第24話 ✕:一途で健気 ○:ヤンデレ
ザネシアン領の中心である、城塞都市ウィンサウンド。
都市部をぐるりと取り囲む防壁内には、辺境伯軍の詰所が複数設置されている。
そんな詰所の地下室に、マヤとレイチェルは居た。
「やっぱり、間違いないわね。屍肉を繋ぎ合わせた痕がある。……野生のものじゃなく、人の手で生み出された人工
「ワタクシの体と、同じ……いえ。さらに
2人は昨日討伐した、狼型
スカルタイタンから
だが比較的原形を
情報源となる死骸が残ったのは、幸運だったといえる。
「ウィンサウンド上空に集まったスカラベの大群も、
「【
2人は視線を
――敵はマヤと同じ、【
「……ふん。この【
狼型
眼球すらなく、口に置き換えられていた。
こういった改造を、マヤは好まない。
生前の肉体と
なので彼女は、極力生前の姿のまま
スレイプニルの場合は、本人(本馬?)が「足がもっと欲しい!」とゴネたので仕方なくだ。
「虫を
強い
それは「情念」だと、マヤは考えている。
この世への未練や執着。
そういった強い情念が、戦闘力の高い
情念を持たない虫では、
マヤが莫大な魔力を
「ワタクシがクレイグ様を通して、カイン様に報告いたします。狼型
レイチェルはメイド服のスカートをひるがえし、地上へと昇る階段に向かおうとした。
しかし――
「そんなことをしなくても、私が直接旦那様に伝えるわよ」
背後からマヤに止められたレイチェルは、階段を行き過ぎた。
そのままゴチン! と、壁に頭をぶつけてしまう。
クールビューティ、レイチェル・オライムスらしくない間抜けさだ。
「左様ですか……。ワタクシはお嬢様に、忠誠を誓っている身。従います」
レイチェルは、相変わらずの無表情。
しかし酷くガッカリしているように、マヤには感じられた。
「レイチェル……。ひょっとして
コクリと頷くレイチェル。
マヤはようやく、重大な勘違いに気付いた。
レイチェルがクレイグ・ソリィマッチに
「はい……。
レイチェルは帝国への危険な潜入任務で、重傷を負ってしまったという。
なんとか王国領までは、帰って来れた。
だが国境を越え追ってきた帝国兵に囲まれ、絶体絶命の危機。
そこを若き日の傭兵クレイグが、乱入して助けたのだ。
「当時の彼は今のようなスマート紳士ではなく、ワイルドな剣士でした。しかし美しい剣技は、今と全く変わらない……。カッコ良かったです……。しかも血まみれのワタクシに、肩を貸してくださって……。その日からずっと、クレイグ様をお慕いしておりました」
「そう……。
クレイグに、見てもらいたかったのだ。
実体を持つ姿で、彼と再会したかった。
何と
「はい。あわよくば、彼に抱かれたいと思いまして」
いきなり生々しい話になって、マヤの眼鏡がずり落ちた。
「ご……ごめんなさい。あなたの
「残念です。せっかくこのような美しい体をいただいたのに、クレイグ様を落としてもその先ができないとは」
「そのうち、『そういうこと』もできるように改造してあげるから」
「ありがたき幸せ。……あ……しかし、クレイグ様には……」
喜びかけたレイチェルだったが、すぐにまた肩を落としてしまった。
「クレイグ様には、想い続けている女性がいらっしゃるようです」
「へえ。誰かしら? ウチのレイチェルより可愛いコなんて、そうそういるもんじゃないと思うけど?」
「フィリア・ザネシアン様です」
「それって……」
フィリア・ザネシアンは、先代辺境伯ザインの妻。
つまりはカインの母である。
マヤもウィンサウンド城にある肖像画で、顔は知っていた。
カインに似て、とても美しい人だ。
彼女はもう、この世にはいない。
2年前、夫と共に亡くなっている。
辺境伯領を
(わたくしは……強くなどありません。本当に強ければ……。あの時、もっと力があれば……)
朝稽古の時、ロケットペンダントを握り締めながら
彼の無念そうな表情が、マヤの脳裏に浮かんだ。
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