『アヤ湖幻想』

やましん(テンパー)

『アヤ湖幻想』


 アヤ湖は、タレルジャ王国北島から、南島に股がる、まさに神秘の湖である。


 広さは琵琶湖の1.5倍。


 一部は観光地化されている。


 しかし、大部分は王宮の一部であり、一般人は入れない。


 けれども、最深奥は、国王夫妻と、王女さま巫女様、教母さましか、入れない神聖な場所である。


 そこは、この世と、あの世を跨いでいるとされている。


 所謂、三途の川に相当する。『カレワラ』ならば、トゥオネラ川であろう。


 白鳥は、いないらしいが。


 もし、そこに立ち入ることが赦されれば、死の国に入ることが出来る。それは、『真の都』と呼ばれるのだ。


 そういう、伝説となっている。


 王宮は、そこは、けして公開しないし、侵入できないように特別なシステムを構築している。


 これまでに、無許可侵入できた者は一人もいなかった。


 もちろん、ヘレナ王女の許可があれば、話しはまるでちがってくる。


 ぼくは、ヘレナ王女とは、彼女の『伝記』を最後まで書くという約束になっている。しかし、そう、つまり、ぼくは、疲れたのだ。


 伝記の記述は、癌の手術以降は止まったままである。


 もうだめだ。


 そう、確信はした。


 したが、あと1歩なのだ。


 一応第4部までは、書き終えた。


 最終、結論部の第5部が残っている。


 非常に難しいところであり、宇宙理論の進展を、いや、その、結果を待っていた。


 いま、それは、急速な進展を見せてはいるが、更に謎を産み出してもいるのだ。


 ぼくには、もはや、追いきれないで、老いきれるだけだろう。


 だから、王女さまに、引導を渡してもらうべきではないか?


 もう。終わりではないか?


 しかし、やはり、決めかねているのだ。あまりに、なんの成果も出せていないからだ。


 

 『もう、おわり🔚!』


 と、叫けべばよい。

  

 ヘレナさまは、三次元の存在ではない。


 三次元に存在するはずがないのに、なぜだか、存在している謎のなにかなのだ。


 彼女は、クールである。


 感情には左右されない。


 約束は必ず守る。


 ただ、身体を提供している、弘子さんの意志が非常に、強くて、ヘレナさまに影響を与えうるらしい。


 弘子さんは、幼馴染みである。ふたりで、あの、白旗の町を遊んで過ごしたのだ。



 いまは、まだ、決めない。


 しかし、マーラーさまのパクリだが、ぼくには、此の世に幸せは無かった。


 そんな気がするのだ。


 ぼくが、やまに入っていったって、何も変わらない。


 絶対にだ。


 誰も、悲しまないだろう。


 慌てることはないが、たしかに、疲れたのだ。


 ヘレナさんは、それは、もう、お見通しだろう。

  

 しかし、まだ、このくらいは書ける。でも、これに、意味なんか無いさ。才能がないのだから。


 街を歩いても、深い絶望感にしばしば襲われるのだ。地獄は足の下に拡がっているぞ。


 ここでは、モーツアルトは、鳴らない。


 もし、まだ、小さな希望があるならば、もしだけれど、なんとかしなければならないだろうか。


 その前に、幸子さんが、お饅頭嵐を降らせるだろう。



 なぜ、戦争するんだ?


 なぜ、停戦しないんだ。



 枕からは、福祉施設の香りがする。


 しゅわしゅわした薬品のせいだろう。


 あらゆる社会の動きが、ぼくを絶望とくたくたに追い込んでいる。


 先は、暗く、深い。


 アヤ湖の底は、無いとも聞くのだ。


 霧深きアヤ湖よ。

 

 あなたは、ぼくを、受け入れるのだろうか。



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『アヤ湖幻想』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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