閑話5 幼馴染に仕える系メイド【2】
あれ……、私どうしたんだっけ。
確かヨルツーと同棲するにあたってルールを決めようとしてからの記憶がまるでない。
身体を起こして辺りを見回してみた。
そこは私が通っている「素戔嗚分校」で、私がよく木刀を振っている道場であった。
着替えた覚えがないのに、自宅で来ていたジャージではなく、探索者としての装備一式へと変わっている。
「ほら、いつまで狐につままれたみたいに呆けてるの。さっさと構えなさい」
振り返ると、そこには私がいた。
正確に言うと今の私ではなく、冥王さまが示してくれた最高到達点にある未来の私が、そこにいた。
「どう、いう、こと?」
「ここはJC私の精神世界。現実世界のJC私はヨルツーに眠らされているわ。――油断しすぎよ。ルールを作るのなら事前に設定しておきなさい。ルールを作る前に、阻害されたら、やりたい放題になるじゃない」
「やりたい放題って――」
「まあ、心配なくても良いわ。お嫁にいけなくなるような事はされなかった……ハズ。なにをしていたか聞いたら、羞恥心で寝込むかもしれないけど、何も問題ないわ。過去の私が経験した道よ」
大人私が顔を赤らめて苦笑いしながら言ってきた。
ちょ。ヨルツー!!
なにしてくれてるのよ!!
「ゴホン。話を戻すけど私はヨルツーの術式で現れた幻影。記憶の影法師」
そう言った大人私は、刀の柄に触れて刀を引き抜いた。
光を吸い込むほどに黒い漆黒の刀身。
刀マニアではない私でも、その芸術的な美しさに私は息をするのも忘れそうになる。
「ヨルツーが日本ランキング7位に上がったお祝いにくれた刀「盤古」……。ダンジョン曼荼羅に出現する
「――そんなすごい刀を持っていたのに、どうしてあのオーガには使わなかったの?」
「え。あんな雑魚に私の愛刀を使うわけないでしょう。あの程度の相手は、武器屋で売っている量産されているもので十分よ」
「…………それで、その愛刀を、オーガに無様に負けた私に見せる意図はないよ」
「私だから分かるでしょう。単純にJC私に見せびらかしたいだけ」
我ながら性格が悪い!
でも、正直に行って羨ましいって思ってしまった。
刀の美しさと相まって、ヨルツーがそのレベルの物を作って渡したというのが、更に羨ましさに拍車をかけた。
「あとは、――ヨルツーの刀で斬り殺されるなら、JC私も満足してイケるでしょう」
「 え 」
そう、大人私が言った瞬間。
肩から斜めにザックリと斬られた。
どう斬られたか、私には感知も出来なかった。
ただ気がついたら、私は、何も抵抗出来ずに殺されたのだ。
痛みのあまり膝を床についたものの、斬られた痛みは一瞬で引き、斬られた痕跡もなくなっている。
「どう、なってるの、よ」
「JC私。格ゲーをやったことあるでしょう。此処は格ゲーでコンボ練習するモードのような場所なの。ダメージは一瞬入るけど、直ぐに回復するわ。これから私がJC私の見えるレベルでゆっくりと業を発動させて、殺していくから、身を持って感じて、業を覚えていきなさい」
「……私を殺すのは確定なのね」
「当たり前なことを聞かないでよ。業を出す以上は必殺でないとダメだと師匠からも言われてるでしょう。あ、そうそう、痛みのあまり失禁しないでよ。ダメージは回復するけど、失禁は無かったことにはされないのと、――現実世界でも連動しているから、今だと、ヨルツーに失禁の後始末されることになるわね」
「はぁぁぁ!?」
「まあ、ヨルツーに恥ずかしい事をされたくなかったら、必死で抗ってみなさいよ。未熟でどうしようもなく弱い私?」
「っ。いいわよ。やってやろうじゃない! どんな業がこようとも、絶対に恐さで失禁なんてしないんだからっ。来なさいよ! 最強で最高の私!!」
……
……
……
「あれ……、ここは」
目を覚ました私が見た天井は、見慣れた天井だった。
私の部屋の天井だったので、当たり前だけど。
確か私はソファでヨルツーに無理矢理眠らされたハズ。
寝起きで意識が朦朧している状態で、辺りを見回した。
時計が目に入った。
時間は夜8時を回ったところ。
それよりも問題なのは日にちだ。ヨルツーに無理矢理眠らされてから、4日も経っている。
「いやいや。どうなってるのよ!!」
「おはようございます、お嬢様」
「ヨルツー! 私に変なことをしてないでしょうね!」
「変な事をするわけがございません。私はメイドですよ? セクシャルハラスントは元よりメイドハラスントなど以ての外です」
「本当でしょうね……」
ハッキリ言ってメイド状態のヨルツーは、まるで信用できない。
メイドの職務のためなら法律や論理や倫理など無視するのが当然。ありとあらゆる事が超法規的措置となると思っている。
全く! あの腹黒メイド。ヨルツーを碌でもない教育をして!!
「ええ。メイドの職務を全うしただけです」
「――何をしたのか聞かせてくれる?」
「特に変な事はしておりません。食事、排泄、お風呂などなどメイドとしての最低限の職務遂行をしたまでです」
「してるじゃない! 思いっきり変な事をしてるじゃない!!」
「?」
首を傾げて意味が分からない風を装うヨルツー。
こいつ……絶対に確信犯だ。
私をわざと眠らせて、私の身体を好き勝手したに決まっている。
文句を言ったら、どうせ大人私との事を言い訳にしてくるでしょうね。
……どうしてくれようか。
「……ねえ、ヨルツーはメイドとして私の望みを出来るだけ叶えてくれるのよね」
「メイドたるもの主の望みを最大限に叶えることが義務ですので」
「そう。なら、「メイド」十六夜冥夜ではなくて、「幼馴染」十六夜冥夜を希望するわ」
「……………………………え」
ヨルツーは呆気にとられた表情をした。
「なに? 出来ないの? ヨルツーにとって私のお願いは聞けない事なの?」
「――いえ。お嬢様がお望みとあらば、是非もありません」
ヨルツーはそう言った。
するとメイド服が淡い光を放ち、瞬く間にメイド服は白シャツとジーパンというラフな格好へと変化した。
ヨルツーは顔を真っ赤にして睨みながら言ってきた。
「ぅぅぅ、これで満足ですか!!」
「いや、その反応はおかしいでしょ」
「おかしくありません! メイドにとってメイド服とは肌と一緒っ。今の私はビーチで水着じゃなくて、下着でいる人の気持ちなんです」
「その分かりそうでわかりにくい例えはどうなの……?」
ああ、それにしても、凄く眠い。
4日ぐらい寝ていたはずなのに――。
「精神世界の疲労が、現実世界にフィードバックされているから、たぶんその分の疲れが出てきたんだろうね。よし。それじゃあ、メイドに戻って」
「だめ」
「いや、でも、凛は凄く疲れてるじゃない? ここはメイドしてマッサージでもして疲労解消をしてあげたいなぁと思うわけですよ」
「メイドのマッサージよりも、幼馴染の添い寝のほうがいい。だめ?」
「……はあ、わかりました」
そう言うとヨルツーは、ベッドの中に入ってきた。
なんだか、普通のヨルツーと一緒に寝るのって久しぶりな気がする。
――メイドのヨルツーと添い寝なんてしたら、貞操の危機を感じてゆっくり寝るなんて出来ないのだから仕方ない。
私は、布団の中に入ってきたヨルツーに抱きついた。
「ちょ、凛!」
「精神世界で、私が何回も何回も何回も何回も――執拗に殺してきて、ちょっと不安なの。しばらくこうさせて」
「もう――。しかたないなぁ。抱きつくだけだからね?」
「メイドのヨルツーじゃないから、変なことはしないわ」
「むっ。まるで私がいつも変なことをしてるようじゃん」
「してるからね?」
「名誉毀損だ! こうなったら、メイドに戻って名誉挽回を――んっ」
メイドに戻りたがるヨルツーの口を、私の唇で塞いだ。
顔を真っ赤にするヨルツー。なんだか、凄く初々しすぎて、なんだか可愛い。
「ぅぅ、何する気。抱きたいなら、メイドの私としてよ。幼馴染にこんな事するのは間違ってるっ。私は凛と違って性欲はそんなに強くないんだからね! 凛みたいに引き出しを二重底に改造して、中学生が持っちゃあだめなイボイボのあるオモチャとか、あ、メイド状態じゃあないから、つい、口が――。あれ、凛、なんだか、顔が、凄く怖いよ? 笑顔。笑顔。凛には笑顔が似合うから、そんな夜叉みたいな顔は止めてほしいな……。ひぃぃぃいいい」
その後、ベッドの上で格闘するヨルツーと騒いだ結果。
お母さんにヨルツー共々、仲良く怒られることになる。
……メイドのヨルツーは色々と無難に熟すこともあって、こんな風に2人そろって怒られるというのは、久しぶりのことだった。
やっぱり、ヨルツーを
いつか……絶対に文句をいってやると、私は密かに誓った。
※*※*※*※*※*※※*※*※
補足1
夢の中で凛が戦っていたのは、大人凛は記憶の影法師と名乗っているが、その正体は精神体を凛の中に送り込んだ冥夜自身で、冥夜が凛の最高到達点を再び自身に投影した姿。
補足2
イボイボのあるオモチャは開封済み未使用品です
※*※*※*※*※*※※*※*※
これにてプロローグからの幕間はおしまいです。
次回から一章の開始となります。
引き続き、★や♥、コメントによる応援よろしくお願いします。
執筆に辺り大変励みになっています!
↓からは次章予告です。
分けるほどの文量でもないので――。
ネタバレなどはないので、どんな物語になるか想像して貰えればと思います。
またプロットの部分も少しだけ含まれていますので、多少変わる可能性はあります。
※*※*※*※*※*※※*※*※
「お前のようなピカピカ光るしか出来ないヤツは、囮役がお似合いなんだよ!!」
「冥王――――!! 助けてくれぇぇぇぇぇ」
「どこにでも
――その場所を――メイド界と称し……略して冥界と呼ぶ
「私は影のような存在。記憶に残らなくても、記録に残ればいい」
「冥王でメイド王って、痛いやつじゃんwwwww」
――天国に行って、今度こそお母さんと一緒にずっと過ごしたい――な
「私という超有能なA級メイドを雇ってみませんか?」
「一歩間違ったら、ここからモンスターが溢れてスタンピードの可能性があるじゃあないですか」
「オレはどんな女でも必要があれば抱くが、少女のガワを被った
「オルタナティブとナイアルラトホテプは、私たちの中で害悪になる可能性が高いから、さっさと始末しましょう」
「日本ランキング4位、今の日本における最大最強のヤクザ組織「
「メイドですから、お嬢様のココロを読む程度のこと造作もございません」
――コイツは刑務所に入ってないだけの極悪人である
「私が死んだら、同冥の誰かが「十六夜冥夜」を引き継いでくれたらいいよ」
「
「ご主人様の全てを識っているのは、仕えるメイドだけでいいのです。」
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