第二話③
竜族の息吹がおこした火は、俺たちが扱うようなものとは違い、威力の強いものだった。その証拠に、ものの数十秒で油が熱され、ポコポコと音を鳴らし始めた。
透かせば向こうの光が見えるほどに薄くスライスされたテイトウイモを、サティーは鍋に落としていった。いわゆるポテトチップスだろう。
「テイトウイモはこんなふうに薄くスライスして揚げて、塩をふって食べると、とっても美味しいのよ。片手でも食べられるし、手軽にエネルギーがとれるから、ガークの好物でもあるの」
「似たような料理を知ってるよ」
「まあ! 偶然だね!」
似たようなも何も、同じ料理だ。「俺たちの世界では、ポテトチップスって呼んでる」
「なんだか可愛らしい響きね」
「そうか?」
俺たちは当たり前に使っているけれど、サティーにとっては初めて聞く単語なのだろう。聞きなれない外国語を、音の響きだけで語感を判断する感覚に近いのかもしれない。
ジュワジュワと音を立てながら、ポテトチップ……もとい、テイトウイモのフライは出来上がった。サティーはそれを網で掬い上げ、油を切ったあと、いつの間にかジュヴァロンが用意していた皿に盛り付けていく。
「若い子はやっぱりスナック菓子が好きなのね〜」
筒原さんは俺の背中越しに、竜族の民たちの作業を眺めていた。スナック菓子という概念なのかはともかくとして、やがて俺たちに、テイトウイモのフライが振る舞われた。
俺は腹が減っていたこともあって、誰よりも先にそれを頬張った。
「美味い!」
感嘆の声が飛び出した。食感や味は、俺の想像通りのものであったが、空腹と、料理が出来立てだったこともあり、美味さは倍増していた。
「喜んでもらえてよかったわ。有り合わせでごめんね」
「充分美味いよ、ありがとうな」
「コタロウくん、美味しいかい? ほら、ばあちゃんの分も食べなさいな」
「私もダイエット中なの。空野くんが全部食べなさい」
筒原さんはがダイエット中だというのは初耳だ。脂っこいものが苦手なのか、異世界の食べ物は口にしたくないと思っているのか。もし後者なら、その考えを改めたほうがいい。俺たちは元の世界に戻る方法がわからないうちは、この世界で衣食住をこなしていかなければならないのだから。
結局、テイトウイモのフライは、俺とガークが二人で平らげることになった。ガークはさすが好物なだけあって、ガツガツとむさぼるように食べていたけれど、そんなに揚げ物を食べて太っていないのが凄い。それだけガークの活動量が多いということなのだろう。
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