第5話 グギッ、ギギ……

 廃墟となった東京。


 俺はマリアの住んでいる教会から20分ほど歩いた場所まで来た。


 ここは杉並区だったか。あたりの住宅は押しつぶされ、遠くには崩壊しかかっている高層ビル群が見える。正直どうしてこんなことになったのかは、分からない。俺が意識を持ったのは秋葉原の電気屋街だった場所。気がつけばそこに立っていた。俺のご主人、マスターが巨大な火の海に飲まれていく姿だけが鮮明に記憶に残っている。


 俺もアリウスも隣の半島からミサイルでも飛んできたんだと判断していたが、もしかすると違うのかもしれない。そんなことが起きてもおかしくない世界情勢だったってのは間違いないが、首都があっさりとこんな無人の死の都市になることは考えづらい。自衛隊やら同盟国による救助活動があるはずだ。だが、その痕跡も見えない。俺やアリウスのような存在が実体化したこともそうだが、この状況は不自然過ぎる。


「グギッ、ギギ……」


 ん? 他にも人がいるのか?


 俺は声のする方へと向かう。そこは地下鉄の入口だった。俺はその階段を覗き込む。 


「おい……。おまえ、もしかして……」


 一目散にもと来た道を俺は走り出す。やべえ、逃げろ! あれは、やべえ。


 ヒュン。


 耳元を何かがかすめる。脇にあった焼け焦げた乗用車のフロントドアに矢のようなものが突き刺さった。いや、それは矢のようなものではなく、まさしく矢そのものであった。


「グギギギ。グギャッ!」


 振り返ると弓を持った深い緑色の小柄なおっさんが悔しそうにギャーギャー言ってる。他にもわらわらと半裸の緑のおっさんが地下から湧いてきた。ああ、知ってる、あれは人間じゃない。たぶんゴブリンってやつだ。とんがり帽子を被ったのとか、何か異常にデカくて頭にちっさな王冠を被ったやつまで出てきた。


 何がどうなってんだ?


 突然、爆発音とともに近くにあった廃墟が吹き飛んだ。


「魔法!?」


 炎の塊が幾つも宙に浮かび、次々と俺に向けて射出される。それに唖然としていると連中はもう数メートル先まで距離を詰めていた。グギャグギャと耳障りな俺を嘲笑あざわらうかのような奇声。


「や、やっべ!」


 足がもつれて転びそうになりながらも、俺は走った。人間の身体の不自由さを呪いながらもなんとか走った。少しすると背後に聴こえていた声が止む。


 どうした? 


 振り返るとゴブリンたちはある場所でぴたりと動きを止めていた。そして忌々しげに俺のことを睨んでいる。まあいい、助かったんなら何でもいい。俺はアリウスとマリアたちのことが心配になり再び走り出した。教会はすぐそこだ。

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