閑話2 メイドに仕える系メイド
「お父さん。お母さん。今日は一緒に食事が出来て楽しかった」
マンションの前で車から降りた私は、一緒に降りてきた両親に、笑顔で食事を楽しんだことに感謝の言葉を述べた。
今日は月に一度の両親と一緒に食事をする日だ。
お父さん――十六夜鉄心は武器職人。
お母さん――十六夜羽衣は防具衣装職人
2人ともダンジョンからドロップされる魔物の素材などを加工する職人だ。
最上位職人系スキル持ちのため、2人が創り出す物はかなりの人気があって、予約しても数ヶ月は待つことになる。
多忙を極める両親ではあるが、なんとか予定を調整して、月に一度ではあるけど一緒に食事をする時間を作ってくれていた。
「冥夜。ごめんなさいね。本当はもっと貴女との時間を作ってあげたいのだけど」
「もう。気にしないでよ。私は私で今に満足してるんだからさ。それよりも、お父さんとお母さんは健康には気を付けてよね? 悪子から聞いたよ。何徹もした末に倒れる寸前だったって」
「そ、それは、ね? 凄く加工のやり甲斐がある物が納品されて……仕方なかったの。ね! あなた」
「あ、ああ」
「全く……。自分のやりたい事になると見境がなくなるんだから」
私は呆れたように言った。
まあ、私も両親を批判する事はできないけとね。私もメイドの王道を突き進むためには、見境を持ってないし。
そう言った点では、私たちは似た者親子なんだと実感する。
「気持ちはわからなくないけど、早死にだけはしないように気をつけてね」
「それは気をつけるに決まってるじゃない。冥夜。貴女を一人にはしないわ」
「ああ。お前を遺して逝ったりしない。約束しよう。ただし、お前も命を大事にしてくれよ。このご時世、何が起こるか分からないからな」
「アハハハ。大丈夫。私が2人より早く死ぬような親不孝な真似はしないよ」
仮に私が死んだとしても、他の同冥の誰かが『十六夜冥夜』を継いでくれる。
だから、今、二人の前にいる私が死んでも、きっと悲しませる事はないはずだ。
すると突然、お母さんが私に抱きついて来た。
「お、お母さん?」
「……どうしてか冥夜を急に抱きしめたくなったの」
「大丈夫。私は2人と違って無茶無謀はしないから安心して」
「何かあれば直ぐに連絡してくれ。悪子にもそう伝えてある」
「うん。分かったよ、お父さん」
「それと今年の天藍祭は、なんとか数日一緒に過ごすことができそうだ」
「…………え」
え。天藍祭に、お父さんと、お母さんが、来る?
私、学校でメイド服を着て過ごしている事は知られないようにしているのに、来られたらバレるじゃない!
それに天藍祭は、毎年「冥王」としても「十六夜冥夜」としても、色々とタスクが重なり忙しい。
「む、無理しなくても、いいよ。8月といえば夏休みになって、注文依頼が増える時期だよね」
「大丈夫だ。確かに毎年忙しいが――、天藍祭は開催期間が長い。一日、二日ぐらい全休を取ってみせる」
「そうね。私も冥夜と一緒に学園祭を回りたいわ」
「あ、ありがとう2人とも。嬉しいけど、それで無茶して倒れられたら、凄く悲しいから、無理無茶だけはしないでね」
「ああ。分かっている」
「ええ。でもね、親は子どものためには多少の無茶はするものよ」
…………どうしよう。
来られたら、今までの迷彩工作が全て無駄になる可能性もある。
「冥王」として2人に大量の依頼をして、予定を空かないようにするとか? 第三次沖縄奪還戦を理由にダンジョン省から圧力をかけて増やすことは可能だと思う。
――でも、2人とも楽しみにしているのを……私が壊すの?
ぅぅぅ、胃が痛い。
その後、私は別れの挨拶をして両親と別れた。
マンションに入り、借りている部屋の前まで行き、鍵を使い中へと入る。
ドアを施錠して、衣服を脱ぎ散らかしながら真っ直ぐに進み、カーテンをくぐり抜けた私 はベッドへとダイブした。
「つっかれたぁぁぁ」
「お嬢様。いくら他者の目がないとはいえ、下着姿でベッドにダイブするのはいかがなものかと」
そう言って、私を窘めてくるのは、冥土ヴィシュヌである。
メイドに仕えるメイドというのも経験の一つだと言って私に仕えている。
どうせ仕えるなら、私以外のメイドにすればいいと思うのになぁ。
「ヴィシュヌ……。大目に見てよ。両親との食事だったんだよ。「手間のかからないいい子」を演じるのは――疲れる」
もう基本はメイドとしての自分がメインとなっている。
でも、両親が求めるのは当然、メイドの私ではなく、娘としての私だ。
だから頑張って演じた。
下手に失敗して、干渉されたくないもの。
「あの方達なら、どんなお嬢様でも受け入れてくれるかと思いますよ」
「……かも、しれないけど、それなりに危険なこともしてるから、受け入れてはくれても、メイドとしての活動には干渉はしてくると思う」
「まあ、子に危険なことをしてほしくないと願うのは親の性というものでしょう」
そうかもしれないけど……。
あー、なんだかもう思考するのが億劫になってきた。
「今日はもう就寝されますか?」
「――今日は、もう、タスクは、無かったよ、ね」
「はい。両親との会食のため、粗方のタスクは処理していましたので、急ぎのタスクはございません」
「そう。分かった。今日は、もう、疲れた、から――、寝る事にする…………」
「そうですね。たまには寝る事もいいと思いますよ? スキル「不眠不休」を使用しているとはいえ、寝ることでリフレッシュ出来る事もあります」
「――う、ん。そう、だよ、ね。あ、でも、何か、あったら、直ぐに、起こして」
「かしこまりました。お嬢様。久方ぶりに、ごゆっくりとお眠り下さい」
ヴィシュヌはヒーリングソングを流し始めた。
それが私のさらなる眠りを誘うことになって、そのまま私は眠りへとついた。
ああ、きちんと眠るっていつぶりだろう――。
『――夜。十六夜冥夜。起きてよ』
『あれ? 私は。なんで、寝てたの。なんか記憶が、あいまい――。って、なんで私が目の前にいるの!! まさかドッペルゲンガー!?』
『惜しい。忘れたの、十六夜冥夜。貴女は私。私は貴女。正確に言えば、私は貴女から生み出されたアバターの一体』
『アバター……? なんで私にそっくりのアバターが?』
『スキル『アヴァターラ』を得たから、自分の化身……ううん分身を作って、メイドしての経験値を積ませるってことだったじゃない』
『そう。言われたら……そうだったかも。うん。そうだった気がする』
『全く――しっかりしてよ。私。まあ、初めてのスキル使用で疲れるのは分かるけどね』
『……なんか自分に怒られるのって新鮮』
その後、私はスキル『アヴァターラ』を使い何体ものアバターを生み出した。
アバターが得た経験やスキルは、統合されたて全体へ共有されたことで、私は、私達は飛躍的に成長していった。
『――だいぶ私も増えたね。私』
『そうだね。私。今はだいたい万を軽く超えたかな。まあ、地球に居るのは1000体ぐらいだけど』
『…………』
『どうかした私?』
『確かに私達はほぼ同一存在だけど、誰も彼も「私」だから、紛らわしい』
『まあ、確かに。それじゃあ、アバター達に名前を付ける? 名前を付けることで、同一でありながらも区別できるでしょう』
『うん。それがいい。――じゃあ、私が一番先に名前を決めていい。だって、一番初めに生み出したアバターだからね』
『――……でしたら、私は今から『冥土ヴィシュヌ』と名乗ることします。そして、今まで通り
『ヴィシュヌ? 私がいいのならいいけど、もって可愛い系の名前じゃあなくていいの』
『ええ。この神の名前で、私はいいんです』
その後、私が創り出したアバター達は『冥土』という名字の後に好き勝手名前を付けていき、それが僅かに個性を生んだ。
ここまで、ほぼ同一だった私達は、それぞれ名前を得ることで、9割同じ1割は別という、そんな存在へとアバター達は成っていった。
ただ問題はあった。
アバター達は、死んだ後も消えること無くそのまま死体が残るのである。
異世界に送り出しているアバターは、百歩譲って死んでも問題ない。
三千世界で同冥が同じ時代に重なるということは、ほぼないだろうから。
問題は、この世界にいる数千を超える同冥たちだ。
死んで遺体を回収。埋葬されるぐらいなら兎も角、回収されてスキルや生体を探られるのは困る。
だから、私は秘密裏に全ての同冥に、死後は冥界へ強制召還されるスペルを埋め込んだ。
これにより生命活動を停止した同冥は、あらゆる世界を問わずに全て死後は冥界へと帰って来る。
「……」
棺桶の前に私は立ち、大剣で身体を貫いて死んだ同冥の1人がいる。
身体に触り、スキル「サイコメトラー」でこの同冥の情報を読取った。
同冥の個体名は、冥土
死亡原因は自害。罠に嵌り、ご主人を殺されたことで自身が持つ大剣で死亡した。
「――この個体は失敗だったかな」
基本的に私達のスペックは平均ではあるものの、仕える主、そして名前を得たことによる個性の発現による精神成長によって、メイドスペックを十全に生かせる者もいれば、活かせない者もいる。
同じスペックのモビ◯スー◯に搭乗したとして、乗るパイロットの技量で変わる認識に近い。
「こんな駄メイドはさっさと消してしまいたいけど……。ちょうどメイドを派遣してほしいとの依頼があったから、せっかくだし、先に久しぶりにアバターを改良して、新しく優秀な
そう決めると、私は蚩尤を吸収することを先延ばしにして、まずは新しいメイドアバターを創り出すために、メイド安置所からメイド製造所へ移動した。
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