悪服す時、義を掲ぐ

羽田トモ

プロローグ


 燃えるような紅血、激しい血潮、生血の温かさ、鮮血の匂い、鉄の味――五感のすべてが赤く染まるこの場所に、男が一人立っていた。


 左手は血に染まり、周囲には血に塗れた死体がいくつも転がっている。そのどれもが、原型を留めていない。


 血に染まっていない男の右手。その掌中に、まだ生きている人間がいた。


「やめてくれえええええええええええええッ!!!」


 悲痛交じりの叫び声が木霊する。しかし――、


 右手が閉じられ、右手の人間も息絶えた。


 男は、顔色一つ変えずに血の海の中に立つ。

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