第38話 サラマンダーステーキは火事になる
「えーっと、ここの通りを左に行って、2つ先の路地に入って……」
こんにちは、ヘンリエールです。
今日はなにやらすごいステーキを出すお店があるという噂を聞いたので、ちょっと行ってみることにしました。
調べてもはっきりとした情報が出てこなかったので、お店を探すのに苦労したわ。
「たしか、この辺りのはず……あ、あったわ!」
〝Friendly Fire〟
「……味方撃ち?」
大通りを外れた路地を入り、さらにその先の階段を降りた地下にあることから、かなりアングラ的なお店なのだろう。
「だ、大丈夫かしら。一応入店の合言葉は調べて来たけど……」
このお店には入るのに秘密の合言葉のようなものが必要で、まあこの辺りはスラム街の屋台のおじさん達からちょちょっと情報を。
コン、コン。
「すいませーん、食事にきたのですが……」
「……合言葉は?」
「えっと……『サラマンダーより、ずっと美味い!』」
…………。
ガチャッ。
「いらっしゃい、Friendly Fireへようこそ」
店内に入ると、そこには様々な種族のヒューマンが食事を楽しんでいた。
人間族、ドワーフ族、サイクロプス族、人狼族……
「おや、同郷か。珍しいな」
「あ、どうも……」
カウンターに座っていたダークエルフの男性に声をかけられる。
エルフ族は菜食を好む人が多いから、ステーキ屋でエルフに会うのはたしかに珍しいかも。
「ご注文はお決まりで?」
「あっはい。あのー、ファイアーステーキっていうのを食べに来たんですけど」
「ほう……」
「嬢ちゃん、やるねえ……」
えっなにその反応。
周りのお客さんも、まるで何かのショーでも始まるかのようにこちらに注目し始める。
「ファイアーステーキは6000エルだ。ちと高いが、本当に良いんだな?」
「えっ……だ、大丈夫です。お願いします」
いやめちゃめちゃ高いじゃない。ハーピィの卵かけごはんより高いわ。
でも一体どんなのが出てくるのかとても気になる。
「そいじゃあ、少しばかりお待ちを」
……。
…………。
「はいお待ち……これがファイアーステーキだ」
「これが……?」
しばらくして席に運ばれてきたのは、大きめの鉄板皿に乗せられた、赤い鱗のようなものが付いたままのお肉だった。
「あの、これって生肉、ですよね」
「まあ待ちなって、ここからがファイアーステーキ……いくぜっ!!」
店主がステーキに火のついた藁束を近づける。すると……
ボオオオオオオオオ!!!!
「きゃあああああああ!?」
「「「イエエエエエエエファイアアアアアアアア!!!!」」」
ステーキに火が付いた途端、ものすごい勢いで肉が燃え上がり、天井まで火柱が。
「どうだ嬢ちゃん! これがフレイムサラマンダーのステーキだぜえ!! 輝いてるよなあ!!!!」
「鱗がめっちゃ燃えるんだよ!! 危険すぎて鱗を取り除かない調理は違法なんだけどなあ!!」
「だ、大丈夫なんですかこれ!? 色々と大丈夫なんですかこれ!?」
「大丈夫じゃねえええええ!! でも今この瞬間だけはクソルールは燃えカスになって効力を失ったぜええええ!!」
「なってないなってない!!」
しばらくするとステーキは自然と鎮火した。あーあ、天井まっ黒じゃない。
設置必須なハズの火災報知魔道具も発動しないし……多分わざと起動させてないわね。
「なるほど、お店のことを調べても情報が出てこないわけだわ……」
―― ――
「さあ良い感じに焼けたぜ。鱗の部分は食えないから、切り外して下の肉を食ってくれ」
「わかりました」
フレイムサラマンダーのお肉なんて食べるの初めてだわ。
……お腹の中で燃えたりしないわよね?
「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……はぐ」
…………。
……………………。
普通だわ。
【Friendly Fire/フレイムサラマンダーのステーキ】
・お店:店内設備も調理法も違法。
・値段:くっそ高い。ただ肉が燃えるだけ。
・料理:クセは無いけどジューシーさも無い。
ヘンリエール的総合評価:49点。
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