二十二日目
どうにかフェニックスを見つけられそうだ。以下にこれまでの情報をまとめる。
先ずは魔法形跡についてだ。結論から言うと、魔法形跡は見つかった。例の白い羽が流されてきた川の上流にあった湖を調べたところ、水底と水際には魔法形跡が残っていた。が、風魔法、火魔法はほとんど検出されず、治癒魔法が非常に強く検出された。よって、水中で治癒魔法を強く使用していると推定できる。
仮定に仮定を重ねることにはなるが、治癒魔法が検出される根拠は凡そ察しがつく。私は、フェニックスは水に飛び込むことで消火する生態を持つと仮定している。そこから考えられるのは、フェニックスが完全な耐性を有していないことである。炎に対する完全な耐性を何かしらの進化によって獲得しているのなら、そもそも消火する必要性がない。
さらに、水浴びや砂浴びを行う必要性が皆無なのだ。汚れや寄生虫を落とすことを目的にそれらを行うのだから、燃えているのなら行為そのものに意味がない。汚れも寄生虫も焼き尽くしてしまうはずだ。
つまり、フェニックスは燃えたことによるダメージを、水中で消火すると同時に回復していると考えられる。再度記載するが、これは仮定の上での仮定のため信憑性は高くない。しかし、考えられる可能性もそう多くない。他の魔法生物がこの湖で治癒魔法を使うことも考えにくい上、この山に治癒系の魔法生物がいた形跡は確認されていない。
そのため今後は、それ以外の可能性を考慮する必要性の少なさ故に、この仮定を基準に捜索を継続する。
そして、湖以外の場所の魔法形跡も発見できた。森林限界付近に熊の骨の一部を発見した。それらに魔法形跡を確認したのだ。山の全体像を把握するときにもっとよく見ておけば良かった。その時に見つけられていればより容易に捜索を続けることができただろう。いや、彼は『できなかったことよりも、できたことに目を向けろ』とよく言っていた。彼から言われ続けて、
熊の骨からは風魔法と火魔法の形跡を確認した。恐らく、フェニックスが狩ったものと見て間違い無いだろう。骨の周りに付いている肉が腐り始めていることから、少し前、具体的に挙げるならば冬であることも考慮して、一ヶ月程前から放置されていたと考えるのがいい線だろう。その時期はフェニックスが目撃された時期とも一致する。やはり間違いない。
熊やマンドレイクがいた痕跡はあったにも関わらず見ることがなかったのは冬眠の影響かと勘繰っていたが、今回の発見により、フェニックスから避難しているか捕食されてしまったことがほぼ確実となった。
少しずつだが確実にフェニックスに近づいている。さらに情報を集めるために私とモロは捜索を継続する。
ソラの方ではカラスとの会話がずいぶん進んでいるようで、今日確認しに行ったところ、主な内容はもう聞き終わり雑談をしているところだと言う。
結果を聞くと、良い情報は得られなかったそうだ。カラス達にフェニックスらしき鳥の情報を聞いても『ヌシ』と答えるばかりで有用な情報は聞けなかったという。『大きい』、『鳥』、と言うと『ヌシ』以外の返答は返ってこなかったそうだ。カラスは賢いといえど、人ほど言葉は多くなく、それ以外の聞き方も難しいらしい。
その『ヌシ』に会いたいと言っても、カラス達は怖がって連れて行ってくれないとのことだ。なのでこれ以上情報は得られないとして質問を中断して、雑談兼餌付けを始めていたようだ。
つまり、生態系が変わったという推定は正解だと言えそうだ。カラスが言う『ヌシ』とは先日遭遇した大型のカラスのことだろう。仮にフェニックスと特異個体のカラスが同時に生息していたとするならば、二個体を判別する呼称を必要とするはずだ。
その山で弱肉強食の最上位に値する個体を判別できないということは即ち、身近な危険を具体的に伝える手段を持たないということ。フェニックスの危険性は熊の残骸から既に確認済み。カラスが恐れている様子から、特異個体のカラスの危険性も
それらを判別していない時点で、片方は呼称が付くほど長く生息していないはず。フェニックスが最近この辺りに移動してきた可能性はこれでかなり上がった。
同時並行で生息環境を変えざるを得なかった原因を探す必要がありそうだ。
以上から、今後の捜索はフェニックスの情報収集を継続しつつ、環境変化の原因を探ることとした。フェニックスの情報収集は前述の通り私とモロで継続、ソラとスピナは野生生物の反応などから環境変化の原因を探す。
ヒントは集まってきている。あとは私がそれを繋ぎ合わせられるかどうかだ。他の隊員達は総合的な思考力に少し欠ける。私が答えを見つけ出さねばならない。
記録は以上だが、久しぶりに少し余談を挟みたい。モロのことについてだ。ここのところ、あまりに昔話を聞く頻度が高すぎる。年配の方は昔話やら自慢話をしたがるというが、年齢は関係なさそうだ。奴は年配というほどの歳ではあるまい。古い友人が年上と関わるのは面倒だと言っていたが、今となってはその気持ちがよく分かる。なんでもない相槌を強制されるこっちの身にもなって欲しいものだ。私は研究のためにフィールドワークに出ているのであって、お前の話を聞くためにいるのではない。と、一言でも言ってやれれば良いのだが、ここで仲間割れを起こしてはよくない。疲れたふりをして、ため息を何度吐いたことか。
とにかく早く、フェニックスには出てきて欲しいものだ
勇者暦7■■年
3代目 《極端な勇者》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます