灰色のリバイアサン~Strange Sea~

広瀬妟子

プロローグ ダイスの導く先は

 我らには英雄が必要だ。世界の如何なる悪にも立ち向かい、降りかかる災難全てを打ち掃う英雄が。


 故に、我らは試練を与えた。この手に握ったダイスを投げ、運命を捻じ曲げた。その選択が英雄を生み出す条件となるからだ。


 一度きりの勝負にて、我らは条件を叶えた。この選択は多くの血を求めるだろう。だが何もせずに迎えた時に流されるだろう量に比べれば微々たるものだ。


 犠牲を生み出した責と罵声は全てが終わった後に受け入れよう。我らへの怨嗟の声が100年後に起こるまで、この国を生き長らえさせるために。我らを責める声もまた、最善の選択を得た結果なのだから。


・・・


西暦2029(令和11)年1月4日 沖縄県沖縄本島糸満市 平和記念公園


「…どうしてこうなった?」


 平和記念公園の駐車場前にて、西部方面戦車隊に属する隊員は呟く。目前には10式戦車と交戦し、撃破された装甲車両の数々。その多くに赤い星に黄色い縁、そして漢数字で『八一』と書かれた人民解放軍の軍徽ぐんきが描かれている。


「ガマに避難した市民の大半は無事でした。ですが、米軍基地で妨害行為を行っていた市民団体は…」


「…むごいものだ。戦後は英雄として悠々自適な生活を送れると己惚れた果てに、想像もせぬ末路と共に捨てられるとは。それ程までに相手に余裕が無かったからとも言えるが」


 隊員達はそう話しながら、再び戦場となってしまった沖縄の地を見渡すのだった。


・・・


 他方で戦乱とは最も縁遠い筈の東京では、一組の男女が話し合っていた。


「此度の戦乱は、これからこの国に訪れる災難の予兆に過ぎない。故に貴方がたと、貴方がたが治めるこの国は、災難に備えなければならない。それについて、貴方はそれが何を意味するのか、理解している筈です」


「…実感は薄いですが、私なりにやれる事をやろうと思います」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰色のリバイアサン~Strange Sea~ 広瀬妟子 @hm80

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ