恋愛(?)モノがたり!
木結
第1章
1 幼児転生・憶測祭り
炎。
燃えている。
燃えている!?
どこが?
――全部だ。
俺の視界が赤く燃えている。
力が抜けて、崩れ落ちる。
人とは、かくも愚かなり。
今まであったはずのものが、いくら探しても見当たらない。
どこに行った?
どこにあった?
まるで最初からなかったかのよう。
俺という存在は果たして、この場所で生きていたのか?
俺はそれでも立ち上がった。理由なんてないけど、俺はやっぱりまだ折れはしないと決めたのだ。
こんなものに負けてやれないと思ったのだ。
_____________
車の音が聞こえる。
いつの間にか、俺は一昔前の日本の街並みに取り残されていた。
_____________
俺に物心がついた時、俺にはすでに物心がついていた――。
何言ってんのかわからないってのは分かってるさ、俺も。
俺、5歳。元17歳。転生者だぜ。
やったことのないゲームの世界に、転生したぜ。
コトのはじまりは、俺がオタク友達と「俺が旅行から帰ってきたらこれやろうぜ!」と定例のゲーム交換会を開こうとしていた時。
明日ヤツの持ってくるゲームは、好評を博し一大シリーズを築き上げたらしい大作学園恋愛シュミレーターゲームだと聞かされた。
ほうほう。
俺がうったあいづちに気をよくして、ヤツは語り始めた。
主人公の名前は愛川真人。メインヒロインが何人かいるマルチエンディングなことと、あと結構泣けるらしい。
それくらいしか覚えてない。だってマシンガントークだったんだもの……。
何度でも言おう。やったことがないゲームに! 転生したぜッ!
なんでだ。
神様、あんた、ひでえよ……。
無念の余り虚無のため息をついた俺に保育士さんが声をかける。
「真人君、どうしたの?」
保育士さんに心配をかけようと、かけまいと、俺は、とにかく、悲しいんだ。ほっといてくれ。
ゲーム世界に転生できたと思ったら、(まだ)好きでもないゲームで……。
テンションが乱高下している俺は、保育士さんにダイジョブダイジョブと言いながら、またため息をついた。
「おにいちゃん」
「なーに、うた」
妹の歌によばれた俺は、一瞬で思案顔を引っ込め、歌にきりっとした顔を向けた。後ろで保育士さんが「えぇ……?」と微かに困惑しているのを感じる。
可愛い妹の前で、情けない姿はさらせないので。っていうか俺の中身、17歳だから。さすがに幼児にダサい所見せられません。
「あ、そ、ぼ!」
息をわっ、わっ、と吐き出すような勢いのある発声で叫ぶ歌に、俺は同じように、「い、い、よ!」と返した。
手をつないで俺たちは歩き出し、そして俺は後ろから飛びついてきた幼女を柔軟に受け止めた。お、重い。
「わたしもいーれーて!」
同い年の幼女、ちかちゃんである。
「えー」
歌はちょっと怪訝な顔をしたが、俺は「みんなで遊んだほうが楽しいよ!」と社会的交流の大切さを猛プッシュし、その日、俺たち3人はおままごとをして遊びまくった。俺は頭の中で別のことを考えながら……。
俺が真人になって、数日が経っているが、俺の妹の可愛さは尋常ではない。
そんなことありえないだろうと思うだろうが、本当に、今の時点から、将来の美少女化が待たれるような逸材である。そう、芸能界とかいいんじゃないかってくらい。
兄バカかもしれんが、どう見ても、周りのがきんちょとは、格が違う。分かりやすく、5歳の男の子たちにモテモテである。お姫様を救う系ゲームごっこをするときに、お姫様役によく誘われている。
そして、当の歌は、俺にべったりだ。一歳上の兄がどこに行くにも付いて来る。俺が周りに流されてお姫様を救う系ゲームごっこをした時は、俺以外のヒーローに救われようとしないくらい、俺にべったりだ。そして俺は嫉妬される。
まあ、親にべったりな子供もいるし、いずれ兄離れして他の友達と、持ち前の美貌を活かして幅広い交友ネットワークを築いていくのだろう。
そう、思うだろ!?
甘い。甘すぎる。
ここは、俺の知らない、恋愛ゲームの中だぞ! 全てを予測して備えておかなければ、後悔するかもしれない。
主人公の妹が、超絶美少女(になりそう)。
ここで一つ、疑問を呈したい。
お前、本当に俺の妹?
言うなれば、これはただの言いがかり。証拠もない、ただのたわごと。
だがっ、さすがに俺と歌の容姿レベルは違いすぎる!
もし、本当は、義妹だったら? 今のブラコンが、結構筋金入りで、将来治療に失敗したなら? 最悪のケース、もし、ヤンデレ化したら??
ヤンデレ系義妹なんて、そこら中にいる。もしかしたら、ギンギラの、きれいなきれいな包丁を、そっと。「愛してます」なんて言いながら、俺の心臓にそっと突き立てる。そんなルートも、原作に用意されていたかもしれないじゃないか。
そんなルートがないと、なぜ言い切れる!?
だいたい、ここはゲーム世界だぞ!? 妹が実は義妹。それくらい、普通だろ! 普通! 圧倒的に普通!
だいたい、妹キャラがブラコン、これは常識。圧倒的に常識! 妹が一匹いれば同じ数だけブラコンがいると思え、これ常識!
無論、俺のやって来たゲームが全てなんて思っちゃいないし、妹がブラコンじゃない作品だってあるはずだ。
でも、あいつが持って来たゲーム、義妹モノもあんだよ! たくさん! 何が言いたいって!?
つまり、歌は義妹率が高い!(暴論)
「きゃー、おにーちゃーん、たすけてー!」
「うたちゃん、おにいちゃんじゃないよ! すーぱーおうじさまだよ!」
「あ」
「よーし、お姫様二人! この、スーパー王子さまがたすけるぞー!」
「がおーかいじゅうだー」
そして、もう一人、ヒロインっぽいのが、いる。
俺とよく遊ぶ、活発系幼女、ちかちゃんこと桃川千佳である。
なんか、幼馴染っぽくない? 可愛さで言えば歌並みだし。
俺の(メタ)読みでは、現時点では幼馴染か、ちっちゃい頃一緒に遊んだ友達としてあとで再登場か、2択。
ここで海外とかに引っ越したら、多分中高で再会。このまま小学校に登って、同じクラスなら、幼馴染ルートがある、はずだ。多分。
いや、俺の心は言っている。自信持て、と。俺の本心では、この推測が外れることはありえないと、確信しているのだ。実の所。
95パーセントの確率で、千佳ちゃんと歌は、ヒロインになるッ!
ふっ。俺はほくそ笑んだ。こういうゲームはなぁ! 美人に出会ったらヒロインを疑えッてのが常識なんだよ! 俺がそういうラノベを何冊読んできたと思ってる!
「ふはははは」
「それちがう! おうじさま、そんな笑いかたじゃない!」
「おにーちゃん、まじめにやってよ!」
「ごめん」
すいません。
ま、これまでの話は冗談だとして。
ヒロインじゃなくても世界には美人な人なんてごまんといるだろうってのは分かってる。
あくまで可能性の話。
ただ、こいつらが可愛すぎるってだけだ。それでも、もしかしたらただのめっちゃ可愛いだけのモブかもしれない。
もしかしたら、ここは実は美醜感覚の反転した世界で、俺は醜いと言われている彼女たちを美人として扱う数少ない人かもしれない。歌にメロメロな5歳児達は特殊性癖なだけかも……いや、さすがにないか。
とどのつまりだな、何が言いたいかって言うと。
俺の妹が可愛い。ついでに幼馴染も可愛い。
もしバッドエンドを回避できるなら、こっちの世界も悪くないかも……?
先に言っておくが、俺はロリ萌えではない。
数日が経った。保育士さん同士で、「まひとくん変わったねぇ」といった会話を聞くようになった。
それまでの真人は、かっこつけたがり屋で、主人公気質で、腕白だったらしい。それがいきなり分別を見せ始めたなら、違和感があって当然なのだ。
俺の精神年齢の高さは正直隠せるものではなく、他の幼稚園児とはちょっと違うという扱いをすでに受け始めている。気味悪がって意地悪してくる子もいるのだが、そこは、大人の余裕である。さすがに10歳近く年下の5歳児とかに容赦ない反撃など加えられない。
正確には、あまりのうざさに一回攻撃しようとして、思いとどまった。俺が……俺が、17歳じゃなければ、お前ら、今頃泣かされてたぞ……!
何という負け惜しみでしょう(自己嫌悪)
自然、俺は穏やかな女児グループの勢力圏内で平穏を望むようになった。父さんと母さんは共働きなので、平日はずっと毎日朝から晩までここで過ごさねばならない。何しても退屈である。『ひらがなの練習』は済んでいる。
俺は、お昼寝に明け暮れるようになった。寝る子は育つ。
だがしかし、保育士の竹内さんは俺を起こして、外で遊んでいらっしゃいと言う。やめてほしい。ていうか、ここの保育園、保育士少ないのに、俺なんかにリソース割いていいんですか?
__________________
※真人君は、いきなり異世界に来て、テンパってるだけです。
異世界転移は初めてのご様子。初々しいですね。
テンションが上がったり下がったりする真人君のお話を、完全不定期で書いていきたいと思います。長さもまちまち、進みもまちまち。面白さもまちまち(?)
よければ続きもお読みください~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます