第22話 おね×ショタ開幕

 全身鎧の下から現れた紅顔の美少年を、マヤは静かに見つめていた。




「この姿に、あまり驚いていないようだな」


「なんとなく、分かっておりましたので」




 マヤは初めから、薄々気付いていた。


 彼女の魔力感知能力は、極めて優れているのだ。


 魔力パワーアシストで動く大きな鎧の下に、小柄な体躯があることなどすぐに見抜けた。




 また死霊達を使った情報収集で、カインがまだ14歳の美少年であることも知っていたのだ。


 実物のおさなさと美貌は、想像の遥か上をいっていたが。




 マヤとカインはフカフカのソファに腰かけ、向かい合いながら話し始めた。




「ザネシアン領は、常に外敵から脅かされている。辺境伯は、舐められたらやっていけないからな。全身鎧で幼い外見を隠し、『乱暴で好戦的だ』という評判をわざと流した」


「旦那様はずいぶんお若くして、爵位と領地を継がれたのですね」


「……先代である父が、亡くなってしまったからな。当時まだ12だった俺が継がざるを得なかったのには、理由がある」


「存じております。【守護者ガーディアン】の【天職ジョブ】ですね」




 【守護者ガーディアン】は、特殊な【天職ジョブ】だ。


 ザネシアン家直系の者が、代々引き継いで発現する。


 その能力は、味方全軍の防御力を劇的に向上させるというもの。


 国境を防衛するのに、これほど適した【天職ジョブ】はない。


 【守護者ガーディアン】の力を振るい外敵を退けるのが、ザネシアン家の使命なのだ。


 ザネシアン家直系男子は成人していなくても、王命により爵位を継がされてしまう。




「不甲斐ない話だが、俺はまだ【守護者ガーディアン】の【天職ジョブ】が発現していない。だからきみが力を貸してくれなければ、この地は落ちていただろう。……礼を言わせてくれ。辺境伯領を守ってくれて、ありがとう」


「わたしはもう、貴方あなたの妻ですもの。夫の領地を守るのに、協力を惜しむ妻がおりまして?」


 平然と言ってのけたマヤ。


 しかしカインは、若干気まずそうに応じる。


きみが、第1王子の手先でないことはわかった。だがそれでも、お父上のニアポリート侯爵は第1王子派。家の都合を考えた、望まぬ政略結婚だったのではないのか?」


「確かにその側面も、あるのかもしれませんが……。婚姻に至った、おもな理由は別です」




 マヤはカインに、語って聞かせた。


 【聖女セイント】キアラ・ブリスコーからうとまれ、彼女の婚約者である第1王子の圧力により、辺境伯領へ追いやられたといういきさつを。


 キアラが地球からの転生者であることや、ここが乙女ゲーム「セイント☆貴族学園」の世界であることは伏せておく。


 そこまで話したら、自分も転生者であることを話さなければならなくなり面倒だ。




「なるほど。背景は異なるが、やはり意に沿わぬ結婚だったんだな」


 カインの表情は、少し残念そうだった。


 しかしマヤは、あっけらかんと答える。


「貴族の結婚とは、元々そういうものでしょう? 確かにいきなり押し付けられた婚姻でしたが、私は辺境伯領に来れて幸運だったと思っています。ここでは【死霊術士ネクロマンサー】がさほど嫌われておりませんし、旦那様は可愛いですし」


「可愛い……か……。そうだよな……。君のような大人の女性から見たら、俺なんか……」


 マヤは褒めたつもりだったのに、カインはズドーンと落ち込んでしまった。


 彼はおずおずと、質問を重ねる。




「その……マヤには、他に好きな男とかはいなかったのか? 俺みたいなガキじゃない、カッコいい大人の貴族令息とか……」


「何を言い出すんですか。まさか旦那様、離縁しようなどと考えているんじゃないでしょうね? 王都には居場所のない私を、実家へ追い返すおつもりですか?」


「いや……そんなつもりは……。とにかく、君の好きな道を選んでいい。この地が気に入ったのなら、快適にずっと住み続けられるよう手を尽くそう」


「妻として、認めてくださるということですか?」


「俺はこんなガキだ。君のように美しい大人の女性とは、釣り合いがとれない。少なくとも、今はまだ」




 ストレートに美しい女性と言われて、マヤは照れ臭かった。


 しかし4歳も年上のお姉さんとして、ここは余裕を見せておきたい。


 彼女は妖艶な笑みを浮かべると、ソファから立ち上がりカインの背後へと回り込んだ。


 そのまま両腕を絡ませ、ショタ辺境伯をがっちりホールド。


 豊満な双丘の谷間に、ピンクブロンドの後頭部を挟み込んでしまう。




「ふうん? いいんですか? 旦那様とて男。私の体は、気になるのでしょう?」




 カインの耳に息を吹きかけながら、マヤはささやいた。




「マヤ! む……胸が当たって……」


「当てているのですよ」


「そういうことは、まだダメだ! 『女にうつつを抜かす戦士は強くなれない』と、クレイグが……」


 カインはマヤの手首をつかみ、腕を引き剥がしてしまった。


 意外と強い力に、「幼く見えても、男の子なのね」とマヤは感心する。


 そして、やはり可愛いと思ってしまった。


 見た目は11~12歳でも、カインの実年齢は14歳。


 健全な男子として、性欲だって持ち合わせているはずだ。


 それなのに顔を赤らめながら、必死でマヤの誘惑を跳ねのけた。


 てえてえショタである。




「と……とにかく今日は、もう疲れただろう。風呂にでも入って、ゆっくり休んでくれ」


「旦那様こそ、お先にどうぞ。お背中を流しましょうか?」


「……! け……結構だ!」




 カインは逃げるように、執務室を出て行ってしまった。




 残されたマヤは、ひとりつぶやく。






「やっぱり旦那様を不死者アンデッドにしちゃうのは、もったいないわね。必死で我慢する姿が、可愛いわ。……もっと、からかってあげましょう」





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2024年9月22日 17:10
2024年9月23日 17:10
2024年9月24日 17:10

【マヤ・ザネシアンは最強過ぎて乙女ゲーの悪役令嬢が務まらない】~転生して赤ん坊の頃から魔力を鍛えた廃ゲーマーは無敵のアンデッド軍団を従え無双する。追放先で魔王ムーブするつもりが不死女神と崇められた件~ すぎモン/ 詩田門 文 @sugimon_cedargate

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