第7話 毒を食らわば皿まで

『希望、元気出せよ』

 藤堂はこのまま消えいりそうな顔で高校へと向かっていた。

『相手は女の子だぜ? わけわからず機嫌が悪くなる日もあるさ』

「は、ははは……はぁ、」

 藤堂の様子を見て、『こいつは重症だな』と思いつつも、グラムは重い重い足取りの藤堂を励まし続け、なんとか高校へ辿り着かせた。

『そんなにエキャモラが好きなのかい?』

 うろたえる藤堂をゲロゲロ笑うグラムだった。散々笑った後、藤堂に一言。

『同情するよ』

 と肩をすくめながら言った。

「何だよ同情って!」

『ゲーロゲロゲロ。ま、そういうことサ』

「何だよそれ」

 そしてひとしきり二人で騒いだ後、藤堂はグラムに礼を言う。

「ありがとう。その……元気出たかも」

『よかったよかった』

 ニコニコ、とまではいかないものの、確実に元気になっている藤堂は、グラムに対し心の中で「ありがとう」を言い、そっと胸の内にしまった。


 藤堂の学年は、学校の二階に教室がある。当然藤堂は階段を登っていく。

「あわわわ〜、こ、高山病が……」

『それだけ言えるなら十分だね。ホラ、教室入って勉強だね』

 そして思い出す。クラスには、兎塚さんがいることを。

『オーケーオーケー。大丈夫、何なら変身して入るかい?』

「だ、大丈夫! 多分そっちの方が問題になる!」

 藤堂はほんのひとかけらしか持っていない(と、思い込んでいる)勇気を振り絞り、教室の中へ何食わぬ顔で入っていった。

 教室で噂になっていることはなく、藤堂の気にしすぎだったらしい。

「おい、藤堂」

 馴れ馴れしく話しかけてきたのはクラスのヤンキーらしき人物だった。

「お前、兎塚にコクってフラれたんだって?」

 偽の情報が既に拡散されていた。

「残念だったな」

 と言いつつ、ヤンキーの顔は下卑た様子でニヤついている。「芸能人のゴシップ記事を好みそうなヤツというのは、こういうヤツだろうなあ」なんて思いつつ、藤堂はただただ、「ははは……まさか、そんな……」なんて愛想笑いを浮かべるのだった。

 視界のハシにいた兎塚さんは、プイスと顔を背ける。本当に嫌われているらしい。少なくとも藤堂はそう思った。


 現国の授業が終わり、次は生物の授業。教室移動をしなくてはならない。ちなみに生物室は一階にある。階段を降りなければならない。

 藤堂は支度をし、教科書、筆箱、ノートの三種の神器を持って教室を出た。グラムの話す小噺に笑いながら藤堂は教室を出る。

 教室の外は、休み時間ということもあり、わいわいがやがやぴーぴーなんて感じに盛り上がっていた。だが、藤堂にはその盛り上がっているところを横切る勇気は無く、一番手近にあり渡り廊下にも直結している、人気のない階段を降りていった。

 その階段は、静かで落ち着いていて、グラムの小噺がよく聞こえた。だからこそ、藤堂もグラムもその姿をはっきりと見ることはできなかった。

「アレ? 今何か一階で動かなかった?」

 藤堂は視線を降りた先へ動かす。黒い何かがいる。「“アレ”かな?」思いつつ確認のため一階へ降りる。

 それは“アレ”ではなく、それ以下のものだった。

「アンタは!」

『お前は!』

 グラムと藤堂が見た先にいたモノ、それは……!

「ハハッ! 見つかってしまったね」

 ミッピーマウスだった。

「お前なんでこんなところに!」

「ハハッ! それはね……お前を……お前を倒すためだAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 ミッピーマウスは藤堂に襲いかかる。ミッピーマウスの体当たりが中々の速度で襲い来る! だがなんとかかわすことができた。ミッピーマウスの体当たりは、壁に小規模ながら穴を穿っていた。

「ナゼ、かわしたんだい?」

「なぜって……かわさなきゃ死んじゃうだろ!」

 それを聞いて、ミッピーマウスは鼻で笑う。

「ハハッ! チャンチャラ可笑しいや。ボクはこの右手を落とされようとも、正面から戦ったゾォォォォォォォォォォォォ!」

「はぁ? 知らねえよそんなこと。ていうか、何で右手が生えてきてるんだよ! トカゲか!」

「ハハッそれはね」

 ミッピーマウスは胸を張り、腰に手をやって自慢げに答える。

「ネズミ講の力だよ!」

「サギの一種じゃねえか!」

 ミッピーマウスはサムズアップして藤堂に言い返す。

「カッコイイだろう?」

 効果音をつけるなら「ギャキィ!」だろうか? ミッピーマウスは相手にとって不足はないようだった。

『面白い……ならば! いくぞ希望! 変身だ!』

「ああ!」

 藤堂が変身の呪文を口にする、コンマ五秒前だった。ミッピーマウスは、何か気体を吐き出した。呪文を叫ぶため、藤堂は息を吸う。そして藤堂は当然それを吸い込んでしまった。

 藤堂は顔を青くし、咳き込む。

『希望!』

 グラムの声むなしく、藤堂はその場に倒れ込んだのだった。

「ハハッ! 毒霧殺法サ!」

「……!」

『希望? まさか声が出ないのか!』

 藤堂が「仮面戦士ラスター」に変身するには、呪文を唱えないと変身はできない。逆に言えば、呪文を唱えられなければ藤堂は変身することができない。

 これはピンチと言っても過言ではなかった。

「どうだ? 毒霧の味は。フローラルの香りがするだろう?」

 ミッピーマウスは下卑た笑いをあげながら、うずくまる藤堂の顔をその黄色い靴で踏みつけ、ぐぅりぐりと力を込めてくる。

「ハハッ! このまま頭蓋を割ってやる! 脳漿をブチ撒けろ!」

 ミッピーマウスは脚に力を込めた!

 瞬間、ミッピーマウスはよろける。

 よろけた瞬間黄色い靴を、藤堂の頭からどかした。

「誰だ!」

 体勢を立て直し、威嚇するように叫ぶ!

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