第58話 出費を回避するの巻

 先日、近況ノートに記した通り、私のスマホが反応しなくなってしまったので、最寄りのドコモショップへと足を運んだ。

 気分は最悪。これから万単位の出費を強いられることは確実であるから。


 それでも、マスクと眼鏡で顔を隠しなるべく不機嫌さを出さないように店内へ。


 入るとすぐに、受付と思しき女性店員が近寄ってくる。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あ、修理を……お願いしようと思って。電源が入らなくなってしまったんです」


 受付用紙に天川の本名と電話番号を記入して、暫し待つ。


 休日ともなれば店内はごった返しているのだが、幸い今日は平日。朝一番で来るのはお年寄りと相場が決まっている。さほど時間もかからずに、応対の店員がやってきた。


 状態としては、一昨日の朝、充電ゼロの表示を最後に全く操作を受け付けなくなり、何故か充電もできなくなってしまった。

 詳しいチェックを行うため一旦スマホ本体を店員に渡して暫く待つ。


 一息ついて、店内をぐるりと見回す。


 客はまばら、私の他には三組ほどしか来店していない。まだ店員の方が多いくらいだ。以前訪れたときとは店員の制服が替わっているようだ。季節ごとに変えているのかもしれないが、同じデザインの制服というのは一度も見たことがない気がする。こんなに頻繁に更新していて採算合うんだろうかと心配にもなるが、我々の支払う金がそこに投入されていると思うと、「年中同じ服でも大丈夫っすよ」と言いたくもなる。


 毎回思うが、この携帯ショップというのはあまり好きになれない。語弊を恐れずに言えばどこか「頭が◯い空間」にも思えるのだ。前回来たときほどではないが、明らかに対象年齢が低めに設定されている店内装飾。以前来た時は新学期の直前だったため違和感はなかったが、今現在来店中の客は全て年寄りばかりだ。

 以前なら、ケータイごときにうつつを抜かす愚か者の集団と斜に構えていたものだが、今となっては生活インフラにも等しい。文字通り、無いと生活が成り立たないのであろう。にも関わらず、このファンシー極まりない店内の雰囲気はどうだろう。

 考えてみたら、車屋と違って携帯ショップに高級店という区分けはないのだろうか? あるいは都市部には存在するのだろうか。


 万人に必須であるから、貧富問わず来店する。着るものさえ切り詰めるカツカツの私のような者から、年収◯億円に達しようかというセレブレティまで、貧富問わず同じ空間、同じ店内に同席するという不思議な空間。そう考えると、クラスレスな店内装飾を考えねばならなくなるわけで、考えた結果がこれなのだろう。確かに、安っぽい感じは受けない、どなた様でもご来店下さい感は保たれている。

 しかし以前私が来店したときには、仕事中らしき作業服姿のおじさんが「とにかくすぐ代替機が欲しい」と、まさに仕事に必要で飛び込んできた様子も見かけたことがあった。やむを得ないだろうが、そのおじさんはやけにファンシーな店内で非常に居心地が悪そうだった。役所や病院の窓口みたいに無機質にしろとは言わないが、もうちょっと万人に入りやすい雰囲気にできないものだろうか。これは私の感覚がおかしいのかな。


 お茶も出てこない待合用の椅子に座って十分ほど待っていると、ほどなく店員が私の前に再びやってきた。

「今確認して、店舗の充電器で試したところ充電されてますので、もう少ししたらお渡し出来ると思います」

 とのこと。

「へ? 起動できたんですか??」

 聞くと、強制起動の方法があって、それを試したら起動できたとのこと。動かなくなった原因は良くわからないらしい。


 とりあえず、出費が避けられたというのは喜ばしいことだ。

 三分の一ほど充電してもらって端末を受け取る。見慣れた起動画面が映っていた。

 ここで、

「通信状態の確認を行いますので、ロック解除をおねがいします」

 と言われ、私はちゃちゃっと解除する。

「はい、ではモバイル通信を一旦接続させていただきますね?」

 私は承諾する。普段家にいるときにはwifiだけ使っているので、普段は接続していないのだ。続けて店員はブラウザ(Chrome)を────


 あ、やべ…………


 そこで、若干焦る。


 電源が切れる直前、何を見ていたか記憶が定かではない。何しろ寝落ちして、目が覚めた時は充電が切れていたのだから。

 あーんな画像やこーんな漫画を読んでいて、その画面が出たら気まずかろうが、恥ずかしがる歳でもないし……ま、表示されたら「おや、これは失礼」などと涼しい顔をして小娘に余裕あるところを見せつけてやろう、などとくだらない想像をしていた。……表示されたのは「キクイモ」のWikipediaだった。……なんでこんなもん調べてたんだろう??


 ともあれ、修理費が嵩むようなら格安の端末を別に買おうと思っていたくらいだったので、大助かりだ。お代を聞いたら、「何も処置はしていないので無料です」とのこと。


 いろいろ不満も書いたが、悲喜こもごも、資本主義の功罪を感じた来店であった。

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