桃色吐息だよ」

 グラムはゲロゲロ笑う。だがそれも、ほんのチョッピリだけいつも通りには聞こえなかった。藤堂の考えすぎだろうか?

 気づくとピジョンのことばかり考えてしまう。これでは恋焦がれているようだった。

「ちょっと、む……藤堂」

 気づくと隣にいたのは兎塚さんだった。

「アレ? いつからそこに?」

「アレ? いつからそこに? じゃないよ、ホラ、行くよ? 次教室移動だよ」

 兎塚さんは藤堂を促す。藤堂は慌てて支度を済ませ、教室を移動する。

「ねえ藤堂」

 兎塚さんはじっと藤堂を見てくる。バレたか? 兎塚さんとのハッピーライフ設計が!

「昨日なんか、誰かとケンカでもした?」

「いやいやいや、ノーノーノー」

 大きめのジェスチャーを踏まえて否定する。一方的に殴られたとは言いにくい。

「あの、ね? んーと、ね?」

 じっとこちらを見る兎塚さんの目にヤられた。ズッキュンされた。

「はあ? ピジョンと戦った? いつ? はぁ? 昨日って!」

 つい本当のことを喋ってしまった。要らんことまで喋っていないか? 不安になる。

「ったく、で? 一発でもやり返したの? ハァ? 一方的に殴られた? はぁ、一番弱いのを狙ってきたか……」

 なんとなく聞き捨てならないことを言われた気もするが、まあヨシッ! とする。

 曲がり角の先から悲鳴が聞こえる。

「藤堂!」

「わかっている!」

 藤堂と兎塚さんが駆けつけると、そこでは何かが暴れていた。

 ヤンキーの集団が襲ってきたのならまだ良かった。そこにいたのは……!

「何あれ?」

 兎塚さんは思わず聞いてくる。

「戦闘員的な?」

 黒ずくめにマスクの連中が五人ほど、二人の目の前で逃げ惑う高校生たちを相手に暴れていた。

 兎塚さんは思わず舌打ちした。変身するか否か。もし仮面戦士エキャモラに変身できることを知られたら……。藤堂の同類と思われるかも? 一瞬躊躇した。だが、既に藤堂は駆けていた。

「ったくもう! ハイハイ!」

 兎塚さんは藤堂に続き、戦闘員ぽいヤツらに向かったのだった。

 なんてことはない。なんてことはない行動だ。藤堂の頭にあったのはただただ、「助けなきゃ!」それだけのことだった。

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