ヒッキーオンライン
芸州天邪鬼久時
第1話 開始
未来の日本、今から50年後。多くの規制緩和により、様々な新しいビジネスが誕生しました。その中でも特に日本人に馴染んだのが、VRMMOの和風ファンタジーオンラインゲーム「ヤマトオンライン」、通称「ヒッキーオンライン」です。
このゲームは、モンスターや妖怪が登場し、自由度の高いクラフト要素が特徴です。プレイヤーは家を建てたり、様々なアイテムを作ったりすることができます。しかし、他のゲームと一線を画すのは、ゲーム内に「ゲーム内通貨」が存在しない点です。代わりに、現実の日本円がそのまま使われます。
「ヤマトオンライン」の月額利用料金は1,500円ですが、収入のない無職の人や障害者は無料でプレイすることができます。このゲームの特筆すべき点は、現実のお金を投入して遊ぶことができるだけでなく、ゲーム内で稼いだお金を現実に引き出すことができるという点です。
ゲーム内でNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が販売している回復アイテムや初期武器などは、すべて有料です。また、プレイヤーがNPCに対してアイテムを売ることは一切できません。これは、ドロップ品を大量に売却することでゲーム会社が経営困難に陥ることを防ぐためです。
しかし、プレイヤー同士での取引や物々交換は可能です。お金を出してゲーム内のアイテムを購入する際には、運営側が10%の手数料を取りますが、その手数料は比較的低いため、プレイヤー間での取引は頻繁に行われます。購入できるものは土地や家、さらには伝説の武器など多岐にわたります。
このように、「ヤマトオンライン」はリアルとゲームの境界を曖昧にし、新しい形の経済と社会を形成しています。
今日から「ヤマトオンライン」を始めることになった無職の少年、小林煌星(きらほし)。彼は昔から人づきあいが苦手で、そのため高校進学を諦めてしまいました。家で過ごす日々の中、彼は逃避するかのようにゲームの世界へと踏み出します。
「ヤマトオンライン」は、煌星にとって現実を忘れるための新しい世界。そのゲームにログインし、まずはキャラクターメイキングを始めます。自分の分身となるキャラクターを作り終えると、いよいよゲームがスタートします。現実では得られなかった自由や可能性が広がる仮想世界で、煌星はどんな冒険を始めるのでしょうか。
「ヤマトオンライン」を始めた煌星のキャラクターは、ログイン直後に褌一丁の姿で現れました。このゲームの男性キャラクターは、全員がこの状態からスタートするのが特徴です。プレイヤーはまず、身の回りの装備を整える必要がありますが、初期の武器や着物はすべて有料。幸いなことに、初期武器の価格は100円と手ごろで、煌星のお小遣いでも簡単に購入できるものでした。
煌星は、いくつかの初期武器から一番シンプルな「木刀」を選び、まずは基本的な戦い方を学ぶことにしました。とはいえ、このゲームの攻略法は戦闘だけではありません。むしろ、多くのプレイヤーが最初に手を付けるのは「ポーション精製」です。
「ヤマトオンライン」では、ポーション精製が攻略の基本とされています。フィールドで採取できる薬草を使ってポーションを作り、それを使って戦闘を有利に進めるか、あるいはNPCが販売している価格より少し安く他のプレイヤーに売ることで、最初の資金を稼ぐのです。
煌星も、周囲のプレイヤーに倣い、まずはポーションの材料を集めることにしました。草むらを歩き回り、薬草を見つける度に慎重に採取していきます。最初は不慣れで時間がかかりましたが、何度か繰り返すうちに少しずつコツを掴んできました。
ポーションをいくつか作り終えると、煌星は次にその使い道を考えます。自分で使って進めるか、他のプレイヤーに売って稼ぐか。ゲーム内でのお金の使い方が、現実にも直結するため、その選択には慎重さが求められます。
こうして、煌星の「ヤマトオンライン」での冒険が、本格的に幕を開けました。現実の自分とは異なる、新たな自分を見つけ出すための旅が始まります。
ポーションを準備し終えた煌星は、いよいよ最初の戦闘に挑むことにしました。彼が向かったのは、初心者でも安心して戦える「おばけ草」という妖怪が出没するエリアです。この妖怪はゲーム内で最弱とされ、草のような姿をした小さな妖怪で、動きも遅く、攻撃力も低いですが、初めて戦うプレイヤーにとっては格好の相手です。
煌星は木刀を手に、おばけ草が現れるという草むらへと足を踏み入れました。慎重に進んでいくと、ふわりと浮かぶおばけ草が姿を現しました。小さな葉っぱのような体が、かすかな光を放ちながら揺れています。煌星は、ポーションを一つ手に取り、戦闘の準備を整えました。
おばけ草はゆっくりと近づいてきます。煌星は木刀を構え、呼吸を整えて一気に斬りかかりました。木刀が命中すると、おばけ草はかすかな悲鳴を上げて光を放ちますが、すぐに体を再構成して攻撃を仕掛けてきました。とはいえ、その攻撃はかすり傷程度のもので、煌星は落ち着いて回避し、再び木刀を振り下ろします。
数度の攻撃を受け、おばけ草の光が次第に弱まっていきます。煌星は、HPが少なくなっていることに気付き、ポーションを使って回復しながら戦闘を続けます。数回の戦闘を経て、ようやくおばけ草を討伐することができました。
その後も煌星は、おばけ草と何度も戦闘を繰り返しました。最初は苦戦したものの、次第に戦闘のコツを掴み、ポーションを活用しながら効率よく戦えるようになりました。おばけ草を討伐するたびに得られる小さな報酬やドロップアイテムが、少しずつ煌星の手元に集まり、彼の成長を実感させるのでした。
おばけ草のドロップ品は以下の通りです:
1. **草の葉(薬草)**: ポーション精製の基本素材となる薬草です。頻繁にドロップするため、ポーション作りの材料として便利です。
(始まりの村にある回復の湖の水と調合することによってポーションを作ることができる)
2. **微光のしずく**: おばけ草の体からこぼれる光の粒。このアイテムは、他のアイテムとのクラフトに使えるだけでなく、希少な装飾品を作る際にも役立ちます。
3. **しおれた茎**: 使用価値は低いですが、クラフトの素材や他のプレイヤーとの取引でわずかな価値があります。
4. **おばけの種**: 極めて稀にドロップするアイテムで、特別な場所に植えることで特異な効果を持つ植物が育ちます。育て方次第で高値で取引されることもあります。
これらのドロップ品を集めることで、煌星はポーションを精製したり、他のプレイヤーとの取引に活用することができます。
煌星がほぼ一日中おばけ草を狩り続けた結果、得られたドロップは以下の通りです:
1. **草の葉(薬草)**: 35個
2. **微光のしずく**: 12個
3. **しおれた茎**: 22個
4. **おばけの種**: 1個(運よく稀少なドロップを入手)
煌星は、これらのドロップを活用して、さらにゲーム内での活動を進めていくことができます。
50年後の日本の経済状況と「ヤマトオンライン」の独自経済システムを考慮すると、草の葉(薬草)を使って精製できるポーションの価格は、以下のような変動相場で表現できます。
**ポーションの価格: 500円~1,200円**
- **500円**: 草の葉の供給が豊富で、プレイヤー間での取引が活発な場合。この場合、競争が激化して価格が下がる傾向があります。
- **1,200円**: 草の葉の供給が減少し、ポーションが不足している場合。特にボス戦やイベントなどで需要が高まると、価格が上昇する可能性があります。
この価格変動により、プレイヤーたちはポーションの精製と売買において戦略的な判断を迫られ、ゲーム内経済がダイナミックに動くことになります。
「ヤマトオンライン」では、取引所が存在せず、プレイヤーは「ウルトラインベントリ」というツールを使用して、アイテムを株式の現物買いや現物売りのように取引します。このシステムでは、すべてのアイテムにチャートが存在し、プレイヤーは価格の変動を見極めながら売買を行います。
このゲームは稼働してからまだ2か月しか経過していないため、ポーションの市場はまだ安定していません。プレイヤー間での取引が活発化する中、ポーションの価格は以下のように想定されます。
**ポーションの価格チャート**:
- **最低価格**: 480円
- **平均価格**: 750円
- **最高価格**: 1,150円
煌星は、草の葉(薬草)35個を全てポーションに変換しました。そのうち10個は手元に残し、残りの25個を「ウルトラインベントリ」を使って売りに出すことにしました。チャートを注意深く観察し、過去数時間の価格変動を確認しながら、煌星は慎重に販売価格を設定します。
**煌星の販売価格**:
- **1個あたり**: 820円
この価格は、現在の市場価格の平均より少し高めですが、今後の価格上昇を期待した値付けです。煌星は、これでどれだけの利益を得られるか、チャートを見守りながらドキドキしています。
この価格帯のポーションであれば、初心者から中級者クラスの冒険者にとっては、HPがほぼ全回復する効果を持つアイテムと考えられます。
**ポーションの効果**:
- **HP回復量**: 初心者なら完全回復、中級者でも大部分のHPが回復する
このため、ポーションは戦闘中や冒険中に欠かせない重要なアイテムとなり、プレイヤーの需要が常に高いことが予想されます。煌星が設定した価格は、初心者や中級者プレイヤーにとって十分な価値があり、特に緊急時や長期戦を想定した冒険者には、購入の動機付けとなるでしょう。
翌日ポーションは18個売れていました。
彼の初日の儲けは交換手数料の10%を引いて13284円でした。
彼は確かな手ごたえを感じてこのゲームを続けていこうと決心します。
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