悪服す時、義を掲ぐ

羽田トモ

一章

第一話 プロローグ


 燃えるような紅血。激しい血潮。生血の温かさ。鮮血の匂い。鉄の味。



 五感のすべてが赤く染まるこの場所に、男が一人立っていた。



 左手は返り血を浴びたのか、赤く染まっている。



 男の周囲には、この場所を赤く染め上げるために血を流した死体が転がっていた。



 死体は、原型を留めていない。



 血に染まっていない男の右手。



 その掌中に、まだ生きている人間がいた。




 「やめてくれえええええええええええええッ!!!」




 悲痛交じりの叫び声が上がる。






 ――しかし、






 男の右手が閉じ、男の両手が血に塗れた。

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